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触媒反応の性能が出ないとき、打ち手は2通りに分かれます。
反応律速なら「化学」を触る——温度、触媒の活性、組成。拡散律速なら「形」を触る——粒径、細孔、担持の仕方。
そして間違ったほうを触ると、まったく効きません。だから最初に見極める。
この記事の結論
- 粒径を変えて速度が変わるかを見る。これが最も確実で単純
- 変わらなければ反応律速。半径2倍で速度が半分なら拡散律速
- ただし両方が拡散律速だと、この方法は使えない(文献が明記)
- だから片方は必ず微粉まで砕く。反応律速側を1点は確保する
1. 3つの見極め方

文献は有効係数 η を推定する方法を3つ挙げています。
| 方法 | やり方 | 実験回数 |
| (a) 触媒粉砕法 | 細かく砕いて数種類の粒径を作り、同一条件で速度を測る。それ以上速くならなくなった微粉体の速度が η=1。他の粒径の速度をそれで割れば η が出る | 2回以上 |
| (b) 粒径変化法 | 粒径の違う2種で速度を測り、φ と η の関係式から反復計算で解く | 2回 |
| (c) 単一実験法 | 1個の反応速度の値から粒内拡散抵抗を評価する。真の速度定数が不明でも使える | 1回 |
実務では (a) がいちばん素直です。「砕いて速くなるか」を見るだけなので、理屈を知らなくても結果が読める。
2. 粒径を変えると速度がどう動くか
Thiele数 φ は粒子半径に比例します。だから半径を s 倍にすれば φ も s 倍になる。そのとき見掛けの速度(η に比例)がどう動くかを計算しました。
| 元の φ | 領域 | 半径を2倍にすると | 半径を1/2にすると |
| 0.05 | 反応律速 | 0.996倍(変わらない) | 1.001倍 |
| 0.30 | 遷移 | 0.878倍 | 1.039倍 |
| 1.00 | 遷移 | 0.620倍 | 1.305倍 |
| 3.00 | 遷移 | 0.531倍 | 1.751倍 |
| 10.0 | 拡散律速 | 0.509倍(ほぼ半分) | 1.931倍 |
判定は単純です。
- 粒径を変えても速度が変わらない → 反応律速。粒子の中まで原料が届いている
- 速度が半径に反比例する → 拡散律速。外側の殻でしか反応していない
- その中間 → 遷移域。η は 0.2〜0.95 のどこか
拡散律速で速度が半径に反比例するのは、反応している「殻」の厚みが粒径によらず一定だからです。粒子が大きくなると体積あたりの外表面積が減るぶん、単位質量あたりの速度が落ちる。
3. この方法が使えなくなる条件
ここが実務でいちばん引っかかる点です。文献はこう釘を刺しています。
「この方法は二つの触媒粒子がともに拡散律速の状態にある場合には使用できない。…条件式が実質上一つになってしまって、有効係数を一義的に決定できない。」
なぜそうなるのか、計算すると見えます。半径を2倍にしたときの速度比を、元の φ を変えながら並べます。
| 元の φ₁ | 速度比(R を2倍にしたとき) | |
| 0.3 | 0.878 | 情報がある |
| 1.0 | 0.620 | 情報がある |
| 3.0 | 0.531 | そろそろ怪しい |
| 10 | 0.509 | 0.5 に張り付く |
| 30 | 0.503 | 0.5 に張り付く |
φ が大きい領域では、速度比が 1/2 に張り付いて動きません。
φ₁ = 10 でも 30 でも 100 でも、答えは「半分」。測っても φ の値が分からないということです。だから η も決まらない。
実務上の教訓は明確です。
2種類の粒径を選ぶとき、片方は必ず「これ以上砕いても速くならない」ところまで砕く。反応律速側の点を1つ確保しないと、何回測っても答えが出ません。
方法(a)の触媒粉砕法が「それ以上速くならない微粉体」を基準に取るのは、まさにこのためです。基準点そのものを実験で押さえにいく。
4. 粒径以外の手がかり
粒径を変える実験ができないときの、状況証拠を挙げておきます。
| 観察 | 示唆 |
| 見掛けの活性化エネルギーが文献値の半分くらい | 拡散律速。η ≒ 1/φ ∝ 1/√k なので見掛け速度が √k に比例する |
| 高活性の触媒に変えたのに性能が上がらない | 拡散律速。k を上げても φ が上がって打ち消される |
| 温度を上げても効きが鈍い | 拡散律速。拡散係数の温度依存性は反応より小さい |
| 流速を上げると速度が変わる | 境膜内の移動が律速(粒内ではなく粒子の外側) |
| 使用済み触媒を割ると外周だけ色が違う | 拡散律速の直接証拠。反応やコーク析出が外殻に偏っている |
4行目は7つの過程のうち(1)(7)——ガス境膜内の移動——が効いている場合です。粒内拡散と境膜移動は別物で、対策も違います(前者は粒径、後者は流速)。
5行目は現場で最も分かりやすい証拠です。使用済み触媒を割って断面を見る——これだけで拡散律速かどうかが分かることがあります。
5. 見極めたあとの打ち手
| 反応律速なら | 拡散律速なら | |
| 効く | 温度を上げる/触媒の活性を上げる/濃度を上げる | 粒径を小さくする/形状を変える(リング・三葉)/細孔を太くする/外殻担持にする |
| 効かない | 粒径・形状をいじる | 触媒を良くする/温度を上げる |
| 次に見るもの | 除熱(多重定常状態) | 圧力損失(粒径を下げた分) |
右下に注意してください。粒径を小さくすると圧損が上がります。固定層の圧損は粒径の2乗に反比例するので、半分にすれば4倍。拡散律速を解消しにいくと、今度はブロワの動力とぶつかる。
この行き詰まりを別の方法で回避したのが流動層です。
スケールアップで入れ替わる
最後に1つ。律速段階は固定ではありません。
ラボでは粉末の触媒を使い、実機では成型した数ミリの粒を使う——これだけで φ が2桁変わります。ラボで反応律速だったものが、実機では拡散律速になる。
スケールアップの記事で「ラボと同じ速度式が実機で合わないときは律速段階を疑え」と書いたのは、この意味です。実機で使う粒径のまま速度を測らなければ、設計に使える速度式は得られません。
まとめ
反応律速なら化学を、拡散律速なら形を触る——間違えると効きません。見極めの基本は粒径を変えて速度が動くかを見ることで、変わらなければ反応律速、半径に反比例すれば拡散律速です。ただし2つの粒径がともに拡散律速だと速度比が 1/2 に張り付いて情報が得られず、有効係数を決められません。だから片方は必ず「これ以上砕いても速くならない」ところまで砕いて反応律速側の基準点を確保します。粒径を変えられないときは、見掛けの活性化エネルギーが文献値の半分、高活性触媒に変えても効かない、使用済み触媒の断面が外周だけ変色している、などが手がかりになります。そして律速段階はラボと実機で入れ替わるので、実機で使う粒径のまま測ることが設計用の速度式を得る条件です。
参考文献
- 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第9章 9・3・4「有効係数の推定法」(触媒粉砕法・粒径変化法・単一実験法、式9・53・9・54 と適用限界) Amazonで見る
- 小宮山宏『反応工学 反応装置から地球まで』(拡散律速か反応律速かの見極め) Amazonで見る
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第27章「固体触媒反応」 最新版をAmazonで見る
化学プラント大全 
