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膜分離の基礎|省エネ分離の選択肢【駆動力は3種類】

SP-04 membrane-separation

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ここまで見てきた分離操作——蒸留吸収抽出晶析——は、すべて相の変化か、相間の分配を使っていました。

膜分離は違います。大きさや電荷の違いで、通すか通さないかを決める。相変化を必要としないので、一般に省エネルギーな分離法といわれます。

この記事は分離工学シリーズの1本です。蒸留との関係は蒸留の完全ガイドにまとめています。

この記事の結論

  • 膜の名前が、そのまま分離の方法を表している。まず名前を覚えると早い
  • 駆動力は圧力差・濃度差・電位差の3種類
  • 分離機構はふるい分け・選択吸着・溶解拡散・電荷の4系統
  • 相変化がないので省エネだが、膜の寿命と目詰まりが運転費を決める

1. 大きさで並べると全体が見える

相手の大きさで使う膜が決まる

膜分離を理解する近道は、相手の大きさで並べることです。文献の表現を借りればこうなります。

膜による分離では、分離の対象としている微粒子・分子・イオンの大きさによって使用する膜が異なり、使用する膜の名称がそのまま膜分離の方法を表している。

対象物のうち最も小さいのは気体分子で、これは気体分離膜で分けます。大きいほうには赤血球や白血球などがあり、こちらはろ過膜で分けられる。

つまり「何を分けたいか」の大きさが決まれば、使う膜がほぼ決まる。これが膜分離の入口です。他の分離操作が「平衡関係を調べる」ところから始まるのに比べると、ずいぶん直接的です。

2. 6種類の膜を1枚の表で

駆動力は3種類ある
膜の種類何を分けるか駆動力分離機構応用例
精密ろ過膜溶液中の固体微粒子圧力差ふるい分けワイン・ビールの無菌ろ過、無菌水の製造、血漿の分離
限外ろ過膜溶液中に溶けている大きな分子圧力差ふるい分け油分混合物の分離、塗料工業のペイント回収、果汁の清澄
逆浸透膜溶媒と溶質圧力差選択吸着海水の脱塩、IC用超純水の製造、廃水処理
透析膜溶液中の溶質濃度差溶解・拡散人工腎臓、高分子と低分子の分離
気体分離膜気体圧力差・濃度差細孔内拡散/溶解・拡散酸素富化・窒素富化空気、人工肺、メタンとCO2の分離
イオン交換膜溶液中のイオン物質電位差電荷とふるい分け海水の濃縮(製塩)、アルカリの製造、メッキ工業の重金属イオン回収

この表の読みどころは駆動力の列です。

  • 圧力差:押し込む。ろ過系と逆浸透。ポンプの動力がそのまま運転費
  • 濃度差:勝手に移動する。透析。動力が要らない代わりに速度が遅い
  • 電位差:電気で引っ張る。イオン交換膜。電力が運転費

蒸留の駆動力がひとつだったのに対して、膜には3つの選択肢がある。工場のどのユーティリティが安いかで方式を選べるということでもあります。

3. 「ふるい分け」だけではない

膜というと「細かいザル」を思い浮かべますが、表の分離機構の列を見るとふるい分けは4系統のうちの1つにすぎません。

分離機構膜の構造考え方
ふるい分け多孔質穴より大きいものは通れない。素直
選択吸着微多孔質膜の表面に選ばれた分子が吸着して通る
溶解・拡散非多孔質膜の材料そのものに溶け込んで、拡散して反対側へ出る
電荷とふるい分けイオン交換膜陽イオンだけ、陰イオンだけを通す

3行目の溶解・拡散が膜らしいところです。穴が開いていない膜でも分離ができる。分子が膜の材料に溶け込み、濃度勾配に沿って拡散し、反対側で出ていく。「溶けやすさ×拡散しやすさ」の積で選択性が決まるので、穴の大きさとは別の原理で選べます。

これは抽出の溶解度と同じ発想です。膜材料を「固体の溶媒」と見なせば、極性の考え方がそのまま効く。

逆浸透膜の選択吸着も直感に反します。海水から真水を取り出すとき、塩を止めているのではなく水を選んで通している——だから膜の表面と水の相互作用が性能を決めます。

4. なぜ省エネなのか、どこまで省エネなのか

膜分離が省エネといわれる理由ははっきりしています。相変化(蒸発)を必要としないからです。

蒸留は水1 kgを分けるのに水の蒸発潜熱を払います。膜は液のまま押し通すだけなので、払うのはポンプの動力。海水淡水化が蒸発法から逆浸透に置き換わっていったのは、この差が効いたからです。

ただし、いくつか条件が付きます。

  • 浸透圧に打ち勝つ圧力が要る:逆浸透では、濃くなるほど必要圧力が上がる。濃縮の後半ほど高圧になり、回収率には上限がある
  • 高純度が苦手:膜1段で得られる分離係数には限りがある。蒸留の段数に相当するものを作りにくい
  • 前処理が要る:膜を傷めるものを先に取り除く工程が付く

2つ目が重要です。膜は「粗く大量に分ける」のは得意だが、「最後まで詰める」のは苦手。だから実務では膜+蒸留膜+吸着のハイブリッドがよく組まれます。

典型例がパーベーパレーションによるアルコールの脱水です。エタノールと水は共沸するので蒸留では約95%で止まりますが、そこから先を膜で抜く。蒸留で共沸まで濃縮し、共沸の壁を膜で越える——お互いの得意を組み合わせた構成です。

共沸蒸留でベンゼンをエントレーナに使う古典的な方法に対して、第3成分を入れずに共沸を越えられるのが膜の強みです。

5. 運転費を決めるのは膜そのもの

膜プロセスの実務は、他の分離操作とかなり違います。装置ではなく、消耗品としての膜が主役だからです。

課題何が起きるか対策
ファウリング(目詰まり)膜面に付着物が積もり、透過流束が落ちる前処理、クロスフロー運転、定期洗浄
濃度分極膜面近くだけ濃くなり、見かけの性能が落ちる膜面の流速を上げて境膜を薄くする
膜の劣化薬品・温度・圧力で性能が落ちる。寿命がある運転条件の管理、定期交換

濃度分極は、吸収の境膜とまったく同じ話です。膜面に薄い層ができて、そこが抵抗になる。流速を上げれば境膜が薄くなるのも同じ。物質移動の問題として見ると、分離操作は互いによく似ています。

そして膜には寿命がある——これが他の分離操作と決定的に違う点です。蒸留塔のトレイは20年使えますが、膜は数年で交換します。膜の交換費が運転費の主要項目になるので、経済評価では必ず膜寿命の前提を確認してください。

逆に言えば、膜はモジュールを増やせば処理量を増やせるという利点があります。塔のように「太くするか高くするか」で悩まず、同じものを並べればよい。スケールアップのリスクが小さいのは、新規プロセスでは大きな価値です。

6. 分離方式を選ぶ順序

分離方式はこの順序で選ぶ

第6章の締めくくりとして、方式選定の考え方をまとめます。

  1. まず蒸留を当たる。実績・データ・設計手法が圧倒的に豊富で、判断が速い
  2. αを見る。1に近いなら段数が発散するので別方式へ。共沸があるかも同時に確認
  3. αを変える工夫を検討する。減圧抽出蒸留共沸蒸留
  4. それでも合わなければものさしを変える。沸点以外の何が違うかを探す

4番目の「ものさしを変える」が、この章で見てきたことです。

何が違うか使える操作
溶解度(液に溶ける度合い)吸収(気体から)、液液抽出(液から)
固体になる温度・溶解度晶析、昇華
固体表面への付きやすさ吸着(PSA・TSA)、クロマトグラフィー
大きさ・電荷膜分離、イオン交換

そして最後に、実務でいちばん効く一言を。1つの方式で全部やろうとしないこと。蒸留で粗く分けて膜で仕上げる、膜で濃縮して晶析で製品にする——得意なところだけを担当させる組み合わせが、たいてい最も安く付きます。

まとめ

膜分離は相変化を使わず、大きさや電荷で分ける操作です。膜の名前がそのまま方法を表しているので、対象物の大きさが決まれば使う膜がほぼ決まります。駆動力は圧力差・濃度差・電位差の3種類、分離機構はふるい分け・選択吸着・溶解拡散・電荷の4系統。蒸発潜熱を払わないので省エネですが、高純度が苦手なので蒸留や吸着とのハイブリッドが現実的です。そして膜には寿命があり、その交換費が運転費の主要項目になります。

これで蒸留・分離工学シリーズは完結です。全体像は蒸留の完全ガイドから辿れます。

参考文献

  • 相良紘『分離精製技術入門 ―原理と実際―』日刊工業新聞社 第8章「膜で分ける」(分離膜の種類と特徴の一覧、対象物の大きさと膜の対応、気体分離と気体の分子径、パーベーパレーションとアルコールの分離)、第1章(分離技術の分類) Amazonで見る
  • 橋本健治『ケミカルエンジニアリング 夢を実現する工学』(膜分離法は相変化を必要としないため一般に省エネルギーな分離法といわれること)
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善(膜分離) 最新版をAmazonで見る