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冷却水系の管理とスケール・スライム【熱交換器を守る水質】

冷却水系の管理とスケール・スライム【熱交換器を守る水質】

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困っている人
困っている人

冷却水系の管理って何をするの?

濃縮倍率って何?

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

・開放循環冷却水系の水収支と濃縮倍率

・スケール・腐食・スライムという3つの障害と対策

・熱交換器側で気をつけること(低流速部の孔食、高温面のスケール)

私の仕事は化学プラントの設計です。
熱交換器の性能を左右する冷却水側の管理を整理します。

熱交換器のトラブルの多くは冷却水側で起きます。プロセス側は組成が管理されていますが、冷却水は大気と接し、濃縮され、微生物が繁殖する環境だからです。

冷却水の管理は用役部門の仕事とされがちですが、熱交換器の性能と寿命を決めるのは冷却水の水質です。設計者もその仕組みを理解しておく必要があります。

この記事の結論

・開放循環系では、蒸発によって溶存塩類が濃縮します。その度合いが濃縮倍率です。

・濃縮倍率を上げれば補給水は減りますが、スケールと腐食のリスクが上がります

・障害はスケール・腐食・スライムの3つ。互いに絡み合います。

・熱交換器側では低流速部の孔食高温伝熱面のスケールが二大問題です。

・チューブ側流速 1 m/s 以上、伝熱面温度の管理が、水質管理と並ぶ対策です。

開放循環冷却水系の水収支

冷却塔で水を蒸発させて冷やす方式が、開放循環冷却水系です。ここで水の出入りを整理します。

項目記号内容
蒸発水量E冷却塔で蒸発する。塩類は残る
ブロー水量B意図的に系外へ排出する。塩類も一緒に出る
飛散水量W冷却塔から風で飛ばされる。塩類も一緒に出る
補給水量M失った分を補う。新たな塩類が入る

$$M=E+B+W$$

濃縮倍率

蒸発では水だけが出ていき、溶けている塩類は残ります。だから循環水の塩類濃度は補給水より濃くなります。この比が濃縮倍率 N です。

$$N=\frac{循環水の塩類濃度}{補給水の塩類濃度}=\frac{M}{B+W}=\frac{E+B+W}{B+W}$$

実務では、塩化物イオン濃度や電気伝導率の比で測ります。塩化物イオンは析出も分解もしないため、濃縮の指標として使いやすいのです。

濃縮倍率のトレードオフ

濃縮倍率補給水量スケールリスク腐食リスク廃水量
低い(2〜3)多い低い低い多い
高い(5〜7)少ない高い高い少ない

節水の観点では濃縮倍率を上げたい。しかし濃縮すればカルシウム濃度も塩化物濃度も上がり、スケールと腐食のリスクが増します。

実務では3〜5倍程度で運用されることが多く、薬品処理によってこれを高める、というのが水処理の技術です。

3つの障害

① スケール(析出)

炭酸カルシウムが主役です。厄介な性質があります。炭酸カルシウムは温度が上がるほど溶解度が下がる(逆溶解度性)のです。

つまり、最も熱い場所──熱交換器の伝熱面──で最も析出しやすい。冷却水系のスケールが熱交換器に集中するのはこのためです。

スケールは熱抵抗になるだけでなく、流路を狭めて流速分布を乱し、局部腐食を誘発します。厚さ1 mmの炭酸カルシウム(λ ≒ 2 W/(m・K))は 5×10−4 m2・K/W の熱抵抗になり、これは冷却水の汚れ係数の1〜3倍に相当します。

対策

・pH管理(アルカリ側で析出しやすい)

・スケール分散剤・結晶成長抑制剤の注入

・濃縮倍率を抑える

伝熱面温度を下げる(高圧蒸気より低圧蒸気、など)

・流速を確保して付着させない

② 腐食

冷却水には溶存酸素があり、炭素鋼を腐食させます。濃縮すれば塩化物イオンも増え、ステンレスの孔食・応力腐食割れのリスクが上がります。

腐食の型起きやすい場所
全面腐食炭素鋼の配管・シェル
孔食低流速部、スケールや堆積物の下
隙間腐食管と管板の隙間、ガスケット下
塩化物SCCステンレス、60℃以上、応力のかかる拡管部

対策

・防食剤(りん酸塩系、亜鉛系、有機系など)の注入

・pH管理

流速の確保(低流速部を作らない)

・材質選定(塩化物濃度と温度から判断)

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③ スライム(生物汚れ)

冷却塔は微生物にとって好環境です。適温で、酸素があり、光もあり、栄養分(プロセスからの漏れ込みなど)も入ります。

微生物が作る粘着性の膜(バイオフィルム)が伝熱面を覆うと、熱抵抗になるだけでなく、その下で嫌気環境ができて局部腐食を加速します。

スライムは薄くても効きます。バイオフィルムの熱伝導率は水に近く(0.6 W/(m・K)程度)、わずか0.5 mmでも 8×10−4 m2・K/W という大きな熱抵抗になります。

対策

・スライムコントロール剤(酸化性/非酸化性殺菌剤)の注入

・冷却塔の清掃、日射の遮蔽

・プロセスからの漏れ込み防止(栄養源を断つ)

・流速の確保

レジオネラ属菌への注意

冷却塔はレジオネラ属菌の繁殖場所になり得ます。飛散したミストによる感染事例があるため、日本では建築物衛生法や各自治体の指導に基づく管理(定期清掃、殺菌剤管理、水質検査)が求められます。設備管理上の重要な項目です。

熱交換器側で気をつけること

低流速部を作らない

すべての障害に共通する対策が流速の確保です。流速が低いと、堆積物が沈降し、スケールが付着し、微生物が定着します。そしてその下で孔食が始まります。

冷却水をチューブ側に流す場合、1 m/s を下回らないのが原則です。

流速状態
0.5 m/s 未満危険。堆積・付着・孔食が進行する
1.0 m/s 前後許容できる下限
1.5 〜 2.5 m/s推奨範囲
材質の上限を超えるエロージョン

注意すべきは減量運転です。定格では1.5 m/s あっても、負荷が半分になれば0.75 m/s に落ちます。ターンダウン時の流速を必ず確認してください。

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伝熱面温度を管理する

スケールは伝熱面温度で決まります。冷却水のバルク温度が低くても、伝熱面は高温ということが起こります。

一般に、冷却水側の伝熱面温度を60℃以下に抑えるのが目安です。これを超えると炭酸カルシウムの析出が急速に進みます。

高温のプロセス流体を冷却水で直接冷やす設計では、伝熱面温度が高くなりがちです。前段で空冷や他の熱回収を入れて温度を下げてから冷却水で仕上げる、という2段構成にすれば、スケールリスクを大きく下げられます。

冷却水は必ずチューブ側に

冷却水は汚れるので、機械清掃できるチューブ側に流すのが原則です。シェル側に流すと、汚れたときに化学洗浄しか手がありません。

シェル側とチューブ側、どちらに何を流すか【割り付けの原則】 シェル側とチューブ側、どちらに何を流すか【割り付けの原則】

設計・運転で押さえること

設計時

・冷却水の水質(塩化物濃度、硬度、pH)を確認し、材質を決める

・定格だけでなく最小負荷時の流速を確認する

・伝熱面温度を計算し、60℃を超えないか確認する

・チューブ側に冷却水を割り付け、機械清掃できる構造にする

運転時

・濃縮倍率、pH、薬品濃度の管理

・熱交換器ごとの U 実測と汚れ抵抗のトレンド管理

・冷却塔の清掃とレジオネラ対策

まとめ

・開放循環系では蒸発で塩類が濃縮します。その度合いが濃縮倍率で、実務では3〜5倍程度です。

・濃縮倍率を上げれば節水になりますが、スケールと腐食のリスクが上がります。

・障害はスケール・腐食・スライムの3つ。互いに絡み合い、堆積物の下で孔食が進むという連鎖が起きます。

・炭酸カルシウムは逆溶解度性を持つため、最も熱い伝熱面で最も析出します。

・熱交換器側の対策は、流速の確保(1 m/s 以上、推奨1.5〜2.5 m/s)と伝熱面温度の管理(60℃以下)です。

・減量運転時の流速を必ず確認します。定格の半分の負荷なら流速も半分です。

・冷却水はチューブ側に割り付け、機械清掃できる構造にします。

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参考文献

  • 吉田邦夫・吉田英生 監修『熱交換器ハンドブック』省エネルギーセンター、2005年、IV編 設備保全 1「水管理・洗浄」1.1 冷却水系の分類、1.2 開放循環冷却水系の水収支と物質収支、1.3 障害の発生機構と防止方法、1.4 熱交換器の運転条件と冷却水処理薬品の効果、1.5 熱交換器の設計汚れ係数と許容汚れ付着厚さ、II編9「直接接触式熱交換器(冷却塔)」9.4(5)レジオネラ症対策 Amazonで見る
  • 尾花英朗『熱交換器設計ハンドブック(増訂版)』工学図書、1974年(1994年 2版6刷)、第2部 伝熱概論 第9章「汚れ係数」 Amazonで見る