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HAZOPは、重い手法です。P&IDを揃え、複数部署から人を集め、丸一日を何日か使います。
変更のたびにこれを回すのは、現実的ではありません。そして「回せないから、何もやらない」が、いちばん危ない状態です。
だから軽い手法が要ります。それがWhat-if分析とチェックリスト法です。
この記事の要点
- 手法は変更の規模で選ぶ。全部HAZOPは回らない
- チェックリストの弱点は「リストにないものは、永久に出てこない」
- リストは育てるもの。事故のたびに1行足す
- What-ifは自由度が高い分、質問の「種」を用意しないと空回りする
- 軽い手法で済ませてはいけない変更を、先に決めておく
1. 手法は、変更の規模で選ぶ
| 変更の規模 | 手法 | 目安の時間 |
| 小(同等品への交換、軽微な手順変更) | チェックリスト | 30分〜1時間 |
| 中(運転条件の変更、小規模な配管改造) | What-if | 半日 |
| 大(新設、プロセス変更、大規模改造) | HAZOP(+必要ならLOPA) | 数日〜 |
| 防護層に触れる変更 | 規模によらずLOPA相当 | ― |
最後の行が肝心です。「小さい変更だから軽い手法で」が通用しない領域があります。
インターロックの設定値を変える、安全弁の吹き出し圧を変える、警報を消す。作業としては数分でも、これは防護層を直接いじっています。
2. チェックリスト法 ― 過去を質問の形で固定する
チェックリストは、「過去に誰かが痛い目を見たこと」を質問の形に変えて固定したものです。
| 強み | 弱み |
| 早い。1人でも回せる | リストにないものは、永久に出てこない |
| 経験が浅くても、抜けにくい | 考えずに「済」を付けられてしまう |
| 記録が残り、再現性がある | 新しい種類の危険には無力 |
| 教育教材になる | 更新しないと、実態と合わなくなる |
弱みの1行目が、この手法の本質的な限界です。チェックリストは、過去の写像でしかありません。
リストは、どこから作るか
| 材料 | 中身 |
| 自社の事故・ヒヤリハット | 最も効く。実際に起きたことだから |
| 他社の公開事故報告 | 自社で起きていない型を補える |
| 法令・社内標準 | やらなければならないことの抜け防止 |
| 過去のHAZOP指摘 | 繰り返し出る指摘は、リストに昇格させる |
| ベテランの暗黙知 | 退職前に引き出す。これが一番失われやすい |
4行目は、地味ですが効きます。HAZOPで毎回同じ指摘が出るなら、それは設計の癖です。チェックリストに載せてしまえば、HAZOPの前に潰せます。HAZOPの時間を、本当に新しい論点に使えるようになります。
リストを育てる ― ここをやらないと死ぬ
チェックリストが形骸化する原因は、ほぼ1つです。作ったあと、更新されないこと。
- 事故・ヒヤリハットが出たら、リストに1行足せるか検討する(対策の標準ステップに入れる)
- 「該当なし」ばかりの項目は、削るか書き換える
- 項目数は30〜50を目安に。100を超えると、ほぼ読まれなくなる
- 年1回、リストそのものをレビューする
2つ目も重要です。足すだけだとリストは膨れ続けます。膨れたリストは読まれず、機械的に「済」が並びます。
3. What-if分析 ― 質問の「種」を用意する
What-ifは、「もし〜だったら?」を出し合って、その結果を追う手法です。ガイドワードに縛られないので、HAZOPでは出にくい論点が拾えます。
ただし自由度が高いということは、参加者の経験量がそのまま結果になるということでもあります。
そこで、質問の「種」を先に用意しておきます。これがあるかないかで、成果がまったく変わります。
| 切り口 | 「もし〜だったら?」の例 |
| 人 | 手順を1つ飛ばしたら/新人が一人でやったら/夜間・休日だったら/引き継ぎが漏れたら |
| ユーティリティ | 停電したら/計装空気が止まったら/冷却水が止まったら/窒素が来なかったら |
| 物質 | 別のものが入ったら/水が入ったら/濃度が違ったら/不純物が濃縮したら |
| 時期 | スタートアップなら/シャットダウン中なら/定修中なら/触媒交換直後なら |
| 外部 | 地震/豪雨・浸水/落雷/隣接設備で火災が起きたら |
| 時間 | その状態が1時間続いたら/一晩続いたら |
この6つを順に当てるだけで、質問はいくらでも出ます。「時期」の行が、特に効きます。定常運転しか想定していない設計は、非定常でほころびるからです。
ワークシート
| 列 | 書くこと |
| ① 質問 | もし〜だったら? |
| ② 想定される結果 | 何が起きるか。「たぶん大丈夫」は書かない |
| ③ 現状の防護 | いま何が止めているか |
| ④ 評価 | 許容できるか(リスクマトリクス等) |
| ⑤ 推奨事項 | 誰が、いつまでに |
HAZOPのシートと、ほぼ同じ構成です。違うのは①だけ――ガイドワード×パラメータか、自由な質問か。
進め方のコツ ― 出す時間と、答える時間を分ける
What-ifが空回りする一番の原因は、質問が出た瞬間に「それは大丈夫」と答えてしまうことです。
1回そうなると、その場の空気ができあがり、以降の質問が出なくなります。
前半は「質問を出すだけ」、後半で「まとめて答える」。
時間を分けるだけで、出てくる質問の数が変わります。前半では評価も否定もしないことをルールにしてください。
もう1つ。「その設備を知らない人」を1人入れると質が上がります。知っている人は、無意識に前提を飛ばして考えるからです。
4. SWIFT ― 2つを組み合わせる
SWIFT(Structured What-If Technique)は、チェックリストで構造を与えたWhat-ifです。
やっていることは、前節の「切り口」の表そのものです。カテゴリを決めておき、そのカテゴリごとに自由に質問を出す。チェックリストの網羅性と、What-ifの自由度を、両方そこそこ取りにいくやり方です。
| 網羅性 | 新しい発見 | 手間 | |
| チェックリスト | ◎(リスト内) | × | 小 |
| What-if | △ | ○ | 中 |
| SWIFT | ○ | ○ | 中 |
| HAZOP | ◎ | ○ | 大 |
5. 軽い手法で済ませてはいけない場面
ここを曖昧にしたまま運用すると、「何かはやった」という記録だけが残ります。それは、やっていないより危ないことがあります。
| こういう変更は | 理由 |
| 防護層に触れる(インターロック、安全弁、警報) | リスクの前提そのものが動く |
| 新しい物質・新しい反応 | 過去の経験が使えない。チェックリストが効かない典型 |
| 複数の変更が同時に入る | 組み合わせは、軽い手法では見えない |
| 運転範囲を超える条件 | 設計の前提から外れる |
| 一時的変更を恒久化する | 「暫定だから」で軽く済ませた判断が固定される |
2行目を強調しておきます。チェックリストは過去の写像なので、新しい物質・新しい反応にはまったく効きません。それでも様式は埋まってしまいます。
だからこそ、「この条件に当たったら、規模によらずHAZOP/LOPAへ上げる」というルールを、手法の選択表に組み込んでおく必要があります。判断を現場のその場の裁量に委ねないことです。
6. 実務での落とし穴
| 落とし穴 | どうなるか |
| リストが更新されない | 実態と合わなくなり、機械的な「済」が並ぶ |
| リストが膨れる | 読まれなくなる。増やすなら減らす |
| 質問の種を用意しない | What-ifが、詳しい人の独演会になる |
| 出た瞬間に否定する | 以降、質問が出なくなる |
| 「たぶん大丈夫」を結果欄に書く | 後から読んだ人が、検証できない |
| 手法の選択に基準がない | 忙しさで選ばれる。忙しいときほど軽くなる |
最後の行は、構造的な問題です。手法の選択が現場判断だと、繁忙期には必ず軽い方へ寄ります。そして繁忙期は、変更が最も多い時期でもあります。
7. 自分の職場で確かめる7つのこと
- 変更の規模と手法の対応が、文書で決まっていますか。
- 「規模によらずHAZOP/LOPAへ上げる」条件が定義されていますか。
- チェックリストは、この1年で更新されましたか。
- 直近の事故・ヒヤリハットは、リストに反映されましたか。
- 項目数は、読み切れる量ですか。
- What-ifの質問リスト(種)が用意されていますか。
- 「非定常時」の質問が、検討記録に入っていますか。
まとめ
- 全部HAZOPは回らない。規模に応じて手法を選ぶ仕組みが要る
- チェックリストは過去の写像。新しい危険には効かない
- リストは育てる。足すだけでなく、削る
- What-ifは質問の種と、出す/答えるの時間分割で質が決まる
- 軽い手法で済ませてはいけない条件を、先に決めておく
ここまでの5本は「危険を見つける」ための手法でした。次からは「見つけたリスクを、どこまで下げれば十分か」という話に移ります。
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プロセス安全の全体地図
この記事は「プロセス安全・防災」カテゴリの1本です。約100本を6つの領域に整理した地図と、立場・目的別の読む順は、こちらにまとめています。
参考文献
- 安全工学会 監修、新井充・佐藤吉信・高木伸夫・野口和彦・若倉正英 編『実践・安全工学シリーズ2「プロセス安全の基礎」』化学工業日報社、2012年
Amazonで見る - 厚生労働省「化学プラントにかかるセーフティ・アセスメントに関する指針」別添 危険度ランクⅡに対しWhat-if法等を求めている
- 経済産業省 高圧ガス保安室「高圧ガス保安法におけるリスクアセスメント」(2018年、PDF) What-ifとチェックリスト方式の用途の違い
- OSHA 29 CFR 1910.119 Process Safety Management(What-if、Checklist、HAZOP、FMEA、FTA等を認められたPHA手法として列挙)
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「化学物質による爆発・火災等のリスクアセスメント入門ガイドブック」(PDF)
化学プラント大全 
