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熱交換器の選び方【最高の一台ではなく「最適」な一台を】

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困っている人
困っている人

熱交換器ってどうやって選ぶの?

多管式とプレート式、どっちがいい?

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

・選定の出発点:まず「機能」を定義する

・代表的な5形式の強みと弱み

・選定を決める4つのロジック(温度圧力・材料・圧損・保全)

私の仕事は化学プラントの設計です。
基礎理論から現場での実践的な選定ロジックまで、設計者が持つべき「意思決定の視点」を整理しました。

動画でも解説していますので、合わせてご覧ください。

この記事の結論

・万能な「最高の熱交換器」は存在しません。あるのはそのプロジェクトにとっての「最適な一台」だけです。

・選定は「機能の定義 → 形式の絞り込み → 4つのロジックで検証」の順で進みます。

・形式は伝熱性能だけで決まりません。材料費・圧力損失・清掃性のほうが決定要因になることが多くあります。

・「新品時の性能」ではなく「汚れた状態の性能」で保証するのが熱交換器設計の原則です。

まず「機能」を定義する

設計の第一歩は、その機器に何をさせたいのか、機能を明確にすることです。大きく分けて4つのカテゴリーがあります。

熱交換器の機能による分類
機能内容代表的な形式
ヒータ/クーラ相変化を伴わない加熱・冷却多管式、プレート式、空冷式
凝縮器(コンデンサ)蒸気を冷やして液化させる多管式(E形・J形・X形)、空冷式
蒸発器(リボイラ)液体を加熱して蒸発させるケトル形(K形)、サーモサイフォン
深冷器(チラー)流体を氷点下まで冷却する多管式、プレートフィン式

目的が決まれば、選ぶべき形式はおのずと絞り込まれていきます。逆にここが曖昧なまま形式の議論に入ると、話がまとまりません。

代表的な形式の全体像

構造による熱交換器の分類マップ

多管式(シェル&チューブ)

特徴:シェルの中に多数の伝熱管を収めた堅牢な構造

強み:高温・高圧に対応できる。設計の自由度が高く、実績が圧倒的に多い。大容量に向く

弱み:サイズが大きくなりがち。管束引抜きのスペースが要る

化学プラントで最も広く使われる形式です。適用範囲が広く、迷ったらまず多管式を検討することになります。

なお「数千℃の高温に対応できる」といった説明を見かけることがありますが、これは誤りです。使用限界は材料で決まり、一般的な金属材料では数百℃のオーダーです。特殊材を使っても1,000℃には届きません。

プレート式

特徴:波形のプレートを重ね、その隙間に流体を交互に通す

強み:U値が多管式の2〜3倍。コンパクト。分解清掃が容易。プレート増減で能力変更できる

弱み:ガスケット式は温度・圧力に制約(おおむね200℃以下)。流路が狭く固形分に弱い

空冷式

特徴:ファンで外気を送り、フィン付きチューブで冷却する

強み:冷却水が不要。水源のない立地でも成立する

弱み:設置面積が広大。夏場の外気温上昇で能力が落ちる。騒音

拡張伝熱面(フィンチューブ・プレートフィン)

片側が気体で熱抵抗が支配的なとき、その側の面積をフィンで稼ぐ形式です。空冷式もこの一種です。

蓄熱式(回転式・切替式)

伝熱面に一度熱を蓄え、それを別の流体に渡す形式です。排ガスの熱回収など、大量の気体を扱う用途で使われます。両流体が微量混ざることを許容できる場合に限られます。

設計の基本方程式

形式を問わず、設計を支配するのは次の式です。

熱交換器設計の基本方程式

$$Q=UAΔT_m$$

Q:熱負荷[W]── ゴール。プロセスが要求する交換熱量

U:総括伝熱係数[W/(m2・K)]── 性能。流体と形式で決まる

A:伝熱面積[m2]── コストと大きさ。設計者の主な操作変数

ΔTm:有効温度差[K]── 条件。温度が決まればほぼ確定する

設計者の役割は、与えられた Q と ΔTm の中で、いかに高い U を出し、適切な A(コスト)に収めるかというパズルを解くことです。

選定を決める4つのロジック

形式の候補が絞れたら、次の4つの観点で検証します。実務では、伝熱性能そのものよりこの4つのほうが決定要因になることが多くあります。

圧力、汚れ、粘度などの流体条件からシェルアンドチューブ式、プレート式、スパイラル式を選ぶ概念図

ロジック1:温度と圧力の限界

まず物理的に成立するかを確認します。ここで多くの候補が落ちます。

形式温度の目安圧力の目安
多管式材料次第。−200℃ 〜 600℃程度高圧に対応可(数十 MPa も可能)
プレート式(ガスケット)−25℃ 〜 180〜200℃〜 2.5 MPa 程度
プレート式(全溶接)〜 350℃程度〜 4 MPa 程度
スパイラル式〜 400℃程度〜 2 MPa 程度
空冷式材料次第チューブ側は高圧に対応可
いずれもメーカー・仕様により幅があります。判断は必ずメーカー確認のうえで。

ガスケット式プレート熱交換器は、ガスケット材の耐熱・耐薬品性が事実上の上限を決めます。高温・高圧・強腐食のいずれかがあれば、この時点で多管式に絞られることが多くなります。

ロジック2:流体特性と材料選定

流体特性と材料選定

腐食性のある流体では、材料費が機器コストの大半を占めることがあります。ここで面白い逆転が起きます。

海水や酸を扱う場合、チタンやハステロイといった高価な材料が必要になります。このとき、伝熱性能が高く材料を少なくできるプレート式のほうが、装置全体として安くなるケースが多くあります。

U値が2〜3倍あれば、必要な伝熱面積は1/2〜1/3。高価な材料を使う量がそれだけ減るからです。

一方で、固形分(スラリー)を含む場合はプレート式の狭い流路が詰まります。この場合は、詰まりにくく洗浄しやすい多管式やスパイラル式を選ばざるを得ません。

「高性能な形式=高い」とは限りません。材料が高価なほど、高性能な形式が経済的に有利になります。

ロジック3:圧力損失と経済性のトレードオフ

経済性と圧力損失のトレードオフ

伝熱性能を上げる鍵は乱流です。流速を上げれば装置は小さくなり、初期コスト(CAPEX)は下がります。しかし圧力損失が増大し、ポンプを動かす電力費(OPEX)は跳ね上がります。

乱流域では、流速を2倍にすると熱伝達率は1.7倍にしかならないのに、ポンプ動力は6.7倍になります。この合計が最小になる点を見極めるのが設計者の仕事です。

重要なのは、許容圧力損失は熱交換器の都合では決められないという点です。ポンプ吐出圧から配管損失・調節弁差圧などを差し引いた「系統に余っている圧力」が上限になります。

ロジック4:汚れとメンテナンス

汚れ係数を見込む

実務で最も恐ろしいのが汚れ(ファウリング)です。運転を開始すれば必ず汚れが付着し、性能は低下します。

対策は、あらかじめ汚れの熱抵抗(汚れ係数)を織り込んで設計することです。結果として伝熱面積は2〜5割増しになります。

「新品時ではなく、汚れた状態で必要性能を満たす」のが熱交換器設計の原則です。

ただし注意点があります。汚れ係数を「安全側だから」と過大に取ると、機器が大きくなり、流速が下がり、かえって汚れやすくなるという悪循環に陥ります。汚れ係数は安全率ではなく予測値として扱ってください。

メンテナンス性 ― 清掃できない機器は選ばない

メンテナンス性の比較

性能だけでなく、メンテナンスのしやすさも決定的な要因です。

形式清掃方法必要なスペース
プレート式ボルトを緩めてプレートを開放し、手作業で清掃できるフレームを開く分の前方スペース
多管式(U字管)チューブ内の機械清掃は不可(曲がり部に入らない)。化学洗浄のみ管束引抜きスペース
多管式(固定管板)チューブ内は機械清掃可。シェル側は化学洗浄のみチャンネルカバーを外すスペース
多管式(遊動頭)チューブ内・シェル側とも機械清掃可管束引抜きスペース(機器長と同等)+クレーン

多管式で管束を引き抜くには、機器の長さと同じだけの引抜きスペースと大型クレーンが必要です。既設プラント内に増設する場合、このスペースが取れずに形式変更を迫られることがあります。

「化学洗浄で済むのか、機械清掃が必要なのか」「現場にそのスペースはあるのか」──これらを考慮せずに形式を選んではいけません。

選定は「掃除する人」のことを考えて行ってください。

選定の流れ(まとめ)

ステップやること落ちる候補
1. 機能の定義加熱/冷却/凝縮/蒸発のどれか機能に合わない形式
2. 温度・圧力の照査物理的に成立するかガスケット式など制約のある形式
3. 流体特性腐食性・粘度・固形分材料が持たない形式、詰まる形式
4. 熱収支と概算面積Q・ΔTm・U から規模を掴む規模的に非現実的な形式
5. 温度クロスの照査P と R から F を確認1シェルで成立しない場合はシェル直列へ
6. 圧力損失系統に余っている圧力に収まるか圧損が大きすぎる形式
7. 保全性とスペース清掃方法と引抜きスペース現場条件に合わない形式

この順で進めると、5番目までで候補はたいてい1〜2に絞られます。最後まで残った候補どうしを、ライフサイクルコストで比較して決めます。

まとめ

・万能な「最高の熱交換器」は存在しません。あるのは「最適な一台」だけです。

・選定は機能の定義から始めます。ここが曖昧だと形式の議論はまとまりません。

・多管式は適用範囲が広く実績も多い。ただし「数千℃対応」といった説明は誤りで、上限は材料が決めます。

・材料が高価なほど、高性能な形式(プレート式など)が経済的に有利になります。

・伝熱性能より、圧力損失・材料費・清掃性のほうが決定要因になることが多くあります。

・「新品時の性能」ではなく「汚れた状態の性能」で保証します。ただし汚れ係数の過大な設定は逆効果です。

あなたが選ぶ一つの形式が、工場の利益を生み、省エネを通じて環境に貢献します。

参考文献

  • 吉田邦夫・吉田英生 監修『熱交換器ハンドブック』省エネルギーセンター、2005年、I編1「種類・動向」、I編2「設計手順」、II編「各種熱交換器」、III編「材料」、IV編「設備保全」 Amazonで見る
  • 尾花英朗『熱交換器設計ハンドブック(増訂版)』工学図書、1974年(1994年 2版6刷)、第1部 第1章「熱交換器の分類」、第4部「熱交換器の基本設計」 Amazonで見る
  • 日本機械学会『伝熱工学(JSMEテキストシリーズ)』日本機械学会、2023年、第7章「伝熱の応用と伝熱機器」 Amazonで見る