※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。
計装用空気の圧力が下がると、空気で動いている調節弁は、それぞれ設計で決めた「安全側」の位置へ一斉に動きます。燃料の弁は閉じ、冷却や送風の弁は開く。プラントは止まる方向へ向かいます。
計装電源も同じ考え方で作られています。重要な計装は無停電電源装置(UPS)で守り、緊急停止の回路はふだん電気を流しておき、電気が切れたら止まる側へ動くようにしてあります。
この記事では、計装用空気がどう作られ、なぜ乾いた清浄な空気でなければならないのか、空気や電源が失われたときに何が起きるのか、運転員が現場で何を見ればよいのかを説明します。
この記事の結論
- 計装用空気は、空気式の計器と調節弁を動かす「動力」。油・水・ごみのない乾いた空気が要る。露点は最低気温より 10℃ 以上低く
- 空気は 圧縮機 → 冷却・ドレン分離 → 空気溜 → 除湿器 → フィルタ → 主管 → フィルタ付減圧弁 の順に作られて各計器へ届く
- 空気が止まると、調節弁は FC なら閉、FO なら開へ動く。手動に切り替えても、動かす空気がないので弁は動かせない
- 空気溜は、空気源が止まったとき安全に停止するまでの時間を稼ぐためにある
- 重要な計装の電源は UPS で 30 分間以上確保する。緊急停止の回路は直流 100 V が多い
- 緊急停止のリレーや電磁弁は常時励磁。断線や停電でも止まる側へ動く代わりに、瞬時停電でも止まるので対策が要る
1. 計装用空気は何に使われているか
計装用空気(計装空気、IA)は、空気式の計器の信号を伝えることと、空気式の調節弁を動かすことに使われます。今の計器室は電子式が主流ですが、調節弁の駆動部はほとんどが空気式です。DCS からの 4〜20 mA の信号は、弁のそばのポジショナで空気圧に変えられて、ダイアフラムを押しています。
つまり計装用空気は、プラント中の調節弁を動かしている動力源です。これが止まれば、DCS がどんな指令を出しても弁は動きません。
計装用空気に求められるのは「清浄で乾いていること」です。計装の教科書は理由を2つ挙げています。
- 詰まり:空気式計器やポジショナの絞りやノズルの内径は 0.1〜1.0 mm 程度と細い。ごみや油が付けば詰まる
- 氷結:ノズルで空気が膨張すると冷える。水分が多いと、そこで凍る
だから作業用の空気(工具やブローに使う空気)とは系統を分け、油も水も入らない作り方をします。
2. 計装用空気ができるまで
計装の教科書が示す空気源の構成例は、次の順になっています。

- 空気圧縮機:カーボンや油が混入しない無給油形のスクリュー圧縮機
- 冷却器とドレンセパレータ:圧縮して熱くなった空気を冷やし、出てきた水を分離する
- 空気溜(エアレシーバ):圧力の脈動を抑え、凝縮水を落とす。空気源が止まったときの貯えにもなる
- 除湿器(ドライヤ):露点を下げる。充填剤が空気に混ざらない冷凍式ドライヤを使う例
- 最終フィルタ:目の細かさは 0.01 µm が望ましいとされる
- 計装用空気の主管:ここから各プラント、各計器へ分岐し、計器の手前でフィルタ付減圧弁を通る
露点(空気を冷やしたとき水滴ができ始める温度)の目安は、計装の教科書では 300 kPa(3 kg/cm²G)で −15℃ 以下、高圧ガス保安技術の教科書では 最低気温より 10℃ 以上低くです。冬の朝に空気配管の中で結露や凍結が起きないための条件です。
配管の側にも決まりがあります。化学プラント建設の教科書は、供給空気の配管について、亜鉛めっきした鋼管と継手を使う、主管からの分岐は管の上側から取り出し、下側からは取り出さない、分岐管の必要箇所にドレン弁を付ける、主管や分岐管の末端にブロー用の弁を置く、ねじ部にはテフロンテープを使い麻やボンドを使わない、といった点を挙げています。水やさびを計器に持ち込まないための工夫です。
計装用空気をプロセスのパージに使ってはいけません。 教科書は、計装用空気でパージしていたところ、空気圧が下がったときにプロセスガスが空気系へ逆流し、空気配管と計器を腐食させた事故例を紹介しています。どうしても使うなら、腐食性や毒性を確かめて安全な場合に限り、逆流防止器を付けます。
3. 空気が止まると弁はどちらへ動くか
調節弁は、空気が失われたときに閉じる FC(フェイルクローズ)、開く FO(フェイルオープン)、その位置で止まる保持、のどれかに設計されています。どれを選ぶかは「空気がなくなったとき、どちらが安全か」で決まります(詳しくは調節弁のしくみ)。

計装の教科書には、ボイラの試運転中に計装用空気の圧縮機が止まった事例が載っています。
- 蒸気圧力が下がっているのに、燃料の調節弁が徐々に閉じていった
- 手動制御に切り替えても、どうにもならなかった
- ボイラは停止した
これは故障ではなく、設計どおりの動きです。燃料弁は逆作動(FC)なので、空気が抜ければ閉じて燃料を断ちます。一方、燃焼空気のダンパは正作動(FO)にしてあり、空気が抜ければ開きます。止まったあとも燃焼室へ送風を続け、残った燃料ガスを煙突から追い出す(掃気)ためです。
空気が止まったときに「手動で弁を開けて運転を続ける」ことはできません。 手動にしても変わるのはコントローラの出力だけで、弁を動かす空気がないからです。計装用空気の圧力低下の警報が出たら、プラントが安全側へ止まりつつあると考えて、停止の手順に移るのが基本です。
では、空気源が止まった瞬間に全部の弁が一斉に動くかというと、そうではありません。空気溜と配管に残っている空気が、弁の動きを遅らせてくれます。 高圧ガス保安技術の教科書は、エアレシーバに「大元の計装用空気が止まったとき、施設を安全に停止できるだけの時間の空気を貯める役割」を持たせることが重要だとしています。同じ教科書は、圧縮機の駆動源を失ったときに備え、別の駆動源を持つ予備機を自動起動させる方法も挙げています。蒸気タービン駆動とモータ駆動を組み合わせる、といった形です(計装の信頼性と二重化)。
4. 計装電源|UPS と直流電源
電子式の計器、DCS、伝送器の電源が計装電源です。計装の教科書によれば、連続プロセスの計装設備はほとんどの場合、無停電電源装置(UPS)から給電しています。商用電源が止まっても、蓄電池からの電気を交流に変えて供給を続ける装置です。
どれくらいの時間を持たせるかについて、高圧ガス保安技術の教科書は次のように書いています。
| 対象 | 確保する時間 | 装置 |
| 保安上重要な計装システム | 30 分間以上 | UPS |
| インターロック、非常照明、暴走反応を防ぐ設備 | 30 分間以上 | 直流電源装置 |
30 分は「安全に製造装置を停止するために必要な最低限の時間」で、装置ごとに必要な時間を決めておくことが望ましい、とされています。
緊急停止のシーケンス回路は、直流 100 V が採用されることが多いと計装の教科書は書いています。蓄電池と直結して信頼性の高い無停電電源が得られること、48 V や 24 V よりリレーやリミットスイッチの接点表面の酸化皮膜を破りやすく接触不良が起きにくいこと、配線抵抗の影響を受けにくいこと、が理由です。
UPS の蓄電池には寿命があります。教科書は、密閉形鉛蓄電池で 5〜7 年、アルカリ蓄電池で 12〜15 年といわれるとし、使用温度や充放電の回数で大きく変わるので、放電特性から寿命を診断する方法を紹介しています。「UPS があるから停電しても大丈夫」は、蓄電池が生きていることが前提です。
5. 電気が切れたら止まる側へ|常時励磁
緊急停止に使うリレーや電磁弁は、正常運転中は電気を流しておき(励磁)、電気が切れると止まる側へ動くように作るのがフェイルセーフです。計装の教科書は、緊急時に動作しなければならないリレーや電磁弁は正常時に励磁状態にする、と書いています。

化学装置便覧は、このやり方(正常時に接点が閉じている回路)と、逆に正常時は電気を流さず異常時に流すやり方を比べています。
| ふだん電気を流す回路 | 異常時に電気を流す回路 | |
| 断線・接点の接触不良 | 止まる(安全側) | 止められない |
| 停電 | 止まる | 停電の検出と UPS が要る |
| 瞬時停電 | 止まってしまう | 影響なし |
| 日常の点検 | やりにくい | やりやすい |
ふだん電気を流す回路は、断線でも停電でも止まる側へ動くので安全ですが、一瞬の停電(瞬停)でもプラントが止まってしまいます。そこで、蓄電池や遅延回路で瞬停を乗り切る対策を組み合わせます。高圧ガス保安技術の教科書も、雷などの瞬時停電で必要な回転機械が止まらないよう、遅延リレーで瞬停対策をすることを挙げています。
空気と電源は、どちらも「失われたらプラントを安全側へ止める」前提で設計されています。運転員にとって大事なのは、どの弁がどちらへ動き、どの設備が止まるのかを、空気と電源ごとに把握しておくことです。
6. 現場で見る場所
- 計装用空気の主管の圧力:DCS の圧力指示と低下警報の設定値。現場の圧力計と合っているか
- フィルタ付減圧弁:各調節弁の手前にある小さな減圧弁。二次側の圧力計の値と、フィルタのボウルに水や油が溜まっていないか
- 空気溜と主管末端のドレン:ドレン弁から水が出続けるなら、除湿器の不調を疑う
- 除湿器の露点表示:露点計があれば冬の前に確認する
- 空気の漏れ音:調節弁の駆動部、継手、チューブ。漏れは空気源の負荷を増やす
- UPS と直流電源の警報:故障・蓄電池異常の表示。点検記録と蓄電池の更新時期
- 自分の担当設備の「空気喪失時」「停電時」の動き:P&ID の FC・FO と、停止の手順書
7. 先輩に聞かれたら答えられる3問
- 計装用空気の圧力が下がり続けたとき、FC の燃料調節弁はどちらへ動きますか。手動に切り替えれば止められますか。
- 空気溜(エアレシーバ)は、脈動を抑えるほかに何のために付いていますか。
- 緊急停止の電磁弁を、正常時に励磁しておくのはなぜですか。その弱点は何ですか。
答えは順に、閉じる方向へ動き、手動にしても弁を動かす空気がないので止められない/空気源が止まったときに安全に停止するまでの空気を貯めておくため/断線や停電でも止まる側へ動くようにするため。弱点は瞬時停電でも止まってしまうこと、です。
まとめ
計装用空気は、プラント中の調節弁を動かす動力源です。細いノズルを詰まらせず、凍らせないために、無給油の圧縮機、冷却とドレン分離、空気溜、除湿器、フィルタを通して、油・水・ごみを取り除いてから各計器へ届けます。プロセスのパージには使いません。
空気が止まると、調節弁は FC なら閉、FO なら開へ動き、プラントは安全側へ止まります。空気溜はそのための時間を稼ぎます。計装電源は UPS で 30 分間以上を確保し、緊急停止の回路はふだん電気を流しておくことで、断線や停電でも止まる側へ動くようにしています。担当設備が空気と電源を失ったときどう動くかを、あらかじめ知っておいてください。
関連記事
- 計装・制御の完全ガイド:計装の記事全体の地図と、今日の疑問からの入口
この章(計装の基礎)の記事
- 計装とは何か:測る・伝える・調節する・動かす、1つの制御ループを現場から計器室まで追う
- P&ID の計装記号とタグ番号の読み方:FIC-101 の F・I・C は何か、丸・線種・現場か計器室か
- 4〜20 mA と計装信号:なぜ 0 でなく 4 から始まるのか、空気式 20〜100 kPa、断線はどう分かるか
- 防爆の基礎:危険場所のゾーン、耐圧・本質安全・安全増の違い、現場計器の銘板の読み方
- 計器の精度・誤差・校正:「±0.5%」は何の 0.5% か、ゼロ点とスパン、いつ校正するか
- 現場計器の日常点検:導圧管のドレン・凍結・指示値の疑い方、DCS の値と現場計器を突き合わせる
あわせて読みたい
- 調節弁のしくみ:駆動部・弁本体・ポジショナ、空気が来ないと弁はどちらへ動くか(FC/FO)
- DCS と SIS の役割分担
- プロセス安全インターロックとは
参考文献
- 川村貞夫・石川洋次郎『メーカーの技術者が書いた やさしく計装がわかる 工業計測と制御の基礎』工業技術社, 7.2.2「安全設計」、【解説】操作端のフェイルセーフ、7.4「電源と空気源」、【解説】無停電電源装置用蓄電池の寿命診断 Amazonで見る
- 高圧ガス保安協会『高圧ガス保安技術』, 2.4「用役設備」(保安電力、直流電源装置、計装電源の無停電電源装置、空気供給設備) 最新版をAmazonで見る
- 化学工学協会編『化学プラント建設技術(下)』, 10・3・3「供給空気配管」
- 化学工学協会編『化学装置便覧 改訂二版 8/8』丸善, 表26・5「計装制御機器の代表的フェイルセーフ機能」、表26・6「インターロックリレー回路の比較」 Amazonで見る
PLANT NEWS ON NOTE
化学プラントニュース
化学・石油プラントの重要ニュースを、毎週の週報と事故速報でお届けします。現場で押さえたい動きを、わかりやすく整理します。
noteで最新ニュースを読む ↗
化学プラント大全 
