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蒸留塔に何段必要か。これを紙と鉛筆で求める方法がMcCabe-Thiele(マッケーブ・シール)法です。1925年に発表された古典ですが、いまも設計の現場で使われ続けています。
プロセスシミュレータがある時代になぜ作図なのか。理由は単純で、この図が「なぜその段数になるのか」を見せてくれるからです。シミュレータは答えを返しますが、還流比を上げたら段数がどう動くのか、どこが苦しいのかは教えてくれません。McCabe-Thiele図は、そこが目で見えます。
この記事は蒸留シリーズ「蒸留計算」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。
この記事の結論
- 階段の横線=気液平衡(1段で起きる濃縮)、縦線=操作線(段から段への移動)
- 精留部操作線:y = R/(R+1)·x + xD/(R+1)。切片から還流比が読める
- 階段の数=理論段数。リボイラも1段と数えるのが通例
- 成立の前提は等モル流量の仮定。これが崩れる系では使えない
1. 階段が意味していること

McCabe-Thiele図の階段は、2種類の線でできています。この2つの意味が分かれば作図は理解できたも同然です。
- 横線(平衡曲線まで):1つの段の上で、液と蒸気が平衡に達する。1段分の濃縮そのもの
- 縦線(操作線まで):その段から次の段へ移る。塔内の物質収支で決まる
横1回+縦1回で、蒸留塔の1段です。塔頂から始めて塔底まで階段を降りきったとき、その段数が必要な理論段数になります。
2. 操作線|物質収支が引く2本の直線
操作線は、塔のある断面で「上がってくる蒸気の組成 y」と「下がってくる液の組成 x」を結ぶ関係です。塔をフィード段で上下に切り、それぞれで物質収支を取ると2本の直線が出ます。
精留部(フィードより上):y = R/(R+1)·x + xD/(R+1)
Rは還流比(塔に戻す液量 ÷ 製品として抜く量)です。この直線には作図上とても便利な性質が2つあります。
- 点(xD, xD)を通る——対角線上の留出液組成の点
- y切片が xD/(R+1)——切片を測れば還流比が逆算できる
回収部(フィードより下)の操作線は、点(xB, xB)を通り、精留部操作線とq線上で交わります。つまり3本の線は1点で交わる。作図では、この交点を先に押さえるのが早道です。
3. 作図の手順
- 平衡曲線と対角線を引く
- 対角線上に xD, xF, xB の3点を取る
- xFからq線を引く(原料が沸点液なら垂直線)
- (xD, xD)から切片 xD/(R+1) を通る精留部操作線を引き、q線との交点を出す
- その交点と(xB, xB)を結んで回収部操作線とする
- (xD, xD)から横→縦→横→縦と階段を降りていき、xBを下回ったら終了
階段が操作線の交点を越えたところが原料段です。フィードはそこに入れます。
4. 計算例|13段になる理由
α = 2.4、xF = 0.40(沸点液)、xD = 0.95、xB = 0.05 の分離を考えます。
まず最小還流比は Rmin = 1.55。実際の還流比をその1.5倍の R = 2.33 とすると、精留部操作線の切片は 0.95/(2.33+1) = 0.285 になります。
この条件で階段を数えると、理論段数13段(リボイラを含む)、原料段は上から7段目となります。
下のツールで、還流比や組成を変えたときに階段がどう動くかを試せます。Rを下げていくと階段が急に増えること、xDを0.99に上げると右上で階段が細かくなることを、ぜひ手を動かして確かめてください。
McCabe-Thiele 作図ツール
値を動かすと階段が描き直されます。相対揮発度αを一定とみなした2成分系の理想系計算です。
※ 等モル流量を仮定した理想系の計算です。実際の設計では系の気液平衡データと段効率を用いてください。
5. 使えないとき|等モル流量という前提
操作線が直線になるのは、塔内の蒸気と液のモル流量が段によらず一定という仮定(等モル流量、CMO)を置いているからです。この仮定は「1 molが凝縮すると1 molが蒸発する」=両成分のモル蒸発潜熱がほぼ等しい、という前提に立っています。
ベンゼン+トルエンのような似た者同士では十分成り立ちます。しかし潜熱が大きく違う系(水系と有機系の混合など)では操作線が曲がり、この作図はそのままでは使えません。その場合はエンタルピー収支を含む計算(Ponchon-Savarit法)やシミュレータに委ねます。
また、ここで数えているのは理論段です。実際の塔に必要な段数は段効率で割り増しになります。
まとめ
McCabe-Thiele法は、平衡曲線と操作線のあいだに階段を描いて理論段数を数える方法です。横線が1段分の濃縮、縦線が段から段への移動を表します。精留部操作線の切片から還流比が読め、階段の折り返し点が原料段になります。前提は等モル流量。この作図が読めると、還流比と段数の関係が体で分かるようになります。
参考文献
- 大江修造『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2008, 第4章 Amazonで見る
- 大江修造『絵とき 続「蒸留技術」基礎のきそ ―演習編―』日刊工業新聞社(作図と計算を手で追いたい方に) Amazonで見る
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第9章「蒸留」9・5 連続多段蒸留 最新版をAmazonで見る
※ 計算例は α を一定とみなした理想系での値です。実際の設計では系の気液平衡データを用いてください。
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