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単蒸留とフラッシュ蒸留の計算|1回の蒸発では足りない理由

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蒸留塔の計算に入る前に、1回だけ蒸発させるという最も単純な操作を押さえておきます。単蒸留とフラッシュ蒸留です。

地味な操作に見えますが、ここには蒸留塔の1段で起きていることが凝縮しています。しかも実務ではフラッシュドラムとして単独でも頻繁に使われ、蒸留塔のフィード段で起きていることそのものでもあります。

この記事は蒸留シリーズ「蒸留計算」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。

この記事の結論

  • フラッシュ蒸留は、加圧した液を減圧して一気に一部を蒸発させ、気液を1回だけ分離する操作
  • 計算の骨格は物質収支と気液平衡の連立。この2本だけで気液の組成が決まる
  • x-y線図では「傾き −(1−V)/V の直線」と平衡曲線の交点として作図できる
  • 1回では分離に限界がある。だから段を積む——これが蒸留塔の存在理由

1. 単蒸留とフラッシュ蒸留の違い

フラッシュは直線と曲線の交点

どちらも「1回だけ蒸発させる」操作ですが、時間軸の扱いが違います。

単蒸留(回分)フラッシュ蒸留(連続)
操作釜に液を張り、加熱して出てきた蒸気を順に凝縮させる加熱・加圧した液を減圧弁でドラムに放出し、気液を連続で抜く
時間進むにつれ釜の液がどんどん重質化する(非定常)定常。入口と出口の組成は一定
計算Rayleigh式(微分方程式の積分)物質収支と平衡の連立(代数)
実務での姿少量多品種、溶剤回収、ラボフラッシュドラム。蒸留塔のフィード段も実質これ

連続プラントで日常的に出会うのはフラッシュのほうなので、この記事ではフラッシュを中心に扱います。単蒸留(回分蒸留)の計算は第5章で改めて扱います。

2. フラッシュ計算|2本の式を連立するだけ

原料を1 mol、そのうち気化した割合をV(気化率)とします。残りの液は 1−V。原料組成をz、出てくる気相組成をy、液相組成をxとすると、成分の物質収支は次の1本です。

z = V·y + (1−V)·x

もう1本は、気液が平衡に達しているという条件です。相対揮発度αを使えば次のように書けます。

y = αx / {1 + (α−1)x}

未知数はxとyの2つ、式も2本。これで解けます。フラッシュ計算とは、要するにこの連立を解くことです。

物質収支の式をyについて整理すると、x-y平面上の直線になります。

y = −{(1−V)/V}·x + z/V

この直線は必ず点(z, z)を通ります(x = z を代入すると y = z になる)。つまり作図は簡単で、対角線上の原料組成の点から傾き −(1−V)/V の直線を引き、平衡曲線と交わったところが答えです。

3. 計算例|半分蒸発させるとどこまで濃くなるか

α = 2.4、原料組成 z = 0.40 の液を、気化率 V = 0.5(半分蒸発)でフラッシュします。

直線の傾きは −(1−0.5)/0.5 = −1。点(0.40, 0.40)を通る傾き−1の直線と平衡曲線の交点を求めると、

  • 液相 x = 0.297
  • 気相 y = 0.503

物質収支の確認:0.5×0.503 + 0.5×0.297 = 0.400 ✓ 原料組成に戻ります。

結果を見てください。0.40の原料から得られたのはわずか0.503の蒸気です。純度95%の製品がほしい場面では、まったく話になりません。

「もっと蒸発を絞れば濃くなるのでは」と思ったら、下のツールで気化率Vを小さくしてみてください。濃くはなりますが、すぐ頭打ちになります。この系では何をどうしても0.615を超えられません。上限がどこにあるかを先に見ておくと、次の章の話が腑に落ちます。

フラッシュ計算

物質収支の直線と平衡曲線の交点を解いています。気化率Vを動かすと直線の傾きが変わり、交点=出てくる気液の組成が動きます。相対揮発度αを一定とみなした2成分系の理想系計算です。

※ αを一定とみなした理想系の計算です。実際の設計では系の気液平衡データを用いてください。フラッシュドラムの気液分離が完全(平衡に達している)という前提です。

4. 1回では足りない、だから段を積む

気化率を下げれば蒸気は濃くなります。V → 0 の極限では、y は原料と平衡にある蒸気の組成 y* = 0.615 に近づく。しかしそれでも0.615が上限で、しかも得られる量は限りなくゼロです。

これが1回蒸発の限界です。「濃度」と「量」を同時には稼げない。ここを突破する唯一の方法が、濃くなった蒸気をもう一度凝縮させて、また蒸発させる——つまり段を積むことです。

次の記事のMcCabe-Thiele法では、この「段を積む」操作をx-y線図の上で階段として描き、必要な段数を数えます。フラッシュ計算で引いた直線が、そこでは操作線という名前で主役になります。

まとめ

フラッシュ蒸留の計算は、物質収支と気液平衡の2本を連立するだけです。x-y線図では「点(z,z)を通る傾き −(1−V)/V の直線」と平衡曲線の交点として作図できます。ただし1回の蒸発では濃度と量を同時に稼げない。この限界が、蒸留塔という装置が存在する理由そのものです。

次の記事:McCabe-Thiele法|作図で理論段数を求める

参考文献

  • 大江修造『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2008, 第3章
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第9章「蒸留」 最新版をAmazonで見る

※ 計算例は α を一定とみなした理想系での値です。実際の設計では系の気液平衡データを用いてください。