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エタノール水溶液をどれだけ丁寧に蒸留しても、あるところで濃縮が止まります。市販の「無水エタノール」が普通の蒸留だけでは作れないことは、化学系なら一度は聞いたことがあるはずです。この行き止まりが共沸(きょうふつ)です。
共沸は蒸留設計における最大級の制約で、「この系に共沸はあるか」はプロセス構想の最初に確認すべき項目です。この記事では、共沸がx-y線図の上でどう見えるか、なぜ起きるか、そしてどう突破するかを整理します。
この記事は蒸留シリーズ「気液平衡の読み方」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。
この記事の結論
- 共沸点では液と蒸気の組成が一致(y = x)する。蒸発させても組成が変わらないので、蒸留はそこで止まる
- x-y線図では平衡曲線と対角線の交点として現れる
- 原因は分子同士の相性(非理想性)。反発し合う系は蒸気圧が上がって最低共沸になる。エタノール+水、エタノール+ベンゼンがこの型
- 突破する武器は3つ:第3成分を足す(共沸蒸留・抽出蒸留)、圧力を変える、蒸留以外を使う
1. 共沸はx-y線図でどう見えるか

x-y線図で、平衡曲線が対角線と交わっている点。それが共沸点です。交点ではy = x、つまりその組成の液を蒸発させると、まったく同じ組成の蒸気が出てきます。蒸発→凝縮を何回繰り返しても組成は1ミリも動きません。蒸留塔の段数を増やしても、還流比を上げても、共沸組成は越えられないのです。
実例で見ます。エタノール(1)+ベンゼン(2)系は、操作圧力400 mmHgでエタノール0.399モル分率のところに共沸点を持ちます(共沸温度51.2℃)。この系の平衡曲線を描くと、x < 0.399の領域では曲線が対角線の上に、x > 0.399では下に来ます。つまり共沸点の左側ではエタノールが濃縮され、右側では逆にベンゼンのほうが蒸気に富む。どちらから蒸留を始めても、塔頂に来るのは共沸組成の混合物です。
2. なぜ起きるか|分子の相性が蒸気圧を押し上げる

共沸の原因は、ラウールの法則が想定する「理想的な混ざり方」からのずれです。
分子同士が反発し合う系(正の偏倚)では、分子は液に留まりたがらず、混合物の蒸気圧はラウールの法則の予想より高くなります。蒸気圧が高い=沸点が下がるので、混合物の沸点が純物質のどちらよりも低くなる点(最低共沸点)が現れます。エタノール+水、エタノール+ベンゼンがこの型で、実際の共沸の大半は最低共沸です。
逆に引き合う系(負の偏倚)では蒸気圧が下がり、まれに最高共沸点ができます。硝酸+水などがこの型です。このずれを定量的に扱う道具が活量係数γで、γのモデルが手に入れば共沸点の位置は計算で予測できます。
3. どう突破するか|3つの武器
共沸で行き止まりになったとき、実務で使う武器は3系統です。
| 武器 | 考え方 | 例 |
| 第3成分を加える(共沸蒸留) | わざと新しい共沸を作って、邪魔者をそちらに乗せて塔頂へ追い出す | 無水エタノール製造:ベンゼン等のエントレーナを加え、水を塔頂へ抜く |
| 第3成分を加える(抽出蒸留) | 不揮発性の溶剤でαを変え、共沸を消す | ブタン/ブタジエン分離など |
| 圧力を変える | 共沸組成は圧力で動く。2つの圧力の塔を組み合わせて壁を迂回する | 圧力スイング蒸留 |
| 蒸留以外 | 膜・吸着など平衡によらない分離で壁を素通りする | 脱水膜、モレキュラーシーブ |
たとえば無水エタノールの古典的な製法では、93%程度まで普通の蒸留で濃縮したあと、ベンゼン(現在はより安全なエントレーナ)を加えた共沸蒸留塔で水を塔頂に追い出し、塔底から無水エタノールを得ます。「共沸は敵だが、人為的に作る共沸は武器になる」——このひっくり返しが共沸蒸留の発想です。詳しくは第5章で扱います。
まとめ
共沸とは、液と蒸気の組成が一致してしまい蒸留が進まなくなる点で、x-y線図では平衡曲線と対角線の交点として現れます。原因は分子同士の相性による非理想性で、反発する系(正の偏倚)は最低共沸を作ります。共沸があるかどうかはプロセス構想の最初に確認し、あるなら「第3成分・圧力・別方式」の3系統から突破口を選ぶことになります。
次の記事:活量係数γとは?ラウールの法則が効かない混合物の補正係数
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