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圧縮機の軸封|ロッドパッキン・ラビリンス・オイルフィルムシール・ドライガスシールの違いとベントの見方

圧縮機の軸封のアイキャッチ

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

圧縮機の軸まわりを点検していると、ポンプとは違う配管や計器が目に入ります。往復動圧縮機のパッキンケースから出ている細いベント管、遠心圧縮機の横に高く据えられたヘッドタンク、ドライガスシールの盤に並ぶ流量計と差圧計。どれも軸封(軸がケーシングを貫く部分のシール)のための設備です。

ポンプの軸封が封じるのは液で、漏れれば滴として見えます。圧縮機が封じるのは気体です。漏れても目に見えず、可燃性や毒性のガスなら少量でも火災や中毒につながります。そのため圧縮機の軸封は、シール部品だけでなく、漏れたガスをどこへ集めるか、どの計器で漏れの増減を見るかまで含めた系統として考える必要があります。

この記事では、化学プラントの現場オペレーターとエンジニア向けに、往復動圧縮機のロッドパッキンと、遠心圧縮機のラビリンスシール・オイルフィルムシール・ドライガスシールについて、封じ方の違い、ベントや油の系統、運転中に見るもの、壊れるときの前兆を整理します。液を扱うポンプの軸封はポンプ軸封の選び方で解説しています。

この記事の結論

  • 圧縮機の軸封は気体を封じるので、漏れが見えません。方式を選ぶ前に「どれだけ漏らしてよいか、漏れたガスをどこへ逃がすか」を決めます。
  • 往復動のロッドパッキンは、リングを何段も重ねて圧力を少しずつ落とし、途中の中間ポートで漏れを集めてベントへ送ります。ベントとディスタンスピースまでが軸封です。
  • ラビリンスは漏れをゼロにしません。空気や窒素なら単独で使い、それ以外のガスでは窒素の吹込みや吸引と組み合わせます。
  • オイルフィルムシールはガス圧より少し高い油で封じます。サワーオイル量の傾向、シール差圧、ヘッドタンク液面が監視の中心です。
  • 新しい遠心圧縮機の主流はドライガスシールです。清浄で乾いたシールガスを切らさない、1次ベント流量の上昇傾向を見る、2次ベントを絞らない、の3つが要点です。

1. 圧縮機の軸封はポンプと何が違うか

軸封に求められることは、液でも気体でも同じです。中の流体を外へ漏らさないこと、外から異物や潤滑油が中へ入らないこと、組立てや保守がしやすいこと。圧縮機では、これに気体ならではの事情が加わります。

  • 液膜ができない:ポンプのメカニカルシールやグランドパッキンは、しゅう動面に入り込む液が潤滑と冷却を受け持ちます。気体ではそれが期待できません
  • 漏れが見えない:液なら滴下量で判断できますが、気体の漏れは計器やガス分析でしか分かりません
  • 軽いガスほど漏れやすい:水素のように分子量の小さいガスは、同じすきまでも漏れる量が多くなります
  • 動きが違う:往復動圧縮機ではピストンロッドが往復し、遠心圧縮機では軸が高速で回ります

遠心圧縮機では周速も問題になります。軸封部の直径が200 mm、回転数が毎分12,500回転なら、周速は約131 m/s(π×0.2 m×12,500÷60)です。接触形のメカニカルシールで使えるのはおおむね100 m/s程度までとされ、高速の遠心圧縮機はこれを超えます。遠心圧縮機の軸封が、ラビリンス・オイルフィルム・ドライガスシールといった非接触形を中心に発達したのはこのためです。

主な方式は次の4つです。

方式使う機械何で封じるか漏れの扱い
ロッドパッキン往復動ロッドにしゅう動するリング中間ポートで集めてベントへ送る
ラビリンスシール遠心すきまを通る流れの抵抗漏れる前提。窒素の吹込みや吸引と組み合わせる
オイルフィルムシール遠心ガス圧より少し高い油の膜ガス側へ出た油(サワーオイル)を脱ガスする
ドライガスシール遠心端面のすきまにできるガスの膜わずかな漏れを1次ベントで集めて監視する

このほか、カーボン製のリングを並べて窒素などのバッファガスを送るカーボンリングシールもあります。

圧縮機の軸封4方式|何で封じるかの違い

方式を選ぶときも運転するときも、最初に考えるのは「どれだけ漏らしてよいか」と「漏れたガスをどこへ逃がすか」です。 空気や窒素なら少し大気へ漏れても差し支えありませんが、水素を多く含むガスや毒性ガスでは、ガスの漏れも窒素の混入も許されない場合があります。ポンプのメカニカルシールの構造はメカニカルシールの構造とフラッシングを参照してください。

2. 往復動のロッドパッキン ― リングを重ねて圧力を少しずつ落とす

往復動圧縮機では、ピストンロッドがシリンダの壁を貫いて往復します。ここに組み込むのがピストンロッドパッキンで、主流はセグメント形です。

  • リングを3つ割りのセグメントに分け、外周をガータースプリング(環状のばね)で締めてロッドに密着させる
  • 2個または3個のリングを1組にし、切り口が重ならないようにずらして1つのパッキンケースに納める
  • 使用圧力に応じた数のパッキンケースを重ねる

1組で圧力を全部受けるのではなく、ケースを何段も重ねて、シリンダ側の高い圧力を少しずつ落としていきます。 リングはロッドに押し付けられてしゅう動するので、接触形のシールです。

給油式と無給油式があります。

項目給油式無給油式
リングの材料銅合金、鋳鉄など充てん材入りPTFE、カーボンなど
潤滑注油器からパッキンケースの給油孔へ送る自己潤滑性の材料で、油を使わない
冷却油も冷却を受け持つ摩擦熱が大きいので、ケースに冷却水ジャケットを設けることがある

給油量は多すぎても少なすぎてもいけません。1970年代の設計書では、SAE 40〜60相当の油をリング1本あたり毎分4滴を基準に送り、運転中のロッド表面がかすかに油膜を保つ程度に調整するとされています(目安)。表面が乾いている、汚れている、油で洗われている、漏れが止まらないといったときは、油の質と量、ロッドの表面処理、リングの組合せを見直します。

無給油式では、ロッドの表面の滑らかさと硬さが寿命を左右します。同じ設計書は、無潤滑機のロッドに高い表面仕上げと硬さを求め、硫化水素を多く含む炭化水素の圧縮機では、ロッドの傷・摩耗の点検や、ロッドの振れ(ランナウト)を0.03 mm以下に抑えることに注意するよう述べています。ロッドにダストやさびが付くと外周に傷がつき、パッキンの摩耗が早まります。

無給油圧縮機には、パッキンの内面にラビリンスの溝を切り、ロッドとわずかなすきまを保つラビリンス形ロッドパッキンもあります。接触しない代わりに微小な漏れがあるので、漏れが許されない場合はシール室を二重にして不活性ガスを吹き込みます。水素のような軽いガスや高圧のガスでは漏れ量が多くなるので、パッキンの段数とベントの設計に余裕が要ります。

3. ロッドパッキンのベントとディスタンスピース ― 漏れを「どこへ」逃がすか

接触形のロッドパッキンでも、漏れはゼロになりません。可燃性や毒性のガスでは、漏れたガスを途中で集めて安全な場所へ送るベントまでを、軸封の一部として扱います。

ロッドパッキンの中の圧力の下がり方とベント

1970年代の設計書が示す考え方は次のとおりです(目安)。

  1. パッキンケースの途中に中間ポートを設け、そこからパッキンベント線を機外へ出す
  2. ベント線はドレンセパレータを経て、ゲージ圧で約0.1 MPa(15 psig)以下の漏洩ガスヘッダへつなぐ。低圧の圧縮機では、ベント線を高所の大気へ放出する
  3. 中間ポートより大気側(低圧側)にも最低2列のリングを残し、ベントの圧力で外へ漏れないようにする
  4. ベントを燃料ガスのような圧力の高いヘッダへ回収するときは、大気側の列数をさらに増やす

ベントの圧力は、つないだ先のヘッダの圧力に引っ張られます。ベント先の圧力が上がると、中間ポートより大気側のリングにかかる圧力が上がり、外への漏れが増えます。 ベント線の詰まりや、ドレンセパレータの液のたまりすぎも同じ結果になります。

パッキンの外側(クランク側)には、ディスタンスピースと呼ばれる区画があり、ガス側とフレーム側(クロスヘッドやクランクケース)を仕切っています。ロッドは両方を行き来するので、ガスがロッドに付いてフレームへ持ち込まれるおそれがあります。

  • 硫化水素を含む汚れたガスでは、ストローク長以上の長さをもつロング形のディスタンスピースを使う
  • 硫化水素が5%を超えるときは、区画を2つに分けたダブルコンパートメントにする
  • フレームとの間のシールは、油切りリングだけでなく、ガスシール用のリングも設ける

フレームへ腐食性や可燃性のガスが入ると、金属の腐食や、静電気の火花による着火の危険があるので、絶対に入れてはいけません。 ディスタンスピースまわりのシールは保全で見落とされやすいので、開放点検のたびに状態を確かめます。

窒素で封じる運転例もあります。1977年に作られた水素ガス無給油圧縮機の運転マニュアルの例では、スタフィングボックス(パッキン箱)から漏れた水素を窒素で置換し、平常時は窒素を毎時5〜10 Nm³流して箱の内圧を約1.0〜1.5 kPa(100〜150 mmH₂O)に保ち、月に2回、放出ガス中の水素濃度を分析して1%以下になるよう窒素の量を調整していました。ベントのガスを定期的に分析すると、パッキンの漏れの増え方を数字で追えます。

運転中は、パッキン部からの漏れと温度、ベント線の温度・圧力を見ます。パッキンからの漏れが増えると、圧縮したガスの一部が逃げるので、容量不足の原因にもなります。

4. ラビリンスシール ― 漏れを前提にした非接触シール

ラビリンスシールは、軸の周りに刃のようなフィンを何枚も並べたシールです。フィンと軸の狭いすきまを速く流れたガスの勢いが、次の広い部屋で失われることを繰り返して、圧力を少しずつ落とします。

ラビリンス単独では、機内ガスの漏れをなくすことはできません。 そのため、遠心圧縮機ではガスの性質に合わせて次のように使い分けます。

形式仕組み使える条件
単純ラビリンスラビリンスだけ。途中の部屋を機内の大気圧に近い部分と配管でつなぎ、漏れを減らす空気・窒素・炭酸ガスなど、少し大気へ漏れてよい
インジェクション途中の部屋に窒素などの不活性ガスを吹き込む。不活性ガスは機内と大気側の両方へ流れる不活性ガスが少し機内に入ってもよい
エジェクション途中の部屋をエジェクタ(小形ブロワや蒸気エジェクタ)で吸引する機械室へ漏れては困るが、空気や蒸気と混ぜてスタックから少し放出してよい
インジェクション・エジェクション大気に近い部屋に不活性ガスを吹き込み、機内に近い部屋から混合ガスを吸引する空気と混じると危ないが、不活性ガスと混ぜてスタックから少し放出してよい

機内より少し高い圧力の窒素(バッファガス)をラビリンスの部屋に送り、機内ガスの漏れを止める方式は、バッファラビリンスとも呼ばれます。カーボンリングシールは、リングが軸の動きに追従してすきまを小さくできるので、バッファガスの消費量がラビリンスよりずっと少なくなります。

ラビリンスは、すきまの管理がすべてです。1970年代の資料では、有効なすきまは通常、軸径の2/1000〜2.5/1000とされています(目安)。

  • すきまが広がると内部の漏れが増え、効率が下がって動力が増え、ガスの温度が上がる
  • バランスピストンのラビリンスが大きく摩耗すると、スラスト荷重が増えて危険なうえ、シールのリファレンス線にガスの循環ができて、機内へ油が入り込む原因にもなる
  • 組込みのときにフィンを曲げたり、先端を丸めたりしない

ラビリンスが軸に接触したり、付着物がたまったりすると、振動の原因にもなります。

5. オイルフィルムシール ― ガス圧より少し高い油で封じる

水素を多く含むガスの圧縮機や、プロパン・アンモニアを扱う冷凍用圧縮機では、ガスのわずかな漏れも、不活性ガスの流入も許されないことがあります。こうした用途で長く使われてきたのがオイルフィルムシールです。1970年代の資料では、高圧・水素用の垂直分割形遠心圧縮機の軸封は、尿素合成用の炭酸ガス圧縮機を除けば、ほとんどがオイルフィルムシールとされています。

仕組みは次のとおりです。

  • 軸の周りに、ガス側(機内側)と大気側(機外側)の2つのシールリングをはめ込む。リングと軸のすきまはごくわずか
  • 2つのリングの間に、ガス圧より一定値だけ高い圧力の油を送る
  • 油はすきまに膜を作ってガスの漏れを止め、同時に摩擦熱を持ち去る

リングは軸の動きに合わせて軸と直角な面内で動けるように支えられていて、フロートリングとも呼ばれます。1970年代の資料では、リングと軸のすきまは軸径の3/10,000〜8/10,000程度、ガス側リングにかかる油とガスの差圧は約35 kPa(5 psi)とされています(目安)。

油の出口は2つあります。

  • 大気側へ出た油:ガスに触れていないので、そのまま油タンクへ戻して循環使用する
  • ガス側へ出た油:機内のガスに直接触れて、ガスを溶かし込んでいる。これをサワーオイルと呼ぶ

給油圧はいつもガス圧より少し高く保たれるので、ガス側のリングを通る油の量はガス圧が変わってもあまり変わりません。大気側のリングにはガス圧に近い大きな圧力差がかかるので、流れる油の量はガス圧で大きく変わります。このため、ガス側のリングは1個、大気側のリングはガスの圧力に応じて1〜4個使われます。

サワーオイルは、ドレントラップでガスを抜き、脱ガス装置で温度を上げたり窒素でバブリングしたりして、溶けたガスを追い出してから油タンクへ戻します。ガスの性質によっては油が汚れたり変質したりするので、汚れがひどい場合は戻さずに廃棄します。 ガス側へ出る油の量は、できるだけ少ないほうが望ましいとされています。

オイルフィルムシールの油の流れとヘッドタンク

給油圧をガス圧より一定値だけ高く保つ方法は2つあります。

  • レベルコントロール方式:圧縮機の中心より5〜7 m程度高い位置にヘッドタンクを置き、タンクの上から機内のガス圧(リファレンスガス)をかけて、タンクの油面を一定に保つ。油面の高さの分だけ、油圧がガス圧より高くなる
  • 差圧コントロール方式:ガス圧と油圧の差を、差圧調節計と調節弁で一定に保つ

油の密度を約870 kg/m³とすると、5〜7 mの高さは約43〜60 kPaの差圧に当たります(ρghで求めた計算例)。ヘッドタンクの油は、油ポンプが切り替わる間などに差圧をしばらく保つ役目も持ちます。

シール油の系統には、潤滑油と油源を共用するコンバインド方式と、潤滑油とシール油を完全に別の系統にするセパレート方式があります。

6. オイルフィルムシールで見るもの ― 差圧・ヘッドタンク・サワーオイル量

日常点検では、シール油の給油圧力、戻り油の温度、給油と戻りの差圧、漏れの量が平常と変わらないかを確かめます。数字を記録して、傾向で見ることが基本です。

いちばん情報が多いのはサワーオイルの量です。運転中に定期的にサワーオイル量を測り、シールの状態を推定します。

  • 減ってきた:すきまやリングの外周に付着物(ディポジット)がたまり、リングが動きにくくなっている
  • 増えてきた:振動でリングと軸が接触し、内面のバビット(ホワイトメタル)が傷んで、すきまが広がっている

シールのトラブルは、激しい振動、ガスによる汚染(硫化水素など)、過熱、サージ、寿命で起きます。振動でリングと軸が金属接触を繰り返すと、内面のバビットが傷んで油膜が破れ、過熱します。Oリングが劣化するとリングが浮動できなくなり、ガス漏れにまで進みます。開放点検では、バビットのはく離・流れ・汚れ・付着物・変色、Oリングの状態、軸スリーブの表面を詳しく見ます。

保護装置は、シール油圧力の低下、シール差圧の減少、ヘッドタンク液面の上昇・低下、オイルフィルタ差圧の増加、オイルタンク液面の低下などに対して、警報や停止を組み込みます。1970年代の資料でも、誤作動による停止を避けるためにトリップは油圧低下とヘッドタンク液面低下に絞り、警報からトリップまで十分な保持時間をとって、その間に対処できるようにする考え方が示されています。同じ目的のスイッチを3個付け、2個以上が作動したときだけ働かせる方式(2 out of 3)もあります。

油圧低下とヘッドタンク液面低下で予備の油ポンプが自動起動する回路は、重要な保護装置です。 主・予備とも電動機駆動なら、予備を非常用電源につないでおきます。切り替わる瞬間の圧力低下は、アキュムレータで補います。

停止のときにも注意があります。計画停止でも、ケーシング内のパージが終わるまでシール油を止めてはいけません。 シール油が止まると油膜がなくなり、機内のガスが軸封から漏れ出します。

油タンクでは静電気にも注意します。タンクを接地していても、内面を防錆塗装すると内側が絶縁され、戻り油の落下や液面の揺れで静電気がたまります。シール油と共用のタンクでは、油に溶けたガスや漏れたガスに火花が飛ぶおそれがあります。油の液面から直接アースをとり、窒素パージを常時続けます。 静電気の基本は化学工場の静電気対策で解説しています。

7. ドライガスシール ― 動圧溝でガスの膜を作る非接触シール

オイルフィルムシールは信頼性が高い一方で、油の系統が大がかりになり、サワーオイルの処理も必要です。新しく作られる遠心圧縮機では、ドライガスシールが主流になっています。

ドライガスシールは、メカニカルシールのしゅう動面(回転環と固定環の端面)の片方に、浅い溝(動圧溝)を刻んだものです。

  • 軸と一緒に回る回転環(メイティングリング)と、ばねで押し付けられた固定環(シールリング)が向かい合う
  • 回転すると、溝がガスを端面の間へ送り込んで圧力を高め、端面をわずかに押し開く
  • 端面の間には数μmのガスの膜ができ、回転中は接触しない(メーカー資料では約5 μm)
  • 止まっているときは、ばねとガスの圧力で端面が閉じる

回転中は非接触なので摩耗はほとんどありませんが、わずかなガスは漏れます。 溝の形には、一方向回転用のスパイラル溝や、両方向回転に使えるステップ溝などがあります。スパイラル溝のシールは回転方向が決まっているので、組替えや逆転のおそれがある運転では向きを確かめます。

配列には次のような種類があります。

配列構成特徴・主な用途
シングルシール1組最も簡単な構成
タンデムシール2組を直列に並べる。機内側の1次シールが圧力を受け、大気側の2次シールは予備1次シールが壊れても2次シールで大気への漏れを抑える
中間ラビリンス付きタンデム2組の間にラビリンスを置き、窒素を送ってプロセスガスが大気側へ出ないようにする水素、エチレン、プロピレンなど
ダブル2組の間に窒素などのバッファガスを送るタンデムが適さない場合

ドライガスシールの最大の敵は、汚れたガスと液です。 端面のすきまは数μmしかないので、ごみや液滴が入ると端面が接触して傷みます。このため、シールにはフィルタを通した清浄で乾いたシールガスを供給します。 メーカーは、状態を整えていないガスをシール故障の主な原因の一つに挙げていて、シールガスの系統にはフィルタのほか、ガスが減圧で冷えて液が出ないように温めるヒータや、圧縮機の差圧が小さいときにシールガスを送り込むブースタを組み込むことがあります。

8. タンデム形の配管を読む ― シールガス・1次ベント・2次ベント・セパレーションガス

ドライガスシールの盤には、シールの外から出入りするガスの流量と圧力を見る計器が並びます。タンデム形では、機内側から順に次のように流れます。

タンデム形ドライガスシールの断面とガスの流れ
流れどこへ入り、どこへ出るか役割
シールガス機内側のラビリンスと1次シールの間へ入る。大部分はラビリンスを通って機内へ流れ、わずかが1次シールを越える汚れたプロセスガスをシールに近づけない
1次ベント1次シールを越えた漏れを集めて、フレアなど安全な場所へ送る1次シールの状態を流量で見る
2次ベント2次シールとセパレーションシールから出たガスを、大気圧に近い出口へ逃がす2次シールの背圧を上げない
セパレーションガス2次シールと軸受箱の間のセパレーションシールへ窒素(または空気)を送る軸受の潤滑油をシールへ入れない

中間ラビリンス付きのタンデムでは、1次シールと2次シールの間に窒素(2次シールガス)も送ります。この窒素は1次ベントへ出ていくので、1次ベントの流量は「1次シールの漏れ+2次シールガス」になります。こうした系統の構成や監視は、API 692(圧縮機・エキスパンダ用ドライガスシール系統の規格)にまとめられています。

運転中の見方は次のとおりです。

  • 1次ベントの流量(オリフィス前後の差圧など)は、1次シールの健康状態を表します。上昇傾向が続けば、1次シールの劣化を疑います。
  • シールガスの供給圧力と、機内側(バランスライン)との差圧を見て、シールガスが機内へ向かって流れていることを確かめる
  • シールガスのフィルタ差圧を見て、詰まる前に切り替える
  • 2次ベントは絞らない、塞がない。 2次シールにかかる差圧はもともと小さいので、ベントに背圧がかかるとシールが壊れることがあります
  • セパレーションガスを止めると、軸受の油がシールへ入り込むおそれがあります。一般に、セパレーションガスは潤滑油を流す前に入れ、潤滑油を止めてから止めます(手順はメーカーの取扱説明書に従います)
  • セパレーションガスに空気を使う場合は、ベントで可燃性ガスと混ざって爆発性の混合気を作らないよう、ベントの行き先と組み合わせを確かめます

9. シールが壊れるとき ― 振動・汚れ・液・サージ・停止中

遠心圧縮機は高速で回り、軸とシール部品のすきまは非常に小さいので、シールが問題を起こすのは主に振動、ガスによる汚染、過熱、サージングのときです。運転状態の把握、ガスによる汚染、トラブルの分析に、いつも気を配る必要があります。

きっかけ何が起きるか見える前兆
振動リングや端面が接触して傷むサワーオイル量の増加、1次ベント流量の増加、シール部の温度上昇
ガスによる汚染付着物でリングが動かなくなる、端面にごみが入るサワーオイル量の減少、フィルタ差圧の上昇
液の流入ドライガスシールの端面が接触する1次ベント流量の急変、シール部の温度上昇
サージシール油の差圧系統が揺さぶられ、一時的にガスが漏れて油膜が破れる吐出圧・流量の脈動と同時に差圧が乱れる

サージに対しては、シールのリファレンス系にオリフィスを入れて圧力変動を和らげるといった対策もとられます。サージそのものに入れない運転が第一です。

シールが壊れたときに怖いのは、二次災害です。過去には、合成用の圧縮機のシール部が焼き付いたり、異常振動で破損したりして排油ラインに可燃性ガスが混入し、油タンクやタービン側の排油ラインから噴き出して着火した事例があります。対策として、排油ラインへの気液分離器の設置、油タンクのベントの強化、圧縮機とタービンの排油系統の分離、排油のぞき窓の強化が挙げられています。シールが壊れたら、油の系統にも可燃性ガスが回っていると考えて行動します。

往復動でも、1974年に、約230 MPa(2,300 kg/cm²)でエチレンを圧縮する圧縮機のドライブロッドが切断し、シリンダのパッキン面からエチレンが漏れて火災になった事例があります。原因は保守不良とされています。ロッドの傷や振れ、パッキンの漏れの増加は、こうした事故の前触れにもなります。

停止中にも気を抜けません。

  • オイルフィルムシール:ケーシング内のパージが終わるまでシール油を止めない
  • ドライガスシール:機内が加圧されたまま止まっている間も、シールガスとセパレーションガスを保つ
  • ロッドパッキン:可燃性ガスの圧縮機では、ベントと窒素置換を止めない

10. 方式の選び方と日常点検の早見

方式の選び方は、次の順で考えます。

  1. 大気へ少し漏れてよいガス(空気・窒素・炭酸ガスなど)なら、ラビリンスで足りる
  2. 窒素が少し機内へ入ってよい、または混合ガスを吸引して処理できるなら、インジェクションやエジェクションを組み合わせたラビリンス
  3. 漏れも窒素の混入も許されない(水素を多く含むガス、冷媒など)なら、オイルフィルムシールかドライガスシール。新しい機械ではドライガスシールが中心
  4. 往復動は、ロッドパッキンで漏れを集め、ベントとディスタンスピースで処理する

日常点検で見るものを、方式別にまとめます。

方式日常に見るもの異常のサイン
ロッドパッキン給油量(注油器)、パッキン部の温度、ベント線の圧力・温度、ベントガスの濃度、ロッド表面の油膜温度上昇、ベント圧力・濃度の上昇、ロッド表面の乾き・汚れ・傷
ラビリンス窒素の吹込み量と圧力、エジェクタの吸引圧力、周辺のガス検知窒素使用量の増加、ガス検知器の指示、効率低下・温度上昇
オイルフィルムシール給油圧力、シール差圧、ヘッドタンク液面、戻り油温度、サワーオイル量、油タンクの窒素パージサワーオイル量の増減、差圧低下、液面低下、予備ポンプの起動
ドライガスシールシールガスの流量・差圧、1次ベント流量・圧力、2次ベント、セパレーションガスの流量・圧力、フィルタ差圧1次ベント流量の上昇傾向、フィルタ差圧の上昇、シールガス差圧の低下

どの方式でも、判定の基準は「平常と変わらないこと」です。 絶対値だけでなく前回からの変化を記録し、少しずつ増える・減るという傾向で異常を早く見つけます。

まとめ

  • 圧縮機の軸封は気体を封じるので、漏れが見えません。 方式を選ぶ前に、どれだけ漏らしてよいか、漏れたガスをどこへ逃がすかを決めます。
  • 往復動のロッドパッキンは、リングを重ねて圧力を少しずつ落とし、中間ポートからベントで漏れを集めます。 中間ポートより大気側に2列以上を残し、ベント先の圧力を上げないようにします。硫化水素を含むガスではディスタンスピースでフレームへのガスの持込みを防ぎます。
  • ラビリンスは漏れをゼロにしません。 空気・窒素なら単独で、それ以外は窒素の吹込みや吸引と組み合わせます。すきまが広がると効率が下がり、温度が上がります。
  • オイルフィルムシールは、ガス圧より少し高い油の膜で封じます。 サワーオイル量が減れば付着物、増えれば振動・摩耗を疑い、パージが終わるまでシール油を止めません。
  • ドライガスシールは、動圧溝で端面を浮かせる非接触シールです。 清浄で乾いたシールガスを切らさず、1次ベント流量の上昇傾向を見て、2次ベントを絞らないことが要点です。
  • シールが壊れたら、排油系統にも可燃性ガスが回っていると考えます。 排油ラインの気液分離や油タンクのベント・アース・窒素パージが二次災害を防ぎます。

ポンプの軸封の選び方とグランドパッキンの扱いは、ポンプ軸封の選び方とグランドパッキンの締め方と漏らし方で解説しています。ファン・ブロワーと圧縮機の違いはファン・ブロワー・圧縮機の違いを参照してください。

参考文献

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  • 化学工学協会編『化学装置便覧 改訂二版』第18章 18・5「動的シール」(図18・54〜図18・64)
  • 高圧ガス保安協会『高圧ガス保安技術』学識編 11.5「圧縮機とポンプ」、11.6.3「動的機器の漏えい防止」(図11.105〜図11.111)
  • 日本プラントメンテナンス協会『ファン・コンプレッサーの本』第3章 表3・3「遠心圧縮機の日常点検要領」 Amazonで見る
  • 『環境保全技術シリーズ(化学プラント安全対策技術)3 保安・保全の管理技術』6・8 表6・21(水素ガス無給油圧縮機の運転マニュアル記入例)
  • 『環境保全技術シリーズ(化学プラント安全対策技術)4 事故災害事例と対策』4.「事故災害原因別にみた防止対策」、6.「事故災害事例」
  • John Crane, “8 Things to Know About API 692 Seal Gas Systems”
  • John Crane, “Type 28XP Gas Seal for Turbo Compressors”
  • イーグル工業「ドライガスシール DGS」(配列の種類は英語版の製品ページ)
化学プラントニュース―週報と事故速報をわかりやすく紹介するnoteマガジン PLANT NEWS ON NOTE 化学プラントニュース 化学・石油プラントの重要ニュースを、毎週の週報と事故速報でお届けします。現場で押さえたい動きを、わかりやすく整理します。 noteで最新ニュースを読む