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液封式(水封式)真空ポンプの構造と運転|夏に真空が悪化する理由

液封式真空ポンプの構造と運転を解説するVP-04のアイキャッチ

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液封式真空ポンプは、水蒸気や溶剤蒸気を含むガスを扱いやすく、化学プラントで広く使われています。封液に水を使う機種は、水封式真空ポンプ、ウォーターリングポンプ、ナッシュポンプとも呼ばれます。

構造は堅牢ですが、運転状態は封液に強く左右されます。特に夏季は冷却水温度の上昇や熱交換器の汚れにより封液温度が上がり、同じ回転数でも必要な真空を維持できなくなることがあります。

この記事では、現場オペレーターと化学メーカーのエンジニア向けに、液封式真空ポンプの構造、封液循環、夏季の性能悪化、キャビテーション、起動停止、日常監視を整理します。

この記事の結論

  • 羽根車をケーシング中心から偏心させ、液環と羽根の間の容積を増減させて、気体を吸入・圧縮・吐出します。
  • 到達圧力は封液の飽和蒸気圧より低くできません。封液温度が上がると飽和蒸気圧も上がり、真空性能が悪化します。
  • 封液はシールだけでなく、圧縮熱の除去、蒸気の凝縮、腐食性物質や同伴物の受け皿にもなります。
  • 低すぎる吸込圧力と高い封液温度が重なるとキャビテーションが起こり、騒音・振動・性能低下・壊食につながります。
  • トラブル時はポンプ単体だけでなく、封液温度・流量、気液分離器、熱交換器、補給水、吸込負荷、吐出背圧を真空系として確認します。

1. 液封式・水封式・ナッシュポンプの違い

「液封式」は作動液を使う方式全体の名称です。封液に水を使う場合を「水封式」と呼びます。水以外にも、吸引ガスと適合する油、グリコール、プロセス液などを使う場合があります。

「ナッシュポンプ」は液環式の代表的な呼び方として現場で使われますが、現在はメーカーや型式により構造が異なります。仕様書では俗称だけでなく、液封式真空ポンプ、1段または2段、封液の種類、循環方式まで記載します。

なお、次の用語は別物です。

用語意味
1作動形・2作動形羽根車1回転中に吸入・排気作用を1回または2回行う構造
1段式・2段式圧縮段を1段または2段にした構造

「2作動だから2段」とは限りません。 メーカー図面とデータシートの表記を確認してください。

2. 偏心した羽根車と液環で気体を運ぶ

液封式真空ポンプの羽根車中心は、円筒ケーシングの中心から偏心しています。羽根車が回転すると、封液は遠心力でケーシング内壁に沿った液環を形成します。

上部中央の吸込口、右側の吐出し口、偏心ロータ、液環を示した液環式真空ポンプの構造図
(一次資料を参考に当サイト作成)

液環の内周と羽根車中心の距離は場所によって変わるため、羽根と液環に囲まれた気体室の容積も回転位置によって変化します。

  1. 気体室が広がる区間で、吸込口からガスを吸い込む
  2. 吸込口が閉じた後、気体室が狭くなってガスを圧縮する
  3. 気体室が吐出口へつながり、ガスと封液の一部を排出する

羽根が気体を直接かき出すのではなく、液環が往復動ポンプのピストンのように働きます。 羽根車、液環、吸込ポート、吐出ポートの位置関係が作動原理の中心です。

封液には次の役割があります。

  • 羽根間の気体室をシールする
  • 圧縮熱を受け取り、ガス温度の上昇を抑える
  • 水蒸気・溶剤蒸気の一部を凝縮する
  • 液滴や微細な同伴物を取り込む

一方で、吸収・凝縮した物質は封液系へ移ります。「ポンプで吸える」ことと「安全に排出・再利用できる」ことは別問題です。

3. 夏に真空が悪化するのは封液の蒸気圧が上がるため

液封式真空ポンプの到達圧力は、封液の飽和蒸気圧より低くできません。水温が高くなるほど水の飽和蒸気圧は高くなります。

冷却不足で封液温度と飽和蒸気圧が上がり到達圧力が高くなる因果関係
(一次資料を参考に当サイト作成)

夏季に次の条件が重なると、封液入口温度が上がります。

  • 冷却水・工業用水の供給温度が上がる
  • 全循環系の熱交換器が汚れている
  • 冷却水流量または封液流量が不足している
  • 吸引ガス温度や凝縮負荷が上がっている
  • 分離器内の高温封液を過度に再循環している

その結果、ポンプ内で封液蒸気が占める割合が増え、非凝縮性ガスを排気する余力と到達可能な真空が悪化します。

夏季の真空悪化を「ポンプが摩耗した」と決めつけず、まず封液入口・出口温度を記録し、冬季や正常時と比較してください。 真空槽側の蒸発負荷や前段コンデンサーの能力低下も同時に起きやすいため、吸込ガス負荷と封液系を分けて切り分けます。

教科書の一例では、封水温度15℃の2段式水封ポンプについて、単独で2.7 kPa、空気ジェットポンプ併用で0.8 kPaと説明されています。ただし、これは特定条件の例です。実機の保証値はメーカー性能曲線と指定封液温度で確認します。

4. 1段式と2段式は必要圧力で選ぶ

1段式は一つの圧縮段で排気します。構造が比較的簡単で、低真空域の大容量排気に向きます。2段式は、1段目で圧縮したガスを2段目でもう一度圧縮し、より低い吸込圧力まで対応します。

比較1段式2段式
主な役割低真空・大容量より低い圧力まで排気
構造比較的簡単段間を含め複雑
到達圧力封液蒸気圧より十分高い範囲封液蒸気圧近くまで狙える機種がある
注意高真空を無理に狙わない段間条件、封液温度、キャビテーションを確認

必要に応じて、液封ポンプの前段へルーツポンプや空気ジェットを組み合わせます。単体の最低圧力だけでなく、常用圧力での排気速度と許容差圧を確認します。

5. 封液循環は3方式ある

封液系は、排水量、ガス汚染、温度管理、回収の必要性によって構成を変えます。

ワンススルー、部分循環、全循環における封液入口、気液分離器、熱交換器、循環ポンプの違い
(一次資料を参考に当サイト作成)

ワンススルー(全量排出)

新しい封液をポンプへ供給し、吐出ガス・凝縮液とともに全量排出します。構成は単純で温度を保ちやすい一方、用水量と排水量が増えます。

部分循環

ポンプ吐出を気液分離器へ送り、分離した封液の一部を再利用し、不足分を新液で補います。ワンススルーより用水量を減らせますが、溶解物・固形物・温度の蓄積を監視します。

全循環

気液分離器で分離した封液を、熱交換器で冷却してポンプへ戻します。排水量を抑えやすく、溶剤などの専用封液にも向きます。ただし、熱交換器の汚れ、循環ポンプ停止、冷却水不足、成分濃縮が性能へ直結します。

全循環は「封液を補給しなくてよい方式」ではありません。 漏れ・蒸発・持出し分の補給、濃度・pH・導電率・腐食生成物など、プロセスに応じた品質管理が必要です。

吐出直後は気体と液体の二相流です。分離前の吐出配管に不要な立上りや絞りがあると背圧が上がり、モーター過負荷や性能低下につながります。吐出配管は閉止・過度な絞りをせず、分離器までの経路をメーカー条件に合わせます。

6. 封液は温度だけでなく成分も管理する

水以外の封液を選ぶときは、次を確認します。

  • 吸引ガスとの化学的適合性
  • 蒸気圧と粘度
  • 腐食性と材料適合性
  • 溶解・凝縮による組成変化
  • 発泡、析出、重合、スラッジ化
  • 排水・回収・廃棄方法
  • 可燃性、毒性、静電気、防爆

有機溶剤を封液にすれば水より低い到達圧力を得られる場合がありますが、可燃性・毒性・排出処理の条件が増えます。腐食性ガスでは、ケーシング材質だけでなく、封液配管、分離器、熱交換器、ガスケット、計器接液部まで確認します。

封液の汚れは、ポンプ内部の摩耗だけでなく、飽和蒸気圧・粘度・伝熱性能を変えて真空性能を悪化させます。 色、濁り、浮遊物、pH、濃度、温度差を正常時から記録します。

7. キャビテーションは「低圧すぎる運転」で起こる

吸込圧力が封液の蒸気圧へ近づくと、ポンプ内の低圧部で封液が局所的に気化します。その蒸気泡が吐出側の高圧部へ移動して崩壊する現象がキャビテーションです。

低圧高温で生じた封液蒸気泡が高圧側で崩壊し壊食する流れと異常時の初動
(一次資料を参考に当サイト作成)

キャビテーションでは、次の変化が現れます。

  • 砂利をかむようなパチパチ・ガラガラ音
  • 振動の増加
  • 真空性能の低下または不安定化
  • 羽根車・ポートプレート・ケーシングの壊食

異音を伴う低圧運転を継続しないでください。 吸込圧力、封液入口温度、封液流量、冷却水、真空制御、空気ジェット・キャビテーション防止ポートの状態を確認します。

引用したメーカー取扱説明書では、吸込弁を絞る、または閉じる方法で真空度を制御しないよう求めています。採用機の取扱説明書に従い、真空破壊、許容ガス導入、リサイクルなど指定された方法で最低圧力を制限します。

封液を冷やせば必ず正解ではありません。 必要以上の真空を狙わず、プロセスに必要な圧力より十分な余裕を持って、メーカーが許容する運転範囲に保ちます。

8. 起動・停止で確認する順序

起動・停止手順は機種と封液系で異なるため、取扱説明書と現場SOPを優先します。共通して確認する項目は次のとおりです。

起動前

  • 吸込・吐出・バイパス・ドレン弁の所定状態
  • 気液分離器の液位と排気先
  • 封液・冷却水の供給、温度、流量、圧力
  • 全循環なら循環ポンプと熱交換器
  • 軸を手回しできること、カップリングガード
  • 回転方向とモーター保護
  • 危険ガス系の置換、防爆、除害設備

封液なしで運転できません。反対に、停止中のポンプを過充満にしたまま起動すると過負荷になる機種があります。 指定液位と供給タイミングを確認します。

起動後

吸込圧力、吐出圧力、電流、封液入口・出口温度、流量、分離器液位、振動、音、軸封漏れを確認します。圧力だけが正常でも、封液温度や電流が徐々に上がる場合は循環系の異常を疑います。

停止

危険ガスを安全な方法で置換・隔離し、系を所定圧力へ戻してから停止します。封液停止のタイミング、ドレン、凍結対策、長期停止時の防食はメーカー手順に従います。

9. 現場で記録する監視項目

監視項目正常時から見る変化主な確認先
吸込圧力高い、変動するガス負荷、漏れ、封液温度、キャビテーション
封液入口・出口温度季節上昇、温度差変化冷却水、熱交換器、循環量、凝縮負荷
封液流量・圧力低下・増加弁、ストレーナ、供給圧、循環ポンプ
分離器液位高い・低い・変動補給、持出し、ドレン、液面制御
モーター電流上昇過充満、吐出背圧、封液粘度、機械接触
振動・音ガラガラ音、周期変化キャビテーション、軸受、芯ずれ、異物
封液性状濁り、発泡、沈殿、pH変化プロセス混入、腐食、重合、濃縮
吐出背圧上昇分離器、排気配管、除害設備、液だまり

真空度・封液温度・電流を同じ時刻に記録すると、季節変動と機械劣化を切り分けやすくなります。

10. 真空が引けないときの切り分け

夏だけ悪化する

封液入口温度、冷却水温度、熱交換器差圧・汚れ、循環量を確認します。前段コンデンサーの冷却能力低下によるガス負荷増も確認します。

起動直後から悪い

弁状態、回転方向、封液供給、分離器液位、吸込系漏れ、吐出閉塞を確認します。

徐々に悪化する

ストレーナ・熱交換器の閉塞、封液成分の濃縮、内部スケール、腐食、軸封漏れ、プロセス負荷変化を疑います。

異音と振動を伴う

吸込圧力が低すぎないか、封液温度が高くないかを確認します。キャビテーションの可能性がある場合は、最低圧力を制限し、原因を除去するまで連続運転しません。

電流が高い

過充満、封液過多、吐出背圧、封液粘度上昇、異物、軸受・回転部異常を確認します。吐出配管・分離器まで含めて見ます。

11. 仕様書に最低限書く項目

  • 通常・最低・起動時の吸込絶対圧力
  • ガス組成、温度、流量、水蒸気・溶剤量
  • ダスト・ミスト、腐食性、可燃性、毒性
  • 1段・2段、単独またはブースター併用
  • 封液の種類、供給温度、許容戻り温度、流量、圧力
  • ワンススルー・部分循環・全循環
  • 分離器、熱交換器、循環ポンプ、補給・ブロー条件
  • 吸込配管損失、吐出背圧、排気先・除害設備
  • 接液材質、軸封、防爆、計装、保護インターロック
  • 正常・夏季・最大負荷時のメーカー性能保証点

性能保証点には封液温度と吸引ガス条件を必ず併記します。 カタログの到達圧力だけでは、夏季の実運転を保証できません。

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13. まとめ

液封式真空ポンプは、偏心した羽根車と液環の間の容積変化で、気体を吸入・圧縮・吐出します。水蒸気や溶剤蒸気を含むガスに適し、構造が堅牢で化学プラントに向きます。

一方、性能は封液の温度・流量・成分に左右されます。夏季に真空が悪化したときは、ポンプ摩耗だけでなく、冷却水、熱交換器、循環系、前段凝縮器を確認します。

封液温度の上昇は到達圧力を悪化させ、低すぎる吸込圧力ではキャビテーションを起こします。 真空度、封液入口・出口温度、電流、振動、音を同時に監視し、メーカーが指定する最低運転圧力と封液条件を守ってください。

参考文献