クラレは、化学メーカーの中でも「1つの原料を極めた会社」の代表格です。酢酸ビニルというモノマー。ここから作るポバール(PVA)とEVOH〈エバール〉によって、液晶ディスプレイの偏光板、自動車の合わせガラス、ビニロンという繊維、食品パッケージのバリア材まで広がっています。
私は化学メーカーの生産技術者として12年働いています。この記事では決算短信と募集要項という一次資料だけを使って、「何で稼ぎ、どこで働くのか」を整理します。難易度や口コミは扱いません。
数字を1つ先に出すと、2025年12月期の営業利益589億円に対し、ポバール系のビニルアセテート事業だけで625億円。**1つの事業の利益が、全社の利益を超えています**。他の事業と全社費用が、そこから差し引かれている構造です。
化学業界そのものが曖昧な人は先に「化学業界とは」(→化学業界とは)へ。
一言でいうと|ポバールで世界一になった会社
クラレの前身は1926年(大正15年)に岡山県倉敷で設立された倉敷絹織です。レーヨン(人造絹糸)から始まり、戦後にビニロンという合成繊維を工業化しました。ビニロンの原料がポバールです。
そこから、繊維に使うだけでなく**ポバールそのものを樹脂・フィルムとして売る**方向へ広げていきました。液晶の偏光板に使う光学用ポバールフィルムでは、世界シェアの大半を握っています。
| 項目 | 数字(出典・基準日) |
|---|---|
| 売上高 | 8,084億円(2025年12月期。前期比▲2.2%) |
| 営業利益 | 589億円(同。前期比▲30.8%) |
| 経常利益 | 515億円(同) |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 75億円(同。前期比▲76.5%) |
| 売上高営業利益率 | 7.3% |
| 自己資本比率 | 57.0%(2025年12月31日現在) |
| 資本金 | 890億円(2025年12月末現在) |
| 従業員数 | 連結12,117名/単体4,715名(同) |
| 本社 | 東京都千代田区大手町(常盤橋タワー) |
| 設立 | 1926年6月24日 |
就活生が押さえるべき性格は3つです。
- **決算期は12月**:他の化学大手はほとんど3月期です。他社と数字を並べるときは期のずれに注意してください
- **海外売上が8割**:地域別売上は欧州2,037億円、米国1,881億円、中国1,197億円に対し、日本は1,618億円で全体の20%。**日本の会社というより、日本発の世界企業**という姿です
- **当期純利益の急減は減損によるもの**:営業利益589億円に対し純利益75億円。減損損失296億円を計上しており、うち256億円がイソプレン事業です(決算短信に明記)
事業の中身|5セグメントを売上と利益で見る

| セグメント | 主な製品 | 売上高 | セグメント利益 |
|---|---|---|---|
| ビニルアセテート | ポバール樹脂・フィルム、PVB樹脂・フィルム、EVOH樹脂〈エバール〉 | 3,872億円 | 625億円 |
| 機能材料 | メタクリル樹脂、メディカル関連製品、活性炭 | 2,022億円 | 108億円 |
| トレーディング | グループ製品・他社製品の企画販売 | 673億円 | 60億円 |
| イソプレン | 熱可塑性エラストマー〈セプトン〉、イソプレン関連、耐熱性ポリアミド〈ジェネスタ〉 | 611億円 | ▲49億円 |
| 繊維 | ビニロン、人工皮革〈クラリーノ〉、ポリエステル繊維 | 563億円 | 26億円 |
| その他 | エンジニアリング事業など | 344億円 | 18億円 |
| 合計(全社調整▲201億円を含む) | 8,084億円 | 589億円 |
※ 出典:2025年12月期 決算短信。売上高は外部顧客への売上高。セグメント利益は営業利益ベース。
読み方のポイント:
- **ビニルアセテートの利益625億円が、全社の営業利益589億円を上回っています**。この1事業を軸に、他の事業と全社費用が差し引かれる形です
- **全社調整の▲201億円のうち、222億円は各セグメントに配分していない基礎研究費**。研究を事業部の外に置いて全社で持っている会社だと分かります。研究職を志す人には効く事実です
- イソプレン事業は256億円の減損を計上して赤字(▲49億円)。合成法によるイソプレンは技術的に希少ですが、事業としては立て直しの途中です
- 創業の柱だった繊維は売上563億円で、全体の7%まで小さくなっています。**看板と稼ぎ頭は別**という典型例です
「1つの事業が全社を支える」構造は、レゾナック(→レゾナックの企業研究)や日本ゼオン(→日本ゼオンの企業研究)とも共通します。ただしクラレの場合、支えているのが**100年近く磨いてきた1つの原料系**である点が違います。
酢酸ビニルから何が生まれたか

ビニルアセテート事業の中身を、原料からたどると分かりやすくなります。出発点は**酢酸ビニル**という1つのモノマーです。
まず、酢酸ビニルを重合してけん化(加水分解)すると**ポバール(PVA)**になります。水に溶ける、透明、という性質を持つ樹脂です。ここから3つの製品が伸びています。
- **光学用ポバールフィルム**:液晶ディスプレイの偏光板に使われます。西条事業所と倉敷事業所で生産
- **PVB樹脂・フィルム**:ポバールをアセタール化して作ります。自動車の合わせガラスの中間膜で、割れてもガラスが飛び散らないのはこの膜のためです
- **ビニロン**:日本で最初に工業化された合成繊維。ロープ、漁網、セメントの補強材などに使われます
もう1つの枝が**EVOH樹脂〈エバール〉**です。こちらはポバールから作るのではなく、**エチレンと酢酸ビニルを共重合させてからけん化**して作ります。酸素を通さないので、食品パッケージの中間層に使われます。岡山事業所で生産しています。
**同じ酢酸ビニルから、液晶・自動車ガラス・産業資材・食品包装まで届いている**。素材メーカーの強みが分かりやすく出ている例です。
なお、クラレは自前のナフサクラッカーを持ちません。酢酸ビニルなどの原料は外から調達します。この点はダイセル(→ダイセルの企業研究)や日本ゼオン(→日本ゼオンの企業研究)と同じ立ち位置です(→化学業界とは)。
工場と研究所|どこで働くか

国内拠点は、オフィス2か所・生産6か所・研究2か所です。
| 拠点 | 所在地 | 作っているもの・していること |
|---|---|---|
| 本社 | 東京都千代田区大手町2-6-4 常盤橋タワー | 経営・スタッフ機能と各事業の営業拠点 |
| 大阪事業所 | 大阪市北区角田町8-1 | 西日本のスタッフ機能と営業拠点 |
| 岡山事業所 | 岡山県岡山市南区海岸通1-2-1 | **国内最大規模**。ビニロン、人工皮革〈クラリーノ〉、EVOH樹脂〈エバール〉、PVA樹脂 |
| 倉敷事業所 | 岡山県倉敷市玉島乙島7471 | クラレ発祥の工場。光学用ポバールフィルム、水処理用ろ過膜 |
| 鶴海事業所 | 岡山県備前市鶴海4342 | 活性炭、電気二重層キャパシタ用活性炭、リチウムイオン電池負極材用ハードカーボン |
| 西条事業所 | 愛媛県西条市朔日市892 | 光学用ポバールフィルム、ポリアリレート繊維〈ベクトラン〉、耐熱性ポリアミド〈ジェネスタ〉、メルトブローン不織布 |
| 新潟事業所 | 新潟県胎内市倉敷町2-28 | メタクリル樹脂、ポバール樹脂、医農薬中間体、電子材料、歯科材料 |
| 鹿島事業所 | 茨城県神栖市東和田36 | **国内唯一の合成法によるイソプレン**、イソブチレン系化学品、〈セプトン〉、ジオール |
| くらしき研究センター | 岡山県倉敷市酒津2045-1 | 触媒反応・精密有機合成・高分子加工の研究。分析・解析による技術支援も |
| つくば研究センター | 茨城県つくば市御幸が丘41 | 高分子素材の合成・物性研究から成形加工技術開発、顧客対応まで |
現役として補足すると、この会社の拠点配置は**岡山県に3事業所+研究センター**という重心の置き方が特徴です。倉敷が発祥の地で、岡山事業所が国内最大。生活の拠点を岡山に置く技術者が多くなります。
一方で、鹿島(茨城)はコンビナート型の化学事業所(→コンビナート地域で働くという選択)、西条(愛媛)は瀬戸内、新潟は日本海側。**同じ会社でも土地の性格がかなり違う**ので、志望前に見ておくと納得感が変わります(→化学メーカーの選び方)。
研究拠点が**くらしき(西)とつくば(東)の2本立て**になっているのも押さえどころです。研究職志望なら、どちらで何をしているかを分けて理解しておくと面接で効きます(→院卒で研究開発職に就く)。
職種・初任給|募集要項を読む
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 採用予定数(2026年) | 技術系47名/事務系18名 |
| 初任給(2026年) | 博士了 348,700円/修士了(技術系)320,300円/修士了(事務系)307,700円/学部卒・高専卒 300,000円 |
| 賞与 | 年2回(4月・10月) |
| 勤務時間 | 事務系 9:00〜17:45/工場・研究所 8:00〜16:45(一部フレックスあり) |
| 休日 | 年間休日120〜122日 |
| 年次有給休暇 | 最大20日 |
| 勤務地 | 東京・大阪(オフィス)、岡山・倉敷・鶴海・西条・新潟・鹿島(生産)、くらしき・つくば(研究)、海外勤務あり |
| 住まい・手当 | 住宅手当、通勤費、社宅・寮、企業年金 ほか |
読み方:
- **技術系47名に対して事務系18名**。技術系が7割を占めます。素材メーカーらしい比率です
- 初任給は**修士(技術系)320,300円**。全産業平均(大学卒26.2万円、→化学メーカーの初任給と年収カーブ)を大きく上回り、シリーズで見てきた各社の中でも上位です。ただし初任給の高さと生涯賃金は別物です(→化学プラント技術者の年収)
- **賞与の支給月が4月・10月**。6月・12月の会社が多い中では珍しい形です。生活設計に関わるので覚えておくとよい点です
- **技術系と事務系で修士の初任給に差がある**(320,300円と307,700円)。技術者を重く見る会社だと読めます
公開資料の読み方|この会社を自分で追いかけるには
| 資料 | 見るところ |
|---|---|
| 決算短信・決算説明資料(IR) | ビニルアセテートの利益がどこまで伸びるか。イソプレンの立て直しが進むか。地域別売上の日本比率 |
| 中期経営計画(IR) | 2026年に創立100周年。次の柱をどこに置くかが読めます |
| 採用サイトの国内拠点紹介 | 事業所ごとの主要製品と暮らしの様子が書かれています。配属先を具体的に想像する材料になります |
面接では「ビニルアセテートの利益が全社の営業利益を超えていますね」と言えると、決算を読んだ学生だと伝わります。そのうえで「イソプレンや繊維をどうするか」に触れられると、会社をまるごと見ていることが伝わります(→化学メーカーの面接で聞かれること)。
どんな人に向くか
- **1つの素材を深く掘りたい人**:酢酸ビニルとポバールを100年近く磨いてきた会社です。広く浅くより、狭く深くが好きな人に合います
- **世界を相手にしたい人**:売上の8割が海外、生産設備も日本と米国がほぼ同額。海外勤務が募集要項に明記されています
- **地方勤務を受け入れられる人**:生産の重心は岡山。ほかに愛媛・新潟・茨城です(→化学メーカーの選び方)
志望動機の③会社の層(→化学メーカーの志望動機の書き方)では、「酢酸ビニルという1つの原料から、液晶・自動車・包装まで広げてきた会社」という理解を軸に語ると、他社と差がつきます。
この記事の使い方と注意
- 数字は2025年12月期決算と、執筆時点の募集要項に基づきます(最終更新:2026年8月)。**この会社は12月決算**なので、3月期の他社と単純比較はできません
- 当期は減損損失296億円を計上しており、営業利益と純利益の差が大きくなっています
- 就職難易度・採用大学・口コミは扱いません。一次資料と現場の感覚だけを書いています
クラレは1926年に倉敷で創業し、酢酸ビニルという1つの原料から、ポバール(PVA)の光学フィルム・自動車ガラスの中間膜・ビニロン、そしてEVOH〈エバール〉まで広げてきた会社です。2025年12月期はビニルアセテート事業の利益625億円が全社の営業利益589億円を上回りました。海外売上8割、拠点の重心は岡山。他社比較は住友化学の企業研究〜日本ゼオンの企業研究へ。
10社を同じ物差しで並べた比較は化学メーカー大手10社の違いを1枚でにまとめています。売上規模・営業利益率・石化を持つか・利益の柱・修士の初任給・勤務地の重心の6項目です。
化学プラント大全 
