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熱交換器のプロセス安全【チューブ破損・液封・冷却喪失】

熱交換器のプロセス安全【チューブ破損・液封・冷却喪失】

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困っている人
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熱交換器の安全ってどこを見るの?

チューブが破れたらどうなる?

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

・チューブ破損による低圧側の過圧(10/13ルール)

・液封(熱膨張)による過圧とサーマルリリーフ

・冷却喪失・内部漏れ・保温下腐食といった見落としやすいリスク

私の仕事は化学プラントの設計です。
熱交換器を安全の観点から見直します。

熱交換器は、圧力の異なる2つの流体を薄い金属1枚で隔てている機器です。ここが破れれば、高圧側の流体が低圧側へ一気に流れ込みます。

また、両端を弁で閉じられた熱交換器は、外部から加熱されるだけで内部圧力が急上昇します。液体はわずかな温度上昇で大きく膨張し、しかも圧縮できないためです。

熱交換器の安全は、性能設計とは別の視点で見る必要があります。

この記事の結論

チューブ破損で高圧流体が低圧側へ流入し、低圧側を過圧させます。低圧側の設計圧力が高圧側の10/13を下回るなら、対策を検討します。

液封(熱膨張)は、弁で閉じ込められた液が温まるだけで起きます。サーマルリリーフ弁が要ります。

冷却水の喪失は、下流の凝縮器・反応器を暴走させる起点になります。

内部漏れは性能問題ではなく、環境・品質・安全の問題です。

・保温下腐食(CUI)は外から見えないまま進行します。

チューブ破損による過圧

何が起きるか

チューブが1本破断すると、破断口は2つ(両端)できます。高圧側の流体が、その断面積を通って低圧側へ噴出します。

低圧側の容積は限られており、逃がし能力も低圧側の想定でしか設計されていません。結果として低圧側が設計圧力を超えることになります。

怖いのは、低圧側の配管や下流機器まで過圧が波及することです。熱交換器のシェルが持っても、その先のタンクが持たない、ということが起こります。

10/13ルール

チューブ破損を考慮すべきかどうかの判定に、広く使われる目安があります(API 521 に示される考え方)。

低圧側の設計圧力が、高圧側の設計圧力の 10/13(約77%)を下回る場合、

チューブ破損による過圧の検討が必要になる

この 10/13 という数値は、圧力容器が設計圧力の約1.3倍まで(水圧試験圧力の水準まで)は短時間なら耐えうる、という考え方に由来します。逆に言えば、低圧側の設計圧力が高圧側の77%以上あれば、破損しても低圧側は持ちこたえる、という判断です。

静水頭や運転圧力の扱いは規格や社内基準によって違うため、適用は自社の基準に従ってください

対策の選択肢

対策内容留意点
低圧側の設計圧力を上げる高圧側の10/13以上にする最も確実。機器コストは上がる
安全弁・破裂板を設ける低圧側に逃がし装置を設置吹出量の算定が難しい。二相流になることが多い
チューブの信頼性を上げる肉厚増、材質変更、検査強化破損確率を下げるが、ゼロにはできない
圧力差を小さくするプロセス条件の見直し可能なら最も本質的

安全弁で対応する場合、吹出量の算定が非常に難しい点に注意してください。高圧の液が低圧側で急激にフラッシュして二相流になるため、単相のガスや液の式では計算できません。この検討はリリーフ設計の専門領域です。

【まとめ】RBPS 4つの柱と20の要素|プロセス安全でやるべきことの全体マップ

液封(熱膨張)による過圧

なぜ危険なのか

液体はほとんど圧縮できません。一方で温度が上がれば膨張します。逃げ場のない空間に液を閉じ込めて加熱すると、圧力は急激に上がります。

水の場合、10 K の温度上昇でも、完全に密閉された状態では数十 MPa に達し得ます。有機液は熱膨張率が水より大きいため、さらに厳しくなります。

「たかが数℃の温度上昇」で機器が破壊されます。ここが液封の恐ろしさです。

熱交換器で液封が起きる場面

・運転停止のため両端の弁を閉じたが、片側にまだ蒸気が残っていた

・冷却水側を弁で締め切った状態で、プロセス側が高温のまま

・停止中の機器が日射で温まる(屋外設置)

・火災時の外部加熱

・保温された配管・機器で、内部の液が周囲温度まで戻る過程

とくに停止操作中が危険です。運転中は流れがあるので液封になりませんが、弁を閉じた瞬間に閉じ込め状態が生まれます。

対策

サーマルリリーフ弁(熱膨張用安全弁)を設ける ── 小容量でよい。液が少量逃げれば圧力は下がる

・弁の間に閉じ込め空間ができる箇所を、P&ID上で洗い出す

・運転手順書に、閉じ込めを作らない操作順序を明記する

ブロック弁に施錠管理(閉め忘れ・誤閉を防ぐ)

サーマルリリーフ弁はごく小容量で足ります。液がわずかに逃げれば圧力上昇は止まるためです。しかし「小さいから」と省略されがちで、実際の事故につながっています。

【まとめ】RBPS 4つの柱と20の要素|プロセス安全でやるべきことの全体マップ

冷却喪失 ― 下流への波及

熱交換器そのものは壊れなくても、その機能が失われることが起点となる事故があります。

失われるもの結果
反応器の除熱反応熱が蓄積し、暴走反応へ。最も深刻
塔頂コンデンサの冷却蒸気が凝縮せず塔内圧力が上昇。安全弁作動、あるいは塔の破損
製品クーラーの冷却高温の製品が下流タンクへ。タンクの過圧・材質の限界超過

原因は熱交換器の汚れだけではありません。冷却水ポンプの停止、停電、冷却塔の能力低下、配管の閉塞、弁の誤操作など、系統全体に及びます。

設計では「冷却が失われたときに何が起きるか」をHAZOPなどで検討し、必要なら独立した防護層(高温インターロック、緊急冷却系、緊急脱圧)を設けます。

除熱能力はスケールアップ時に不足しやすい点にも注意が必要です。反応器の容積は3乗で増えるのに、ジャケットの伝熱面積は2乗でしか増えません。

内部漏れ ― 性能ではなく安全の問題

チューブの微小な破孔や拡管部の緩みで、両流体が混ざる状態です。全面破断ほど劇的ではないため、気づかれにくいのが特徴です。

漏れの方向起きること
プロセス液 → 冷却水冷却水系が汚染される。排水として系外に出ると環境問題
冷却水 → プロセス液製品への水混入。水と反応する物質なら発熱・発生ガス
蒸気 → プロセス液同上。加水分解、発泡

水と激しく反応する物質(金属ナトリウム、有機金属、酸塩化物など)を扱う熱交換器では、水系の熱媒を使わないという選択が必要になることがあります。熱媒油や空冷にする、間接的な中間熱媒系を挟む、といった対策です。

検知の手段

・冷却水の導電率・pH・TOCの監視

・プロセス側の水分濃度の監視

・熱収支の不整合(両側で計算した Q が合わない)

・定期的な渦流探傷(ECT)

熱交換器の性能が落ちたときの診断手順【汚れと決めつける前に】 熱交換器の性能が落ちたときの診断手順【汚れと決めつける前に】 伝熱管はこう壊れる【腐食・エロージョン・振動・熱疲労】 伝熱管はこう壊れる【腐食・エロージョン・振動・熱疲労】

その他の見落としやすいリスク

保温下腐食(CUI)

保温材の下で、外部から侵入した水分により炭素鋼が腐食する現象です。保温材に覆われて外から見えないまま進行します。

とくに危険な温度域は、水が存在しうる約−4℃〜175℃です。この範囲で運転される保温された熱交換器は、定期的に保温を剥がしての点検が必要です。

熱交換器のノズル部、サドル(支持部)まわり、ドレン部など、水が溜まりやすい形状が要注意箇所です。

熱衝撃

蒸気の急投入や冷却水の急停止は、チューブと管板に大きな熱応力を与えます。運転手順で緩やかな昇温・降温を規定してください。起動停止の多いプラントでは、これが寿命を決めることがあります。

凍結

冬季に停止した水系の熱交換器で、内部の水が凍結して膨張し、チューブを破損させることがあります。空冷式や屋外設置の機器で起きやすい問題です。

停止時のドレン抜き手順、あるいは不凍液の使用、保温トレースの設置で対策します。

起動・停止時の非定常

定常運転では問題ない設計でも、起動時や停止時には想定外の条件が出ます。片側だけに流体がある、温度差が定常より大きい、流量が極端に少ない──こうした状態を運転手順とともに検討してください。

【まとめ】RBPS 4つの柱と20の要素|プロセス安全でやるべきことの全体マップ

設計時のチェックリスト

・高圧側と低圧側の設計圧力比は 10/13 を満たしているか。満たさないなら対策は何か

・弁で閉じ込められる空間はないか。サーマルリリーフ弁は設けたか

・冷却が失われたときに何が起きるか。防護層は独立しているか

・内部漏れが起きたときの影響は許容できるか。検知手段はあるか

・保温下腐食の温度域に入っていないか。点検計画はあるか

・起動・停止時の条件は検討したか

・凍結のおそれはないか

まとめ

・チューブ破損で高圧流体が低圧側へ流入します。低圧側の設計圧力が高圧側の10/13を下回るなら対策を検討します。

・安全弁で対応する場合、二相流になるため吹出量の算定が難しい点に注意が必要です。

・液封は「たかが数℃の温度上昇」で機器を破壊します。サーマルリリーフ弁は小容量で足りますが、省略されがちです。

・冷却喪失は暴走反応や塔の過圧の起点になります。防護層の独立性を確認してください。

・内部漏れは性能問題ではなく、環境・品質・安全の問題です。検知手段を用意します。

・保温下腐食は外から見えないまま進行します。−4℃〜175℃の範囲がとくに危険です。

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参考文献

  • 吉田邦夫・吉田英生 監修『熱交換器ハンドブック』省エネルギーセンター、2005年、IV編 設備保全 3「検査」、4「寿命予測とトラブル事例」4.2 トラブル事例 Amazonで見る
  • 尾花英朗『熱交換器設計ハンドブック(増訂版)』工学図書、1974年(1994年 2版6刷)、第4部「熱交換器の基本設計」 Amazonで見る
  • Center for Chemical Process Safety / AIChE 著、化学工学会 SCE・Net 安全研究会 訳『若い技術者のためのプロセス安全入門』丸善出版、2018年 Amazonで見る
  • API STD 521 Pressure-relieving and Depressuring Systems(チューブ破損時の過圧の考え方)