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温度クロスとは?1-2型熱交換器で「面積を増やしても解決しない」理由

温度クロスとは?1-2型熱交換器で「面積を増やしても解決しない」理由

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困っている人
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熱収支は合っているのに、メーカーから1台では無理と言われた

温度クロスって何?

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

・温度クロスとは何か、なぜ熱力学に反しないのか

・1-2型で「面積を増やしても解決しない」理由

・シェル直列・F型シェル・プロセス条件見直しという対処法

私の仕事は化学プラントの設計です。
その経験をもとに分かりやすく解説します。

面積が足りないなら大きくすればいい、と考えたくなります。ところが、これは面積の問題ではありません。伝熱面積を無限に増やしても達成できない温度条件が存在するのです。その正体が温度クロスです。

プロセス設計者が熱収支を組んだ直後に確認すべき、実務直結の話です。

この記事の結論

・温度クロスとは、低温流体の出口温度が高温流体の出口温度を上回ること。

・純向流なら温度クロスは可能。並流では絶対に起きません。

・1-2型には、面積を無限に増やしても超えられない P の上限があります。

・対処はシェルの直列化、F型シェル、プレート式などへの変更、そしてプロセス条件の見直し。

温度クロスとは

温度クロスとは、低温流体の出口温度が、高温流体の出口温度を上回る状態を指します。

$$T_{c,out}>T_{h,out}$$

具体例

高温流体:150℃ → 60℃

低温流体:30℃ → 110℃

低温側は110℃まで上がっていますが、高温側は60℃まで下がっています。低温流体の出口のほうが50 K も熱い。これが温度クロスです。

なぜ熱力学に反しないのか

一見おかしく感じるかもしれませんが、矛盾はありません。

熱力学が要求するのは、「熱交換器のどの断面でも、高温側の局所温度が低温側の局所温度より高いこと」です。出口どうしを比べているのではありません。

向流の場合、低温流体の出口は高温流体の入口と向かい合っています。

高温側入口 150℃ ↔ 低温側出口 110℃ → 温度差 40 K(正)

高温側出口 60℃ ↔ 低温側入口 30℃ → 温度差 30 K(正)

どちらの端でも温度差は正です。だから成立します。温度クロスは向流だからこそ可能な、向流の強みそのものです。

並流では絶対に起きない

並流では両流体が同じ向きに流れ、出口で隣り合います。両者の温度は近づいていく一方で、交差することはありません。せいぜい同じ温度に漸近するだけです。

熱交換器の温度効率とNTU法 熱交換器の温度効率とNTU法【出口温度が未知でも計算できる】

なぜ1-2型で問題になるのか

多管式熱交換器で最も一般的な1-2型は、シェル側1パス・チューブ側2パスです。チューブ側の流体は行って戻ってきます。

つまり、チューブ側の半分は向流、残り半分は並流になっています。

この「並流の部分」が足を引っ張ります。並流部では温度クロスが作れないため、全体としても大きな温度クロスを達成できなくなるのです。

P には上限がある

前の記事で説明した無次元数を使います。

$$P=\frac{T_{c,out}−T_{c,in}}{T_{h,in}−T_{c,in}}  R=\frac{T_{h,in}−T_{h,out}}{T_{c,out}−T_{c,in}}$$

1-2型では、伝熱面積を無限大にしたときの P の上限が理論的に決まっています。

$$P_{max}=\frac{2}{R+1+\sqrt{R^2+1}}・・・①$$

R1-2型の Pmax
0.20.901
0.40.807
0.60.723
0.80.649
1.00.586
1.50.465
2.00.382
3.00.279
4.00.219

要求される P がこの値を超えていたら、その熱交換器はどんなに大きくしても成立しません。伝熱面積は無関係です。これが「面積を増やしても解決しない」ということの意味です。

熱交換器の伝熱面積の求め方 熱交換器の伝熱面積の求め方【4ステップの計算例つき】

計算例:温度クロスで1-2型が破綻する

条件

高温流体:150℃ → 60℃

低温流体:30℃ → 110℃

① P と R を計算する

$$R=\frac{150−60}{110−30}=\frac{90}{80}=1.125$$

$$P=\frac{110−30}{150−30}=\frac{80}{120}=0.667$$

② 1-2型の上限と比較する

$$P_{max}=\frac{2}{1.125+1+\sqrt{1.125^2+1}}=\frac{2}{3.630}=0.551$$

要求 P = 0.667 > 上限 0.551。成立しません。1-2型では、伝熱面積をいくら増やしてもこの温度条件は達成できません。

③ シェルを直列にする

シェルを複数直列に並べると、全体として向流に近づき、達成できる P が上がります。各シェルが2チューブパスの場合、N台直列にしたときの結果は次のとおりです。

シェル数PmaxF判定
10.551成立せず×
20.6940.661×(F < 0.8)
30.7590.878
40.7950.934○(過剰)

2シェルでは P = 0.667 が上限 0.694 の内側に入り、数値上は成立します。しかし F = 0.661 と 0.8 を大きく下回っており、条件変動に耐えられません。

3シェル直列で F = 0.878。ここで初めて実用的な設計になります。

④ 面積を計算する

向流としての対数平均温度差は

$$ΔT_1=150−110=40\ K  ΔT_2=60−30=30\ K$$

$$ΔT_{lm}=\frac{40−30}{\ln(40/30)}=\frac{10}{0.2877}=34.8\ K$$

3シェル直列の F = 0.878 を掛けて

$$ΔT_m=(0.878)(34.8)=30.5\ K$$

もし温度クロスを見落として純向流(F = 1)で計算していたら、ΔTm を 34.8 K と見積もることになります。実際は 30.5 K ですから、必要面積を12%過小評価していたことになります。

このツールで確かめる

ここまでの判定は、温度を4つ入れるだけで自動化できます。下のツールで、自分の条件が1-2型で成立するか、何シェル必要かを確かめてください。スライダーを動かすと、温度プロファイルと F の落ち方がその場で変わります。

温度クロス・補正係数 F 判定ツール

4つの温度だけで、その条件が 1-2型(シェル1パス・チューブ2パス)で成立するか、何シェル必要かが分かります。流量も伝熱面積も要りません。

例で試す:

温度プロファイル(向流)

2本の線の隙間が温度差。低温側が高温側の出口を追い越すと温度クロス。

F の落ち方(この R での断面)

右へ行くほど崖。0.8 を下回る領域は傾きが急で、条件が振れると能力が出ない。

P(温度効率)
R(熱容量流量比)
ΔTlm(向流基準)
1-2型の P 上限
温度クロス
シェル直列数P の上限FΔTm = F・ΔTlm判定

F ≧ 0.8 を実用の目安としています。これは精度ではなく感度の話で、右のグラフのとおり 0.8 を下回る領域は傾きが急なためです。

片側が相変化(凝縮・蒸発)で温度一定なら R = 0 となり、流れの向きによらず F = 1 です。

右のグラフで、設計点(●)が崖のどのあたりにいるかを見てください。F ≧ 0.8 という目安が「精度」ではなく「感度」の話だというのが、曲線の傾きとして目で分かると思います。

対処の選択肢

温度クロスで1-2型が使えないとき、選択肢は4つあります。

① シェルを直列にする

最も一般的な対処です。上の例のように、必要なシェル数を計算して並べます。

デメリットは、機器台数が増えること、配管とスペースが増えること、そして各シェルのノズル間配管で圧力損失が増えることです。

② F型シェルを使う

シェルの中に縦仕切板(ロンジチューディナルバッフル)を入れ、シェル側も2パスにしたものが F型シェルです。1台で2シェル相当の性能が出ます。

ただし仕切板の両側で温度差が大きいと、仕切板を通した熱の漏れ(サーマルリーク)が起きて性能が落ちます。また仕切板とシェルの隙間からの流体の漏れも問題になります。

メーカーによって仕切板のシール構造が違うので、採用時は実績を確認してください。

③ 純向流に近い形式に変える

プレート式熱交換器は、流路を1パスに組めばほぼ純向流になります。F ≒ 1 が期待でき、温度クロスにも強い形式です。

温度クロスが大きく、かつ温度・圧力条件がガスケットの制約内(おおむね200℃以下)に収まるなら、プレート式が有力な選択肢になります。二重管式も純向流ですが、容量が小さい用途に限られます。

④ プロセス条件を見直す

これが最も本質的な対処です。

そもそも、なぜそこまで温度クロスさせる必要があるのか。低温側の出口温度を数℃下げられないか。

P と R は温度4つで決まるので、温度をわずかに動かすだけで結果が変わることがあります。前の例で低温側出口を110℃から下げてみます。

低温側出口RP2シェルのF3シェルのF必要シェル数
110℃1.1250.6670.6610.8783
105℃1.2000.6250.7410.9013
100℃1.2860.5830.7950.9183
95℃1.3850.5420.8340.9332
90℃1.5000.5000.8640.9442

110℃を95℃に下げるだけで、シェルが3台から2台に減ります。15 K の妥協で機器が1台減るわけです。

その15 K が本当に必要なのか。下流の工程で吸収できないか。ここを詰めるのは、プロセス全体を見ているユーザー側の設計者にしかできない判断です。機器を増やす前に、まずプロセス側で吸収できないかを検討してください。

よくある誤解

誤解1:温度クロスは異常だ

異常ではありません。向流の正常な使い方であり、むしろ効率的な熱回収では日常的に起こります。問題なのは、温度クロスがあるのに1-2型を前提に検討を進めてしまうことです。

誤解2:面積を増やせば解決する

Pmax は面積と無関係に決まる上限です。壁にぶつかっている場合、面積の増加はまったく効きません。「メーカーの見積もりが大きすぎる」と感じたとき、実はシェルを直列にせざるを得ない条件だった、というのはよくある話です。

誤解3:F が小さくても計算は成立する

数値上は成立しても、実務上は使えません。F が 0.8 を切る領域では曲線が急で、条件が少し振れただけで能力が出なくなります。

実務のチェック手順

熱収支を組んだ直後、面積を計算する前に確認してください。

1. Tc,out > Th,out か?(温度クロスの有無)

2. P と R を計算する

3. 1-2型の Pmax = 2/(R + 1 + √(R2+1)) と比較する

4. P > Pmax なら、シェル直列か形式変更を前提に検討する

5. F ≧ 0.8 を満たすシェル数を求める

この5ステップは電卓でできます。メーカーに引き合いを出す前に自分で押さえておけば、返ってきた提案の妥当性を判断できますし、「なぜ3台になるのか」を社内で説明できます。

まとめ

・温度クロスとは Tc,out > Th,out の状態。向流だから可能であり、熱力学に反しません。

・1-2型はチューブ側が往復するため並流部を含みます。そのため達成できる P に上限があります。

・Pmax = 2/(R + 1 + √(R2+1))。要求 P がこれを超えたら、面積を増やしても成立しません。

・対処は、シェル直列、F型シェル、プレート式などへの変更、そしてプロセス条件の見直し。

・熱収支を組んだ直後に P・R・Pmax を確認します。面積計算より前にやるべきことです。

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参考文献

  • 尾花英朗『熱交換器設計ハンドブック(増訂版)』工学図書、1974年(1994年 2版6刷)、第1部 第3章「表面式熱交換器の基本伝熱式」3・3 胴側1パス・管側偶数パス熱交換器、3・9 熱交換器の組合せ、3・14 対数平均温度差および温度差補正係数 Amazonで見る
  • 吉田邦夫・吉田英生 監修『熱交換器ハンドブック』省エネルギーセンター、2005年、I編2.1「熱交換器における伝熱の基礎」(2)対数平均温度差と温度差補正係数、I編2.2「設計の手順」 Amazonで見る
  • 日本機械学会『伝熱工学(JSMEテキストシリーズ)』日本機械学会、2023年、第7章「伝熱の応用と伝熱機器」 Amazonで見る