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フェイルセーフ設計|停電したとき、その弁はどちらへ動きますか

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いま担当しているプラントで停電が起きたとき、あの調節弁はどちらへ動きますか。

計装空気が抜けたら。信号線が断線したら。その一つひとつに、設計時の答えがあります。そしてその答えは、たいてい図面のどこかに「FC」「FO」という2文字で書かれているだけです。

この記事では、フェイルセーフ設計の考え方と、「安全側」を決めるときに実務で間違えやすい点を整理します。

この記事の要点

  • フェイルセーフとは「壊れ方を設計しておく」こと。壊れないことではない
  • 「安全側」は系統ごとに違う。燃料は閉、冷却は開が基本形
  • 1個ずつ決めると、全部が同時に動いたときに矛盾する。系全体で確認する
  • 冷却水弁を「開」にしても、ポンプが停電で止まれば意味がない
  • 単体の安全側が、プラント全体では異常の引き金になることがある(東ソー南陽)

1. フェイルセーフは「壊れ方の設計」

設備は壊れます。信号は途切れます。電気も空気も止まります。それを前提にするのが、フェイルセーフの発想です。

壊れないようにするのではなく、壊れたときにどちらへ倒れるかを決めておく。

これは本質安全設計の考え方の一部でもあります。危険をなくす、危険を小さくする、そして失敗しても悪くならないようにする

2. 調節弁のFC・FO・FL

空気作動式の調節弁では、計装空気が失われたときの動きを3種類から選びます。

記号読み方空気が切れたとき構造
FCFail Close閉じるバネで閉方向へ押す(空気で開ける)
FOFail Open開くバネで開方向へ押す(空気で閉める)
FLFail Lock
(Fail Last / Fail in Place)
その位置で止まるロックアップ弁などで空気を閉じ込める

ここで押さえておきたいのが、FCとFOは「バネがどちらへ押しているか」で決まるということです。つまり空気が来なくなれば、バネの力だけで動きます。動力を必要としません。

FL(その位置で保持)は、フェイルセーフではありません。異常時に「いまの状態を続ける」だけだからです。異常が進行している最中に、いまの状態を続けるのは安全でしょうか。FLを選ぶときは、その理由を明確にしておく必要があります。

3. 「安全側」は、系統ごとに違う

FCが安全、FOが危険、というものではありません。その弁が何を流しているかで決まります。

流体・用途通常の選択理由
燃料ガス、燃料油FC止めないと燃え続ける
加熱蒸気、熱媒FC加熱を止める。暴走反応を避ける
反応器への原料供給FC反応を進めない
冷却水、冷媒FO冷やし続ける。止めると温度が上がる
緊急脱圧弁FO圧力を逃がす方向へ
不活性ガス(シール窒素)FO不活性雰囲気を保つ
タンクへの受入FCオーバーフローを避ける
タンクからの払出FC が多い意図しない流出を避ける

基本形は「入れるものは止める、冷やすものは続ける」です。エネルギーを入れる側を切り、エネルギーを抜く側を残す。

迷うのは「抜き出し側」

反応器や塔からの抜き出し弁は、判断が割れます。

  • 閉じる(FC)なら、危険物を外へ出さない。しかし中身が溜まり続ける
  • 開く(FO)なら、レベルは上がらない。しかし下流へ異常な組成のものが行く

どちらが安全かは、「溢れる怖さ」と「下流へ送る怖さ」を比べて決めます。この判断は記録に残すべきものです。数年後に「なぜFCなのか」と聞かれたときに答えられなければ、それは失われた設計根拠です。

4. 1個ずつ決めると、系として矛盾する

ここが、この記事で最も伝えたい点です。

フェイルセーフは、弁ごとに決めます。しかし停電や空気喪失は、全部の弁に同時に起きます。

例1:入口も出口も閉じる

原料の入口をFC(止める)、製品の出口もFC(外へ出さない)。どちらも、単体では正しい選択です。

しかし両方が同時に閉じると、容器は密閉されます。中で反応が続いていたら。残熱があったら。外部から加熱されていたら。

2011年の東ソー南陽では、通常の停止基準に従って塩酸塔還流槽を縁切り・封止した結果、その中でHClとVCMの反応が約6時間かけて進み、槽が破裂しました。

例2:冷却水弁は開いたが、ポンプが止まった

冷却水弁をFO(開)にしておけば、異常時も冷やし続けられる――そう考えます。

しかし停電なら、冷却水ポンプも止まります。弁が開いていても、水は流れません。

これは共通原因の問題です。

弁の動作と、ポンプの動作が同じ電源に依存しているなら、それらは独立していません。「弁はフェイルオープンだから安全」は、その先の動力まで見て初めて言えます。

1984年のボパールでは、冷凍設備が止まっていました。4つの防護層が同時に効かなかったのは、それらが同じ理由に依存していたからです。

だから、系として演習する

対策は単純です。P&IDを広げて、「いま全部の弁がフェイル位置へ動いた」と仮定して、系がどうなるかを追う。

  • 全停電――弁、ポンプ、撹拌機、計器、照明、換気がどうなるか
  • 計装空気喪失――弁だけが動く。ポンプは回り続ける
  • 冷却水喪失――除熱がなくなる。何分もつか
  • 不活性ガス喪失――シールが切れる。空気が入る経路はどこか

2番目が意外に見落とされます。計装空気だけが失われた場合、弁は動いてもポンプは回り続けます。閉じた弁へポンプが送り続ければ、締切運転になります。

5. 単体の安全側が、全体の異常になることがある

もうひとつ、東ソー南陽の事故が示した論点があります。

この事故の発端は、オキシ反応工程の緊急放出弁が故障で「開」になったことでした。原因はポジショナ内部のトルクモータコイルの、温度変化による接触不良です。

緊急放出弁が開く方向へ失敗するのは、その弁単体で見れば安全側です。過圧を避ける方向だからです。

しかし結果は、系内圧力の低下 → 系列のインターロック停止 → 大幅な緊急ロードダウン → 塩酸塔の温度制御の失敗、という連鎖でした。報告書はこう記しています。

「当該弁の故障によりオキシ反応工程が緊急停止に至る最重要トラブルに発展することは想定されていなかったため、対処方法についてマニュアルへの記載はなく、事前の危険予知や異常対応の教育・訓練がなされていなかった」

「安全側に倒れた」は、その機器の安全であって、プラントの安全ではありません。安全側へ倒れた結果として起きる急激な運転変動が、次の異常を呼びます。フェイルセーフの選択と同時に、「そう動いたあと、運転をどうするか」を手順にしておく必要があります。

6. 計装空気と電源は、それ自体が防護層

フェイルセーフを議論すると、必ず行き着くのがここです。

計装空気と電源は「ユーティリティ」と呼ばれ、プロセスの脇役として扱われがちです。しかし安全機能の大半が、この2つに依存しています。

確認することなぜ
非常用電源は、何に給電するか照明だけでなく、冷却水ポンプ・撹拌機・計器が入っているか
計装空気の受け容量圧縮機が止まってから、何分間 弁を動かせるか
計装空気に水分・油分が入らないか凍結や固着で、いざというとき動かない
UPSの保持時間計器が生きているうちに、安全停止まで到達できるか
非常用設備の起動試験ふだん止まっている設備は、必要なときに起動しないことがある

最後の項目は重要です。普段使わない設備ほど、いざというときに動きません。定期的に起動させ、負荷をかけて確認する仕組みが要ります。

7. フェイルセーフにできないものもある

正直に書いておくべきことがあります。すべてをフェイルセーフにはできません。

  • 入口も出口も安全側が「閉」で、閉じ込めが危険な系統
  • 冷却の継続に動力が要る系統(自然循環でない場合)
  • 安全側へ動かすこと自体にエネルギーが必要な機構

こういう箇所には、別の防護層を足します。非常用電源、蓄圧タンク、自然循環による除熱、あるいは安全弁のような動力のいらない装置です。

安全弁が今なお重要なのは、電気も空気も信号も要らないからです。バネと圧力だけで動きます。

8. 自分の職場で確かめる7つのこと

  • 担当プラントの主要な調節弁のFC/FOを、言えますか。図面を見ずに
  • なぜその向きなのか、理由が記録されていますか。
  • 「全弁がフェイル位置へ動いた」状態を、系として追ったことがありますか。
  • 入口と出口が同時に閉じて、閉じ込めになる容器はありませんか。
  • 冷却を続けるために、動力が要りませんか。その動力は非常用電源に入っていますか
  • 計装空気だけが失われたとき、ポンプは回り続けますか。
  • FL(位置保持)の弁はありますか。なぜFLなのか、説明できますか

3番目は、若手の教育にもそのまま使えます。P&IDを広げて「いま停電した」と言うだけで、演習になります。

まとめ

  • フェイルセーフは壊れ方の設計。壊れないようにすることではない
  • 基本形は「入れるものは止める、冷やすものは続ける」。FLは安全側ではない
  • 停電・空気喪失は全部の弁に同時に起きる。系として矛盾しないか確認する
  • 弁を開にしても、動力が同じ電源なら独立していない
  • 単体の安全側が、プラント全体では急激な変動を生むことがある

フェイルセーフの設計は、「いちばん悪い日の朝に、この設備はどうなっているか」を想像する作業です。図面の2文字には、その想像の結果が詰まっています。

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参考文献