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【まとめ】プロセス安全設計の全体像|対策の優先順位と、独立防護層で守るという考え方

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「安全対策を打て」と言われたとき、何から考えますか。

インターロックを追加する。安全弁を大きくする。手順書に注意を書き足す。どれも対策ですが、強さがまったく違います。そして順番を間違えると、対策を打つほど現場が複雑になり、かえって事故が起きやすくなります。

プロセス安全設計には、はっきりした構造があります。①対策には優先順位がある ②守りは層で作る ③各層は独立でなければならない。この3つを押さえると、個別の技術がすべて1枚の地図の上に並びます。

この記事は、当ブログの「プロセス安全設計」カテゴリの入口です。全体像を示したうえで、各テーマの詳細記事へ案内します。どこから読めばいいか分からない方は、まずここからどうぞ。

プロセス安全設計の3原則

  • 順番がある 運転対応 → 能動的 → 受動的 → 本質安全の順に強くなる
  • 層で守る 独立防護層はIPL1(プロセス設計)からIPL8(地域防災計画)までの8層
  • 独立でなければ数えられない 同じDCS・同じセンサー・同じ電源を共有する層は、実は1つの層

1. 対策には順番がある

安全工学会の『実践・安全工学シリーズ2』は、プラントの安全化方策を4つに分類しています。下に行くほど強いという順序があります。

類型考え方弱点
運転対応安全異常を検知したら運転員が操作する人が気づき、判断し、操作する必要がある。進展が速ければ間に合わない
能動的安全安全システムを作動させて防ぐ待機系なので「そのとき動くか」が問われ続ける
受動的安全強度・材質など動かないもので守る信頼度は高いがコストがかかる。経年劣化で機能を失う
本質安全危険そのものをなくす設計の上流でしか手を打てない

理由はシンプルで、下に行くほど「壊れる余地」が減るからです。無い物質は漏れないし、低い圧力は吹き飛ばしません。

ここで最も誤解されるのが「材質を上げれば本質安全になる」という考えです。材質格上げは受動的安全であって、危険そのものは残っています。この違いを、一次資料の具体例(発煙硫酸の冷却剤を水から灯油へ)で解説したのが次の記事です。

2. 守りは「層」で作る

1つの対策で守り切ることはできません。だから層を重ねます。設計面では4段階で考えます。

  1. 異常を発生させない(機器の健全設計、ユーティリティの信頼性、誤操作防止)
  2. 異常を早期に検知する(プロセス状態量の常時監視)
  3. 事故に進展させない(インターロック、圧力放出、フェイルセーフ)
  4. 被害を広げない(レイアウト、遮断弁、防液堤、耐火設計)

このうち②が最も軽視され、しかも最も本質的です。一次資料は「異常が検知できなければ運転員による対応や安全システムの作動も不可能となる。異常の早期検知は事故予防にあたっての必要条件といえる」としています。センサーが危険の現れる場所を見ていなければ、その先の層はすべて動きません。

これを米国流に8層で整理したものが独立防護層(IPL)です。

3. 8つの層と、対応する記事

ここが、このカテゴリの地図です。各層に、どの記事が対応するかを並べます。

内容対応する記事
IPL1プロセス設計(=本質安全の領域)本質安全設計の4原則
IPL2基本プロセス制御システム(BPCS)多重防護「異常の発生防止・早期検知」
IPL3運転員による介入(重要警報)多重防護/非定常運転
IPL4安全インターロックプロセス安全インターロック
IPL5物理的防護(系内)=安全弁・破裂板安全弁の吹出量/安全弁の設置と配管設計
IPL6物理的防護(系外)=防液堤多重防護「被害の局限化」
IPL7プラント内緊急対応計画多重防護「被害の局限化」
IPL8地域防災計画多重防護「被害の局限化」

この表から2つのことが読み取れます。

ひとつめ。第1層は装置ではなく設計思想です。IPL1が厚ければ、以降の層への要求が軽くなります。逆にここが薄いと、IPL4以降を厚くし続けることになり、インターロックと安全弁ばかりが増えていきます。

ふたつめ。後半3層はプラントの外にあります。緊急対応計画も地域防災計画も、れっきとした防護層です。設備だけが安全を担っているわけではありません。

4. 各層をどう作るか

IPL4:安全インターロック

設計手順は6ステップですが、要点は「先に機械的・物理的対策で守れないかを確認する」という順序です。運転対応で足りる事象までインターロック化すると、システムが複雑になり誤作動と解除が増えます。

そして最大の急所が解除(バイパス)です。解除された瞬間、その層はゼロになります。三井化学岩国大竹の爆発は、解除操作から始まりました。

IPL5:圧力放出設備

安全弁は2つの記事に分けています。「どれだけ逃がすか」「どうつなぐか」です。

前者では、設計ベースが単独の異常事象で決まること、ただし停電・冷却水喪失・計装空気喪失は単一要因として影響機器を合算すること、そして外部火災ケースの計算例を扱います。

後者では、入口配管の圧損を設定圧の3%以下に抑える理由(チャタリング)、過大サイズも同じ問題を招くこと、そして役割の違う緊急脱圧弁(BLEVEを防ぐ「15分・50%」の目安)を扱います。

5. 設計が試されるのは、非定常のとき

ここまで設計の話をしてきましたが、それが本当に効くかどうかが試されるのは、止めるとき・動かすときです。

非定常作業とは、平たく言えば防護層を自分の手で外していく作業です。LOTOで電源を切り、盲板を入れ、インターロックをバイパスし、安全弁を隔離する。平常時は8層あった防護が、作業中は3層しか残っていない、という状態が普通に起こります。

しかも運転条件は、定常運転では通らない「経路」を通ります。空気が残った状態で可燃性ガスを入れれば、混合気は必ず爆発範囲を通過します。

パージ・隔離・脱圧の設備は、定常運転の性能には一切寄与しません。だから設計段階で削られやすく、運転開始後に「抜けない」「切り離せない」「パージできない」という形で表面化します。ここを設計で確保できるかが、非定常時の安全を決めます。

6. どの順に読むか

目的別に、おすすめの読み順を示します。

目的読む順序
体系を一通り押さえたい本質安全設計 → 多重防護とIPL → インターロック → 安全弁(吹出量→設置) → 非定常運転
HAZOPやLOPAに参加する多重防護とIPL → 本質安全設計 → インターロック
安全弁の妥当性を確認したい安全弁の吹出量 → 安全弁の設置と配管設計
定修・立ち上げを控えている非定常運転 → インターロック(解除の管理)
設備の改造を計画している本質安全設計 → 変更管理(MOC)

最後の行だけ、別カテゴリ(プロセス安全マネジメント)へのリンクです。設計を変えるという行為そのものが、管理の対象だからです。

7. 設計者が繰り返し問うべき5つのこと

カテゴリ全体を通して繰り返し出てくる問いを、5つにまとめます。設計レビューやHAZOPの場で使ってください。

  1. そもそも、この危険をなくせないか。保有量を減らす、物質を替える、条件を和らげる、単純にする
  2. いま数えている層は、本当に独立か。同じDCS、同じセンサー、同じ電源を共有していないか
  3. 異常が現れる場所を、センサーは見ているか。計器の有無ではなく、位置の問題
  4. この対策は、4類型のどれか。「材質格上げ」を本質安全だと思い込んでいないか
  5. 止めるとき・動かすときに、この設計は機能するか。定常運転だけを見て設計していないか

まとめ

  • 安全化方策は運転対応 → 能動的 → 受動的 → 本質安全の順に強くなる
  • 設計は①異常を起こさない ②早く気づく ③事故にしない ④被害を広げないの4段階
  • 独立防護層はIPL1(プロセス設計)〜IPL8(地域防災計画)。第1層は装置ではなく設計思想
  • 独立していない層は、数えられない。共通要因があれば実質1つ
  • 設計が試されるのは非定常のとき。防護層を外しながら作業する状態を想定しているか

個別の技術は、この地図のどこかに必ず位置を持っています。自分がいま何層目の話をしているのかが言えること。それが、対策を積み上げるのではなく、設計するということです。

プロセス安全のどの領域から学べばいいか、全体の地図はこちらにまとめています。

参考文献

  • 安全工学会 監修、新井充・佐藤吉信・高木伸夫・野口和彦・若倉正英 編『実践・安全工学シリーズ2「プロセス安全の基礎」』化学工業日報社、2012年、第3章「プロセス安全設計の基礎」 Amazonで見る
  • Center for Chemical Process Safety / AIChE 著、化学工学会 SCE・Net 安全研究会 訳『若い技術者のためのプロセス安全入門』丸善出版、2018年 Amazonで見る