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安全弁の吹出量はどう決まる?設計ベースの考え方と外部火災ケースの計算例

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安全弁は、化学プラントで最後に圧力を逃がす防護層です。ところが「この安全弁の口径は、なぜこのサイズなのか」を説明できる人は、現場では意外と多くありません。

安全弁のサイズは、「最も厳しい単独の異常事象で、どれだけのガスを逃がす必要があるか」から決まります。この「最も厳しいケース」を決める作業を設計ベースの決定といい、ここを間違えると、平常時はまったく問題なく、事故のときだけ足りないという最悪の形で表面化します。

この記事では、安全弁の型式選定から設計ベースの考え方、ケース別の吹出量の求め方、そして外部火災ケースの具体的な計算例までを整理します。

この記事の結論

  • 安全弁の設計は「複数の異常が同時に起きること」は想定しない。単独事象で最大となるケースを採用する
  • ただし停電・冷却水喪失・計装空気喪失は「単一要因」。影響を受ける機器すべての機能喪失を同時に想定する
  • 型式は背圧で決まる。コンベンショナル型は背圧が設定圧の10%以下、バランス型でも50%以下(できれば30%以下)
  • 外部火災ケースは火災エリアと濡れ面積から入熱を求め、潜熱で割ってベーパー量を出す

1. 安全弁・逃し弁・安全逃し弁 ― 用語を整理する

まず、現場で混用されがちな3つの用語を区別します。

名称用途作動特性
安全弁
(safety valve)
ガスまたは蒸気弁の上流側の静圧力によって作動し、瞬時に全開する
逃し弁
(relief valve)
おもに液体弁の上流側の静圧力に比例して開く
安全逃し弁
(safety relief valve)
両方使用条件に応じて安全弁または逃し弁として使用できる

通常「安全弁」と言うときは、この3種類の総称として使われることが多いです。作動特性の違いは実務上重要で、ガスは瞬時全開、液は比例開度という差は、吹出量の考え方にも設置場所の判断にも影響します。

なお圧力放出設備には、安全弁・逃し弁のほかに破裂板緊急脱圧弁があります。それぞれ役割が違います。

2. 型式の選定 ― 背圧で決まる

安全弁は作動原理でてこ式・パイロット式・ばね式に分かれますが、信頼性の高いばね式が広く使われています。そのばね式が、さらに2つに分かれます。

型式特徴背圧の制限
コンベンショナル型
(普通型)
吐出側の背圧が上昇すると、吹出圧力と作動性能に影響を及ぼす背圧が設定圧力(ゲージ圧)の10%以下の場合に使用
バランス型
(平衡型)
背圧の有無・変動にかかわらず、常に一定の圧力で作動する背圧は設定圧力の50%以下、できれば30%以下が望ましい

ここで実務上の分かれ目になるのが、放出先をどこにするかです。

  • 大気へ直接放出する場合:背圧の問題は生じません
  • ブローダウンヘッダー(フレアヘッダー)に導く場合:放出ガスがブローダウン配管内を流れることで圧力損失が生じ、安全弁の吐出側に背圧が加わります

つまり安全弁の型式は、単体では決められません。ブローダウン配管の圧力損失を計算し、その背圧の大きさに応じて型式を選ぶ必要があります。可燃性ガスや毒性ガスを扱うプラントで安全弁だけを個別に検討すると、ここで必ず行き詰まります。

3. 設計ベースの考え方 ― 「単独の異常事象」を想定する

ここが安全弁設計の最も重要な原則です。

プロセスプラントにおける安全弁の設計は、複数の異常事象が同時に発生することは通常は想定せず、単独の異常事象を想定した設計が一般的になされる。

たとえば「冷却水ポンプの故障停止」と「原料供給の調節弁の全開」は、相互につながりのない別々の故障です。この2つが同時に起きることは想定しません。個々の単独の機器故障に起因する圧力上昇を、それぞれ対象として設計します。

ただし、ユーティリティ喪失は「単一要因」

ここに重要な例外があります。

停電によりポンプやコンプレッサなど複数の機器が同時に機能を喪失する場合は、単一要因です。この場合は、停電により影響を受ける機器の機能喪失をまとめて想定する必要があります。

冷却水喪失、計装用空気喪失も同じ扱いです。この3つは、それぞれ「1つの故障」でありながら、プラント中の複数機器を同時に止めます。だからこそ、しばしばこれが最大吹出量ケースになります

ユーティリティの故障形態にも段階があります。電力なら「ケーブル切断による単一機器の喪失」「1系統のバス故障」「プラント全体の電力喪失」。冷却水なら「個々の機器への供給停止」「サブヘッダー故障によるユニット停止」「メインヘッダー故障による全プラント停止」。どの故障形態を設計ベースに採るかは、その系統の信頼度を考慮して決めます。

4. 圧力上昇の要因を洗い出す

設計ベースを決める手順は、次の3ステップです。

  1. プラントの圧力上昇の原因となる事象をすべて洗い出す
  2. それぞれの事象発生時に、過圧による破壊から機器を保護するのに必要な吹出量を算出する
  3. 最大吹出量となるケースを設計ベースとして採用する

洗い出しの抜けが、そのまま設計の穴になります。代表的な圧力上昇要因は次のとおりです。

要因影響を受ける代表機器
電力の喪失電動ポンプ、コンプレッサ、ファン、電動弁
冷却水の喪失コンデンサー、クーラー
計装用空気の喪失調節弁
外部火災による容器のあぶり液を保有する容器すべて
熱交換器チューブ破断高圧流体が低圧側へ流入
調節弁の故障、機器出口弁の閉止容器、配管
エアフィンクーラーの故障停止凝縮系
蒸留塔の塔頂リフラックス停止蒸留塔
配管内に閉じ込められた液体の熱膨張ブロックされた配管
水の突沸高温油系への水混入

5. ケース別・吹出量の考え方

洗い出した各ケースについて、吹出量をどう見積もるか。一次資料が示す一般的な考え方をまとめます。

ケース吹出量の考え方
熱交換器のチューブ破損チューブ1本が全破断したと想定し、両側から流れ込む=チューブ2本分の流量とする
高圧系から低圧系への吹き抜け低圧側容器に安全弁を設け、吹出量は調節弁全開時の流量とする
全凝縮コンデンサーの故障コンデンサーへ流入するベーパー全量
部分凝縮コンデンサーの故障ベーパーの流入量と流出量の差
エアフィンクーラーのファン故障通常運転能力の20〜30%は自然対流で除熱できると期待してよい
同・ルーバー全閉自然対流の効果は考えない
蒸留塔のリフラックス停止冷却源が失われて圧力が上昇し、ベーパー組成が変わることを考慮する
遠心式コンプレッサ吐出側弁の全閉時の最高圧力が設計圧を超えるなら設置。吹出量は安全弁設定圧でのコンプレッサ流量
スチームタービンスチーム供給弁が全開、かつ排気量はゼロと考える

ポンプまわりの判断

  • 定容量ポンプ(往復動・ギヤ・スクリューなど)は締切圧が定義されないため、液用の安全弁を設置します
  • 遠心ポンプは、ポンプケーシングと下流機器の設計圧が「サクション側機器の設計圧+最高液ヘッド+締切圧」より低い場合に、吐出側へ安全弁を設置します
  • 安全弁を設置しない場合は、逆にケーシングと下流機器の設計圧を「サクション側設計圧+最高液ヘッド+締切ヘッド」以上にするという設計になります

設定圧は保護対象機器の設計圧に等しくしますが、設計圧の異なる複数機器を1つの安全弁で守る場合は、最も低い設計圧を採用します。

6. 外部火災ケースの計算例

外部火災は、多くの容器で設計ベースになる重要なケースです。国内では高圧ガス保安法が、海外ではAPI規格が示す式が広く採用されています。

まず前提条件を押さえる

吹出量の算出にあたっては、次の前提を置きます。ここを外すと計算そのものが無意味になります。

  • 火災エリア内に複数の機器がある場合は、同時に火炎にさらされると考え、それぞれの吹出量を算出して合算する
  • API規格では火災エリアを 2,500 ft²(232 m²)、火炎にさらされる機器の高さを地盤面から 25 ft(7.5 m) としている
  • 地盤面から7.5m以上の高さに機器がある場合でも、その機器の設置床がコンクリートなどでプール火災の継続が想定されるなら、その床からさらに7.5mまでを対象とする
  • 通常運転における入熱によるベーパーは算入しない
  • 火災入熱によるベーパーは安全弁からのみ放出されるとする(他の配管系への逃げは考えない)
  • 火災発生時にはすべての流れと回転機械は停止し、コンデンサー・クーラーの冷却効果は考慮しない
  • 容器内の液レベルは通常運転時の最高レベルとする
  • 塔槽類は耐火被覆・断熱処理により入熱を低減できると考えてよい

計算の流れ

火災ケースは、次の3段階で求めます。

  1. 濡れ面積(火炎にさらされる、液に接している表面積)を求める
  2. 火災入熱 Q を求める
  3. Q を蒸発潜熱で割って、ベーパー発生量 W を求める

API 521 が示す火災入熱の式は、次の形をしています。

Q = C × F × A0.82

  • Q:火災入熱 [kW]
  • A:濡れ面積 [m²]
  • F:環境係数(無保温の裸容器で 1.0。断熱・耐火被覆により小さくなる)
  • C:係数。排水設備と迅速な消火が整っている場合は 43.2、整っていない場合は 70.9(SI単位)

計算例

条件:n-ヘキサンを保有する無保温の容器。火炎にさらされる濡れ面積 A = 25 m²。排水設備と消火設備は整備済み(C = 43.2)。無保温なので F = 1.0。

Step1 火災入熱

A0.82 = 250.82 = 14.0

Q = 43.2 × 1.0 × 14.0 = 約 605 kW

Step2 ベーパー発生量

n-ヘキサンの蒸発潜熱を λ = 335 kJ/kg とすると、

W = Q ÷ λ = 605 ÷ 335 = 1.81 kg/s = 約 6,500 kg/h

Step3 オリフィス面積

この W を用いて、API 520 Part I の式でオリフィス面積を求めます。ここでは放出係数 Kd、背圧補正係数 Kb、比熱比 k、圧縮係数 Z、分子量 M、リリービング温度が必要になります。

オリフィス面積の式は単位系と流体条件(臨界流/非臨界流)で係数が変わるため、本記事では数値を示しません。必ず API Standard 520 Part I の最新版に当たってください。係数の暗記ではなく「どの物性値が必要になるか」を押さえておくのが実務的です。なお、外部火災の入熱式・環境係数の値も規格の版によって扱いが異なる場合があります。設計に用いる際は最新版と社内基準を確認してください。

この例で分かるのは、火災ケースは「濡れ面積」と「潜熱」でほぼ決まるということです。だから耐火被覆で F を下げる対策が効き、逆に液レベルを高く保つ運転は不利に働きます。

7. 現場でやりがちな失敗

失敗1:ユーティリティ喪失を「単独機器の故障」として扱う

最も多い設計上の落とし穴です。停電は1つの事象ですが、止まる機器は1台ではありません。影響を受ける機器をすべて洗い出して合算しないと、実際の火災・停電時に容量が足りません。

失敗2:プロセス変更後に設計ベースを再確認しない

処理量の増加、原料の変更、運転温度の変更。これらはすべて吹出量を変えます。安全弁の妥当性再評価は、変更管理(MOC)の必須項目です。安全弁は一度付けたら終わりの設備ではありません。

失敗3:背圧を考えずに型式を決める

フレアヘッダーに接続するのにコンベンショナル型を選ぶと、背圧で作動性能が狂います。ブローダウン配管の圧損計算とセットで型式を決めるのが原則です。

失敗4:安全弁があるから安心だと考える

安全弁は能動的安全に分類される防護層のひとつであり、それ自体が故障し得ます。詰まり、固着、設定圧のずれ。定期的な作動試験と分解点検が前提です。

そして設計思想としては、欧米では「安全弁は圧力危険に対する最終防護であり、できるだけ作動させずに安全を確保する」という考え方が広まっています。安全弁を大きくする前に、そもそも圧力が上がらない設計にできないかを問う。これが本質安全設計の順番です。

まとめ

  • 安全弁(ガス・瞬時全開)/逃し弁(液・比例開度)/安全逃し弁を区別する
  • 型式は背圧で決まる。コンベンショナル型は設定圧の10%以下、バランス型でも50%以下(望ましくは30%以下)
  • 設計ベースは単独の異常事象で最大となるケース。ただし停電・冷却水喪失・計装空気喪失は単一要因として影響機器をまとめて想定する
  • 外部火災ケースは濡れ面積 → 火災入熱 → 潜熱で割ってベーパー量の順で求める
  • プロセス変更のたびに設計ベースを再評価する。安全弁は付けたら終わりではない

安全弁の口径には、必ず「なぜその大きさなのか」という理由があります。その理由を説明できることが、設備を引き継ぐということです。

参考文献

  • 安全工学会 監修『実践・安全工学シリーズ2「プロセス安全の基礎」』化学工業日報社、2012年、第3章9節「圧力放出設備」pp.113-119、10節「緊急脱圧弁」pp.120-121 Amazonで見る
  • API Standard 520 Part I「Sizing, Selection, and Installation of Pressure-relieving Devices」
  • API Standard 521「Pressure-relieving and Depressuring Systems」
  • 高圧ガス保安法および関係省令・例示基準(外部火災時の吹出量の算定)