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熱伝達率と熱伝導率って違うの?
似た名前が多くて混乱する
そんな悩みを解決します。
・熱伝導率・熱伝達率・熱通過率の違い(計算例つき)
・熱伝達率が物性値ではない理由(温度境界層)
・熱抵抗の内訳から「どこが律速か」を読む方法

私の仕事は化学プラントの設計です。
その経験をもとに、3つの係数の違いを図と計算例で分かりやすく解説します。
解説動画も作成しましたので、合わせてご覧ください。
・熱伝導率 λ[W/(m・K)]は物質固有の物性値。物性表に載っています。
・熱伝達率 h[W/(m2・K)]は物性値ではありません。流れの状態と形状で決まるため、物性表には載っていません。
・熱通過率 K と総括伝熱係数 U は同じもの。隔壁をはさんだ流体間の熱の伝わりやすさです。
・単位に「m」があるかないかで、熱伝導率と熱伝達率は見分けられます。
まず全体像を1つの表で
| 名称 | 記号 | 単位 | 何を表すか | 物性値か |
|---|---|---|---|---|
| 熱伝導率 | λ(k) | W/(m・K) | 1つの物質の中の熱の伝わりやすさ | 物性値 |
| 熱伝達率 | h(α) | W/(m2・K) | 固体表面と流体の間の熱の伝わりやすさ | 物性値ではない |
| 熱通過率=総括伝熱係数 | K(U) | W/(m2・K) | 隔壁をはさんだ流体間の熱の伝わりやすさ | 物性値ではない |
熱を「移動」として捉えると、この3つの関係が見えてきます。高温流体から低温流体へ熱が移動するとき、熱は次の経路を順に通ります。
高温流体 →(熱伝達 h)→ 壁の表面 →(熱伝導 λ)→ 壁の裏面 →(熱伝達 h)→ 低温流体
この一連の流れをまとめて1つの係数で表したのが、熱通過率=総括伝熱係数です。
熱伝導率 λ ― 物質の中を伝わる
熱伝導率は、1つの物質の中(固体、あるいは静止した液体・気体)を熱がどれだけ伝わりやすいかを表す物性値です。
フーリエの法則
$$Q=λA\frac{T_{w1}−T_{w2}}{δ}$$
Q:伝熱量[W]
λ:熱伝導率[W/(m・K)]
A:伝熱面積[m2]
Tw1:高温側の表面温度[K]
Tw2:低温側の表面温度[K]
δ:物体の厚さ[m]
単位の W/(m・K) は、「厚さ1 m、温度差1 K あたり、1 m2 を通過する熱量」という意味です。厚さが分母に来るので、単位に「m」が入っています。
計算例:鉄板を伝わる熱
厚さ δ = 0.1 m の鉄板がある。高温側の表面温度が100℃、低温側の表面温度が20℃のとき、1 m2 あたりの伝熱量を求めます。
鉄の熱伝導率を調べると λ = 80.3 W/(m・K)
$$Q=(80.3)(1)\frac{100−20}{0.1}=64240\ W$$
厚さ10 cmもの鉄板を隔てているのに、1 m2 あたり64 kW も流れます。金属がいかに熱を通すかが分かります。
材料による違いを見る
| 材料 | 熱伝導率 λ[W/(m・K)] |
|---|---|
| 銅 | 398 |
| アルミニウム | 237 |
| 炭素鋼 | 80 前後 |
| ステンレス鋼(SUS304) | 16 |
| チタン | 17 |
| ガラス | 1.0 |
| 水(20℃、静止) | 0.60 |
| グラスウール(保温材) | 0.04 |
| 空気(20℃、静止) | 0.026 |
ここで実務的に重要なのは、炭素鋼とステンレス鋼で5倍違うという点です。
「材質をSUS304に格上げすれば安全になる」と考えて材質変更すると、伝熱性能は落ちます。熱交換器の材質変更は、耐食性だけでなく伝熱性能への影響もセットで評価する必要があります。
もう1つ、空気と保温材の熱伝導率がほぼ同じであることにも注目してください。保温材が効くのは、材料そのものが優れているからではなく、材料の中に動かない空気を閉じ込めているからです。だから保温材が濡れると(空気が水に置き換わると)性能が一気に落ちます。
熱抵抗として見る
伝熱を考えるときは、熱伝導率そのものより「熱抵抗 δ/λ」で捉えるほうが実用的です。
鉄板 100 mm:δ/λ = 0.1 / 80.3 = 1.25 × 10−3 m2・K/W
グラスウール 50 mm:δ/λ = 0.05 / 0.04 = 1.25 m2・K/W
熱伝達率 h ― 表面と流体の間で受け渡す
熱伝達率は、固体表面と、それに接して流れる流体との間で熱がどれだけ伝わりやすいかを表す量です。
ニュートンの冷却則
$$Q=hA(T_h−T_c)$$
Q:伝熱量[W]
h:熱伝達率[W/(m2・K)]
A:伝熱面積[m2]
Th:高温側の温度[K]
Tc:低温側の温度[K]
単位は W/(m2・K)。「1 m2、温度差1 K あたりの熱量」です。熱伝導率と違って厚さの概念がないので、単位に「m」が入りません。
ここが見分けるポイントです。単位に「m」があれば熱伝導率、なければ熱伝達率。
計算例:空気から鉄への伝熱
表面温度100℃の鉄が、120℃の空気と接している。空気側の熱伝達率を h = 20 W/(m2・K)(自然対流)とする。鉄表面1 m2 あたり、空気から鉄への伝熱量を求めます。
$$Q=(20)(1)(120−100)=400\ W$$
ここで、もし風速5 m/s の風が当たって強制対流になれば h は40程度まで上がり、
$$Q=(40)(1)(120−100)=800\ W$$
同じ物体、同じ温度、同じ空気なのに、風が当たるだけで伝熱量が倍になります。これが、熱伝達率が物性値ではないということの意味です。
熱伝達率がとる値の幅
| 伝熱の形態 | 熱伝達率 h[W/(m2・K)] |
|---|---|
| 気体・自然対流 | 2 〜 25 |
| 気体・強制対流 | 25 〜 250 |
| 液体・自然対流 | 50 〜 1,000 |
| 液体・強制対流 | 100 〜 15,000 |
| 沸騰・凝縮(相変化) | 1,000 〜 100,000 |
熱伝達率の具体的な求め方は別記事で詳しく扱います。
なぜ熱伝達率は物性値ではないのか ― 温度境界層
ここは少し理屈の話になります。読み飛ばしても計算には支障ありませんが、理解しておくと h の挙動が腑に落ちます。
流れている流体とそれに接する固体との間に温度差があるとき、流体の温度は次のように変化します。
固体から十分離れたところでは主流の温度。固体に近づくにつれて急激に変わり、固体表面ではちょうど固体の温度と等しくなる。
この温度が急変する領域を温度境界層と呼びます。
固体表面のごく近くでは流体は動けません(壁面で流速がゼロになる)。つまり表面のすぐそばには、実質的に静止した流体の薄い層があります。熱はこの層を熱伝導で通り抜けなければなりません。
したがって熱伝達率は、大まかには次のように書けます。
$$h≒\frac{λ_f}{δ_T}$$
λf:流体の熱伝導率[W/(m・K)]
δT:温度境界層の厚さ[m]
厳密には、熱伝達率は壁面における温度勾配から定義されます。
$$h=\frac{−λ_f(∂T/∂y)_{wall}}{T_w−T_f}$$
上の h ≒ λf/δT は、境界層内の温度分布を直線で近似したときの姿だと理解してください。
いずれにしても、ここから2つのことが分かります。
・熱伝達率は流体の熱伝導率に比例する。だから流体の物性とは無関係ではない
・熱伝達率は温度境界層の厚さに反比例する。境界層の厚さは流速・流路形状・粘度で変わる
熱通過率 K(=総括伝熱係数 U)― 壁の両側をまとめる
実際の熱交換器では、隔壁の表面温度は測れません。測れるのは両側の流体温度だけです。
そこで、熱伝達と熱伝導をひとまとめにして、流体温度だけで伝熱量を計算できるようにしたのが熱通過率です。
計算式(平板の場合)
$$K=\frac{1}{(1/h_h)+(δ/λ)+(1/h_c)}$$
$$Q=KA(T_h−T_c)$$
K:熱通過率[W/(m2・K)]
hh:高温側の熱伝達率[W/(m2・K)]
hc:低温側の熱伝達率[W/(m2・K)]
λ:隔壁の熱伝導率[W/(m・K)]
δ:隔壁の厚さ[m]
Th:高温流体温度[K]
Tc:低温流体温度[K]
熱通過率と総括伝熱係数は同じもの
熱通過率(記号 K)と総括伝熱係数(overall heat transfer coefficient、記号 U)は、同じ量を指す別名です。機械工学系では K、化学工学系では U が使われる傾向がある、という程度の違いにすぎません。
ときどき「熱通過率に汚れ係数を加えたものが総括伝熱係数」という説明を見かけますが、これは正しくありません。汚れを含めるかどうかは、名前ではなく「清浄時の値か、汚れ時の値か」で区別します。
実際の熱交換器では、隔壁の両面に汚れが付着します。汚れの熱抵抗を加えると
$$U=\frac{1}{(1/h_h)+r_h+(δ/λ)+r_c+(1/h_c)}$$
rh、rc:汚れ係数[m2・K/W]
となります。
計算例:空気と水の熱交換
厚さ0.1 mの鉄板を隔てて、120℃の空気と20℃の水が熱交換している。1 m2 あたりの伝熱量を求めます。
熱抵抗を1つずつ出します。
| 熱抵抗の項 | 値[m2・K/W] | 割合 |
|---|---|---|
| 空気側 1/hh | 5.000 × 10−2 | 81.6% |
| 鉄板 δ/λ | 1.245 × 10−3 | 2.0% |
| 水側 1/hc | 1.000 × 10−2 | 16.3% |
| 合計 | 6.125 × 10−2 | 100% |
$$K=\frac{1}{(1/20)+(0.1/80.3)+(1/100)}=16.3\ W/(m^2・K)$$
伝熱量は、空気と水の温度差100 K を使って
$$Q=(16.3)(1)(120−20)=1630\ W$$
この結果から読み取れること
空気側の熱抵抗が全体の81.6%を占めています。ここが律速です。
このとき、次の対策はほとんど効きません。
・鉄板を薄くする(もともと2.0%しかない)
・鉄板を熱伝導率の高い銅に変える(同上)
厚さ10 cmの鉄板ですら、熱抵抗としては全体の2%にすぎないという点は注目に値します。金属の壁は、熱の通り道としてほとんど障害になっていないのです。
効くのは空気側です。空気側の流速を上げるか、空気側にフィンを付けて伝熱面積を稼ぐか。空冷式熱交換器やラジエーターの空気側にびっしりフィンが付いているのは、まさにこの理由です。
用語と記号の混乱を整理する
文献によって呼び方と記号が違うため、対応表を載せておきます。
| 量 | よくある呼び名 | よくある記号 |
|---|---|---|
| 熱伝導率 | 熱伝導度、熱伝導係数 | λ、k |
| 熱伝達率 | 熱伝達係数、境膜伝熱係数 | h、α |
| 熱通過率 | 総括伝熱係数、熱貫流率 | K、U |
| 汚れ係数 | 汚れ抵抗、ファウリングファクター | r、Rf、γ |
「熱貫流率」は建築分野でよく使われる言い方で、内容は熱通過率と同じです。
また、古い資料では熱量の単位に kcal が使われています。
1 kcal/(m・h・℃) = 1.163 W/(m・K)
1 kcal/(m2・h・℃) = 1.163 W/(m2・K)
社内の過去資料と突き合わせるときに必要になります。
まとめ
3つの係数の違いを整理しました。
・熱伝導率 λ[W/(m・K)]は物質固有の物性値。単位に「m」が入ります。炭素鋼とステンレスで5倍違います。
・熱伝達率 h[W/(m2・K)]は物性値ではありません。流速・流路形状・粘度で決まり、4桁以上の幅があります。
・熱通過率 K と総括伝熱係数 U は同じもの。汚れの有無で名前が変わるわけではありません。
・熱通過率に掛ける温度差は、壁面温度ではなく両側の流体温度の差です。
・熱抵抗の内訳を見れば、どこが律速していて何をすべきかが決まります。
熱交換器の設計は、この3つの係数を組み合わせて Q = U・A・ΔTm を解く作業です。
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