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熱伝達率ってなに?
どうやって求めるの?
そんな悩みを解決します。
・熱伝達率とは
・実データがある場合の求め方(ニュートンの冷却則から逆算)
・実データがない場合の求め方(ヌセルト数の実験式)

私の仕事は化学プラントの設計です。
その経験をもとに分かりやすく解説します。
解説動画も作成しましたので、合わせてご覧ください。
・熱伝達率 h は物性値ではありません。同じ水でも、流速と流路形状が変われば桁が変わります。
・実測データがあるなら、ニュートンの冷却則から逆算するのが最も確実です。
・実測がなければ、まず Re 数で層流か乱流かを判定してから式を選びます。ここを飛ばすと桁を間違えます。
・層流域では Nu は Re にほとんど依存しません。乱流域の式(Re0.8)を層流に使うと大きく外します。
熱伝達率とは
熱伝達率は、固体壁と、それに接して流れる流体との間で、熱がどれだけ伝わりやすいかを表す量です。境膜伝熱係数、熱伝達係数とも呼ばれますが、同じものを指しています。
① 壁と流体の間の熱エネルギーの伝えやすさを表す値
② 熱伝達率が大きいと交換熱量が大きくなる
③ 流体固有の値ではなく、流れの状態や表面形状によって変化する
定義式はニュートンの冷却則です。
$$Q=hA(T_h−T_c)$$
Q:伝熱量[W]
h:熱伝達率[W/(m2・K)]
A:伝熱面積[m2]
Th:高温側温度[K]
Tc:低温側温度[K]
以下の表から、流れの状態によって熱伝達率に大きな違いがあることがわかります。
| 伝熱の形態 | 熱伝達率 h[W/(m2・K)] |
|---|---|
| 気体・自然対流 | 2 〜 25 |
| 気体・強制対流 | 25 〜 250 |
| 液体・自然対流 | 50 〜 1,000 |
| 液体・強制対流 | 100 〜 15,000 |
| 沸騰・凝縮(相変化) | 1,000 〜 100,000 |
実データがある場合:ニュートンの冷却則から求める
すでに動いている設備があり、温度と流量が取れているなら、実測から h を逆算するのが最も確実です。
手順
まず伝熱量 Q を熱収支から求めます。
$$Q=mcΔT$$
m:質量流量[kg/s]
c:比熱[J/(kg・K)]
ΔT:加熱(冷却)前後の温度差[K]
次に、ニュートンの冷却則を h について解きます。
$$h=\frac{Q}{A(T_h−T_c)}$$
計算例
伝熱面積 A = 100 m2 の伝熱面で、高温流体が冷却されています。
まず伝熱量を出します。
$$Q=mcΔT=(50)(4200)(60−50)=2.1×10^6\ W$$
次に熱伝達率を逆算します。
$$h=\frac{2.1×10^6}{(100)(55−30)}=840\ W/(m^2・K)$$
液体の強制対流として妥当な範囲に収まっています。
この方法の注意点
壁面温度が測れないケースがほとんどです。壁に熱電対を貼っても、それが本当に伝熱面の温度かは怪しいところがあります。
実務では、壁面温度ではなく両側の流体温度から総括伝熱係数 U を逆算し、片側の h が既知(あるいは支配的でない)という前提で残りを推定する、という進め方をします。既設熱交換器の性能評価でよく使う手です。
実データがない場合:ヌセルト数の実験式から求める
新設の設計では実測データがありません。このときは無次元数の実験式(相関式)を使います。
まず3つの無次元数を押さえる
ヌセルト数 Nu
$$Nu=\frac{hd}{λ}$$
Nu:ヌセルト数[−]
h:熱伝達率[W/(m2・K)]
d:代表長さ(円管なら内径)[m]
λ:流体の熱伝導率[W/(m・K)]
「熱伝導だけで伝わる場合に対して、対流によって何倍伝わりやすくなっているか」を表します。流体が完全に静止していれば Nu = 1 に近づきます。
求めたいのは h ですから、実験式で Nu を出して、そこから h を逆算するという流れになります。
$$h=\frac{Nu・λ}{d}$$
レイノルズ数 Re
$$Re=\frac{duρ}{μ}$$
Re:レイノルズ数[−]
d:代表長さ[m]
u:平均流速[m/s]
ρ:流体密度[kg/m3]
μ:流体の粘度[Pa・s]
慣性力と粘性力の比。流れが乱れているかどうかを判定する指標です。
プラントル数 Pr
$$Pr=\frac{ν}{α}=\frac{c_pμ}{λ}$$
Pr:プラントル数[−]
ν:動粘度[m2/s]
α:温度拡散率[m2/s]
cp:比熱[J/(kg・K)]
流体固有の物性値です。速度境界層と温度境界層の厚さの比を表します。
Pr ≒ 1 なら両者はほぼ一致(気体)。Pr > 1 なら速度境界層のほうが厚い(水、油)。Pr < 1 なら温度境界層のほうが厚い(液体金属)。
参考値:空気 Pr ≒ 0.7、水(20℃)Pr ≒ 7、水(80℃)Pr ≒ 2.2、潤滑油 Pr = 100〜10,000
円管内の熱伝達率 ― まず層流か乱流かを判定する
ここが最も間違えやすいところです。実験式を選ぶ前に、必ず Re を計算して流れの状態を判定してください。
| Re の範囲 | 流れの状態 | 使う式 |
|---|---|---|
| Re < 2,300 | 層流 | Nu = 3.66 系、Hausen、Sieder-Tate(層流用) |
| 2,300 < Re < 10,000 | 遷移域 | 信頼できる式がない。設計ではこの領域を避ける |
| Re > 10,000 | 乱流 | Dittus-Boelter、Sieder-Tate(乱流用) |
層流(Re < 2,300)
まず知っておくべきは、十分に発達した層流では Nu が一定値に漸近するということです。
Nu = 3.66(管壁温度一定、十分発達した層流)
Nu = 4.36(熱流束一定、十分発達した層流)
Re がいくら変わっても Nu は変わりません。層流では熱の移動が分子拡散に頼っているため、流速を上げても壁からの熱の伝わり方が本質的に改善しないからです。
「流速を上げれば熱が伝わる」というのは乱流域の話であって、層流では成り立ちません。高粘度液の熱交換で苦労するのはこのためです。
入口付近(助走区間)では温度境界層がまだ発達しておらず、Nu はもっと大きくなります。これを含めた式が Sieder-Tate の層流式です。
Sieder-Tate の式(層流)
$$Nu=1.86\left(Re・Pr・\frac{d}{L}\right)^{1/3}\left(\frac{μ}{μ_w}\right)^{0.14}$$
Nu:ヌセルト数[−]
Re:レイノルズ数[−]
Pr:プラントル数[−]
d:管内径[m]
L:管長[m]
μ:算術平均混合温度における粘度[Pa・s]
μw:壁温における粘度[Pa・s]
適用条件
・Re < 2,300
・μw 以外の物性値は流体の平均混合温度における値を用いる
・この式が 3.66 を下回る値を返したら、3.66 を採用する
より精度の高い式としては Hausen の式があります。
$$Nu=3.66+\frac{0.0668(d/L)Re・Pr}{1+0.04\left[(d/L)Re・Pr\right]^{2/3}}$$
管長が十分長ければ右辺第2項が消えて Nu = 3.66 に収束する、という構造が見て取れると思います。
乱流(Re > 10,000)
Dittus-Boelter の式
$$Nu=0.023Re^{0.8}Pr^{n}$$
n = 0.4:流体を加熱する場合
n = 0.3:流体を冷却する場合
適用条件
・滑らかな円管内の、十分に発達した乱流
・壁と流体の温度差があまり大きくないとき
・L/d ≧ 10
最も簡便で、実務でも概算に広く使われる式です。加熱と冷却で指数を変えるのは、壁近傍の粘度が変わることを簡易的に織り込んでいるためです。
Sieder-Tate の式(乱流)
$$Nu=0.027Re^{0.8}Pr^{1/3}\left(\frac{μ}{μ_w}\right)^{0.14}$$
適用条件
・Re > 10,000
・μw は壁温における粘度、その他の物性値は算術平均温度における値
・壁と流体の温度差が大きい場合に有効
温度差が大きいと壁の近くと主流とで粘度が大きく変わります。粘度が変われば境界層の厚さが変わり、h が変わる。それを(μ/μw)0.14 で補正しているわけです。
加熱している液体では壁近くの粘度が下がる(μ/μw > 1)ので補正項は1より大きくなり、h は上がります。冷却では逆になります。粘度の温度依存性が強い油系の流体では、この補正が効きます。
円管でない流路 ― 水力直径を使う
長方形断面、環状流路(二重管の外側)など、円管でない流路では、代表長さに水力直径(相当直径)を使って円管の式に当てはめます。
$$d_h=\frac{4A}{ω}$$
dh:水力直径[m]
A:流路断面積[m2]
ω:流体が壁面に触れている長さ(ぬれ縁長さ)[m]
円管に適用すると dh = 4(πd2/4)/(πd) = d となり、内径そのものに戻ります。
シェル側は別の世界
ここまで管内流れの話をしてきました。多管式熱交換器のチューブ側なら、この記事の式でおおよその見当がつきます。
一方、シェル側(胴側)はまったく別物です。
流体はバッフルに沿って蛇行し、管束を横切り、一部はバッフルと胴の隙間や管とバッフルの隙間を漏れていきます。単純な流路ではないので、円管の式は使えません。
実務では Kern 法(簡便法)や Bell-Delaware 法(漏れ流を考慮した詳細法)が使われますが、これらはバッフル間隔や管配列といった機器メーカー側の設計変数を必要とします。
化学メーカーのプロセス設計者としては、シェル側の h を自分で厳密に計算する場面はほとんどありません。それよりも重要なのは、次を読み取ることです。
・メーカーの計算書がどの手法を使っているか
・シェル側とチューブ側のどちらが熱抵抗を支配しているか
・シェル側流速が低すぎて汚れやすくなっていないか
実務で外さないための3つの注意点
物性値をどの温度で取るか
Re も Pr も物性値から計算します。入口温度で取るか、出口温度で取るか、平均で取るかで値が変わります。
原則は算術平均温度(入口と出口の平均)です。ただし粘度補正項の μw だけは壁温で取ります。壁温が分からない場合は、まず μ/μw = 1 として計算し、得られた h から壁温を推定して反復する、という手順を踏みます。
必ず桁を確認する
実験式は適用範囲を外れると平気で間違った値を返します。計算結果が出たら、冒頭の「熱伝達率がとる値の幅」の表と突き合わせてください。
液体の強制対流で h = 20 W/(m2・K) と出たら、どこかで間違えています。逆に気体の強制対流で h = 5,000 と出ても同じです。
相変化があるなら別の式を使う
凝縮や沸騰を伴う場合、ここで紹介した式は一切使えません。相変化では潜熱が動くため、熱伝達の機構がまったく違います。凝縮はヌセルトの膜状凝縮理論、沸騰は核沸騰の相関式が別にあります。
化学プラントではコンデンサとリボイラが主役級ですから、これらは独立した記事で扱います。
まとめ
熱伝達率 h の求め方を2つのパターンで整理しました。
・h は物性値ではなく、流れの状態と流路形状で決まります。同じ流体でも桁が変わります。
・実測データがあるならニュートンの冷却則から逆算するのが最も確実です。
・実測がなければ実験式を使います。ただし式を選ぶ前に必ず Re で層流・乱流を判定します。
・層流では Nu ≒ 3.66 に漸近し、流速を上げても h はほとんど改善しません。層流用の Sieder-Tate 式は Nu = 1.86(Re・Pr・d/L)1/3(μ/μw)0.14 であり、Re の指数は 0.8 ではありません。
・乱流では Nu ∝ Re0.8。流速を上げれば h は上がりますが、圧力損失は流速の2乗以上で効いてきます。このトレードオフが設計の核心です。
・シェル側は管内流れの式では計算できません。ユーザー側はメーカー計算書を評価できれば十分です。
今回は円管内の熱伝達率に的を絞って解説しましたが、ほかにも「自然対流」「沸騰伝熱」「凝縮伝熱」、物体形状による「平板」「円管群」など様々なパターンがあります。
熱伝達率が求まったら、次は両側の h と管壁の熱伝導、汚れ係数をまとめた総括伝熱係数 U を出します。
参考文献
- 尾花英朗『熱交換器設計ハンドブック(増訂版)』工学図書、1974年(1994年 2版6刷)、第2部 伝熱概論 第8章「対流伝熱」8・1(2) 円管(直管)内の伝熱 式(8・2) Sieder-Tate(層流)、式(8・5) Sieder-Tate(乱流) Amazonで見る
- 日本機械学会『伝熱工学(JSMEテキストシリーズ)』日本機械学会、2023年、第3章「対流熱伝達」3・6 強制対流乱流熱伝達 式(3.157) Dittus-Boelter の式 Amazonで見る
- 相原利雄『伝熱工学(機械工学選書)』裳華房、1994年、第3章「強制対流熱伝達」 Amazonで見る
- 日本機械学会『演習 伝熱工学(JSMEテキストシリーズ)』日本機械学会、2023年 Amazonで見る
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