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「この2成分、蒸留で分けられますか?」と聞かれたら、プロセスエンジニアが最初に確認する数字が相対揮発度α(アルファ)です。αが分かれば、その分離が楽なのか、重装備が要るのか、そもそも蒸留をあきらめるべきなのかの当たりが付きます。
この記事では、αの定義と計算のしかた、x-y線図との関係、そして実務で使う「αの目安」を整理します。
この記事は蒸留シリーズ「気液平衡の読み方」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。
この記事の結論
- 相対揮発度は「軽質成分の濃縮されやすさ ÷ 重質成分の濃縮されやすさ」の比
- 理想溶液ならα = P1°/P2°(蒸気圧の比)で概算できる。ベンゼン/トルエンは40℃で約3.2
- αが決まればx-y線図の平衡曲線が1本決まる:y = αx/{1+(α−1)x}
- 目安:α > 2 なら楽、1.1〜1.3は重装備、α ≈ 1 は蒸留では不可能→別方式へ
- αは温度・圧力で変わる。減圧するとαが大きくなる系が多い(減圧蒸留の理由のひとつ)
1. 定義|「濃縮率の比」と読む

相対揮発度の定義は次の形です。
α = (y1/x1) ÷ (y2/x2)
分子のy1/x1は「軽質成分が液から蒸気へ行くときの濃縮率」、分母のy2/x2は同じものを重質成分について見た値です。つまりαは「軽い成分は重い成分の何倍、蒸気に行きたがるか」という比になっています。
比の形にしたことのご利益は、温度や組成が多少変わってもαは比較的安定していることです。蒸気圧そのものは温度で激しく変わりますが、2成分の「比」は変化がずっと緩やかです。だから設計の初期段階では「この系のαはだいたい2.5」のように1つの数字で代表させて話を進められます。
2. 計算|理想溶液なら蒸気圧の比でよい

ラウールの法則が成り立つ系では、yi = Pi°xi/π を定義に入れると x と π が消えて、きれいな形になります。
α = P1°/P2°(純物質の蒸気圧の比)
ベンゼン+トルエンの40℃なら、P1° = 25.00 kPa、P2° = 7.89 kPaなのでα = 25.00/7.89 ≒ 3.2。蒸気圧はAntoine式で計算できるので、定数さえ手に入ればαの概算は電卓仕事です。
また、αを使うと平衡曲線そのものが1本の式で書けます。
y = αx / {1 + (α−1)x}
x-y線図の平衡曲線は、この式にαを入れて描いたものです。αが決まる=曲線が決まる=おおよその段数が決まる、という一本道になっています。
3. αの目安|2を超えたら楽、1.1なら覚悟
実務でαを見るときの目安です。
| α | 難易度 | 装備の感覚 |
| 3以上 | 楽 | 少ない段数・低い還流比で高純度が狙える |
| 2前後 | 標準 | ごく普通の蒸留塔。十数段〜数十段 |
| 1.3〜1.5 | やや重い | 段数か還流比のどちらかが張ってくる |
| 1.1前後 | 重装備 | 百段規模・高還流比。省エネも厳しい |
| 1.0近傍 | 蒸留は断念 | 抽出蒸留・共沸蒸留や、蒸留以外の分離方式を検討 |
αが1に近い分離(近沸点分離)で無理に蒸留を選ぶと、塔もエネルギーも巨大になります。「αを見て、蒸留で行くか、αを変える工夫をするか、方式を変えるかを決める」のがプロセス設計の入口です。αを人為的に変える手段が抽出蒸留(溶剤でαを底上げする)で、第5章で扱います。
4. αは条件で変わる|減圧すると開く
αは物性なので、温度(=操作圧力)によって変わります。多くの系では圧力を下げて操作温度を下げると、αが大きくなります。2つの成分の蒸気圧曲線の傾きが違うためで、低温側ほど比が開く系が多いのです。
減圧蒸留というと「熱に弱い物質を低温で蒸すため」の技術と説明されがちですが、「αを稼いで分離を楽にする」という積極的な理由もあります。逆に加圧するとαは縮む方向なので、加圧蒸留(冷媒で凝縮させたい場合など)では段数の再確認が必要です。詳しくは第3章の減圧蒸留の記事で扱います。
まとめ
相対揮発度αは「軽い成分は重い成分の何倍蒸気に行きたがるか」の比で、理想溶液なら蒸気圧の比P1°/P2°で概算できます。αが決まれば平衡曲線が決まり、分離の難易度が読めます。α > 2なら楽、1.1なら重装備、1.0なら蒸留以外を考える。まずこの目安を頭に入れて、x-y線図とセットで使ってください。
次の記事:共沸とは何か|蒸留の壁はなぜできるのか
参考文献
- 大江修造『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2008, 第2章「気液平衡」 Amazonで見る
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第9章「蒸留」
化学プラント大全 
