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ラウールの法則は蒸留計算の出発点ですが、正直に言えば実務の系の多くでは、そのままでは当たりません。エタノール+水のような極性の違う組み合わせでは、計算と実測が平気で2倍、3倍ずれます。
このずれを1個の係数に押し込んで、ラウールの法則を使い続けられるようにしたのが活量係数γ(ガンマ)です。γの意味が分かると、共沸がなぜ起きるかも、物性シミュレータが何をやっているかも見通せるようになります。
この記事は蒸留シリーズ「気液平衡の読み方」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。
この記事の結論
- 修正ラウールの法則:pi = γi xi Pi°。γは「理想からのずれ」を表す補正係数
- γ = 1が理想溶液。γ > 1は反発(正の偏倚)、γ < 1は引き合い(負の偏倚)
- γは組成で変わる:自分が薄いほど大きく(孤独なほど逃げたがる)、濃いほど1に近づく
- γを組成の関数として表す道具がvan Laar式・Wilson式など。定数は実測データから決める
1. 修正ラウールの法則|γの居場所

非理想系の分圧は、ラウールの法則にγを1個掛けた形で書きます。
pi = γi × xi × Pi°
γi = 1ならラウールの法則そのもの。γi > 1なら、その成分は理想の場合よりγ倍「蒸気に逃げたがっている」ことを意味します。逃げたがる理由は分子同士の反発です。エタノールのような極性分子(水素結合のネットワークを作る)とベンゼンのような無極性分子を混ぜると、お互いに居心地が悪く、両方のγが1を超えます。これが正の偏倚で、極端になると最低共沸を作ります。
2. γは組成で変わる|「孤独なほど逃げたがる」

γの重要な性質は、定数ではなく組成の関数だということです。エタノール(1)+ベンゼン(2)系の実測に基づく値を見ると、この動きがよく分かります。
| エタノールx1 | γ1(エタノール) | γ2(ベンゼン) |
| 0(無限希釈) | 7.4 | 1.00 |
| 0.2 | 3.0 | 1.10 |
| 0.5 | 1.4 | 1.63 |
| 0.8 | 1.05 | 2.87 |
| 1(純エタノール) | 1.00 | 4.1 |
エタノールがごく薄いとき(x1→0)、エタノール分子は周りをすべてベンゼンに囲まれ、居心地が最悪です。このときγ1は最大の7.4。純物質の7.4倍も蒸気に逃げたがっている。逆にエタノールが濃くなるほど仲間に囲まれて落ち着き、γ1は1に近づきます。「孤独なほど逃げたがり、仲間に囲まれると落ち着く」——γの挙動はこの一言で覚えられます。
両端の値(無限希釈活量係数γ∞)はその系の非理想性の強さを代表する数字で、データ集にもよく載っています。γ∞が数倍を超えるようなら共沸を疑う、という使い方ができます。
3. γを式にする道具|van Laar・Wilson
γを組成の関数として表すモデルがいくつも提案されています。代表格がvan Laar(ファンラール)式とWilson(ウィルソン)式です。いずれも2成分系なら定数2つで、その系のγ曲線全体を表現します。
- van Laar式:古典的で計算が軽い。定数は無限希釈活量係数から直接決められる(A12 = log γ1∞, A21 = log γ2∞)
- Wilson式:温度依存性の扱いに優れ、多成分系への拡張が素直。ただし液液分離する系には使えない
- ほかにNRTL、UNIQUAC、実測データがないときの推算法としてUNIFACなど。物性シミュレータで「熱力学モデルを選ぶ」とは、このγのモデルを選ぶこと
定数1組を実測から決めれば全組成のγが計算でき、γが分かれば気液平衡が、つまりx-y線図が引けます。実際、共沸の記事に載せたエタノール+ベンゼンの平衡曲線は、van Laar式とAntoine式だけから計算で描いたものです(共沸点0.399を正しく再現します)。
4. 実務でのγの入手先
- 文献・データ集:主要な2成分系のvan Laar/Wilson定数は化学工学便覧などに収録されている
- 推算(UNIFAC):実測がない系は分子構造から推算できる。ただし精度は系による。構想段階向け
- 実測:本設計で効く系は気液平衡の実測に投資する価値がある。特に共沸近傍・高純度域
高圧ガス甲種など資格試験の学識では理想溶液(ラウールの法則)までが主戦場ですが、実務の蒸留設計は「γをどう見積もるか」が本体と言っても過言ではありません。
まとめ
活量係数γは、ラウールの法則からのずれを1個に押し込んだ補正係数です。γ = 1が理想、γ > 1は反発(蒸気に逃げたがる)、γ < 1は引き合い。組成によって変わり、薄いほど大きく、濃いほど1に近づきます。van LaarやWilsonのモデルに定数を入れればγの曲線全体が計算でき、共沸点の予測までつながります。
次の記事:蒸気圧の求め方|Antoine式の使い方と定数の落とし穴
参考文献
- 大江修造『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2008, 第2章(エタノール+ベンゼン系の活量係数:無限希釈でγ1=7.415, γ2=4.130/400mmHg, pp.51-52。van Laar式の定数決定法は同pp.46-47) Amazonで見る
- 『かいせつ化学熱力学』(活量・フガシチーの理論的背景) Amazonで見る
※ 表のγは文献の実測相関値を要約したものです。設計にはモデル定数の適用範囲を必ず確認してください。
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