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比率制御・フィードフォワード・オーバライドは、名前は難しそうですが、中身は調節計と演算器のつなぎ方の工夫です。比率制御は「B の流量を A の流量に比例させる」、フィードフォワードは「外乱を測って、温度が変わる前に弁を動かす」、オーバライドは「2つの調節計の出力のうち、大きい方(または小さい方)で1つの弁を動かす」ことです。
3つとも土台は普通の PID によるフィードバック制御で、掛け算、足し算、選択を1つ足しただけです。どこに何を足したかが分かれば、「なぜ弁がこう動いたか」を画面で追えます。
この記事では、3つを同じ描き方で並べ、それぞれの目的、つなぎ方、使われる場面、壊れたときに何が起きるかを説明します。
この記事の結論
- 比率制御:基準になる流量 A に比率を掛けて、B の流量調節計の設定値にする。原料の混合比、加熱炉やボイラの空気と燃料の比に使う
- フィードフォワード:外乱を測り、測定値が変わる前に操作量を先に動かす。単独では目標に合ったか確かめられないので、必ずフィードバックと組み合わせる
- オーバライド:2つの調節計の出力を比べ、大きい方(または小さい方)で1つの弁を動かす。ふだんの目的と、守るべき限界を両立させる
- 3つとも、先読みや基準に使う計器が壊れると、正常な調節計が誤った方向へ弁を動かす。先読み側の伝送器も制御ループの一部として点検する
- オーバライドでは、いまどちらの調節計が弁を動かしているかを画面で確かめてから操作する
1. 3つとも「調節計のつなぎ方」
高圧ガス保安技術の教科書は、プラントの制御全体のうち 90% 程度は単純な PID 制御だとしています。残りの高度な制御の入口にあるのが、この記事の3つです。どれも PID 調節計はそのままで、つなぎ方だけが違います。

| 名前 | 目的 | 足すもの | 例 |
| 比率制御 | 2つの流れの比を保つ | 掛け算(比率設定器) | 原料の混合比、空燃比 |
| フィードフォワード | 外乱の影響が出る前に打ち消す | 足し算(先行分) | 熱交換器の水量変化、ボイラの蒸気量変化 |
| オーバライド | ふだんの制御と限界の監視を両立 | 選択(ハイセレクタ/ローセレクタ) | バーナの最低圧、ガスホルダの圧力上限 |
調節計を2段に重ねるカスケード制御も、同じ「つなぎ方」の仲間です。
2. 比率制御|B を A に比例させる
2種類の液を決まった比で混ぜたいとき、両方を別々の設定値で制御すると、片方が変わったとき比が崩れます。そこで、基準になる A の流量を測り、それに比率を掛けた値を、B の流量調節計の設定値にします。A が増えれば、B の設定値も同じ割合で増えます。A 自体はこのループでは制御しません。
計装の教科書には、比率設定器の検算例があります。A の流量計のレンジが 0〜100 m³/h、B が 0〜200 m³/h で、A が 50 m³/h のとき B を 100 m³/h にしたい(流量の比は 2)という例です。このとき比率設定器の目盛は 2 ですが、計器の中の信号どうしの比は 1 です。レンジが違うと、目盛の比と信号の比が一致しません。比率を変えるときは、目盛がどちらの比を表しているかを確かめます。
高圧ガス保安技術の教科書は、比率制御の用途として、化学プロセスの原料比率と、加熱炉・ボイラの空燃比(空気と燃料の比)を挙げています。ボイラの燃焼制御では、黒煙を出さないよう負荷を上げるときは空気を先に増やし、下げるときは燃料を先に減らす運転(エアリッチ制御)が組み込まれています(装置別の制御の例)。
比率制御には弱点が1つあります。A の流量計がゼロに落ちると、B の設定値もゼロになり、B の弁が閉まります。 B の調節計は正しく動いているので、B の側をいくら見ても原因は見つかりません。また、B の調節計が外から設定値を受け取るモードになっていないと、比率は効いていません。
3. フィードフォワード|外乱を測って先に動かす
蒸気で水を温める熱交換器で、出口温度を制御しているとします。水の流量が急に増えると、出口温度は下がります。ふつうのフィードバック制御では、温度が下がったのを見てから蒸気弁を開けるので、どうしても温度が一度下がります。

計装の教科書の例では、水の流量を測り、温度が変わる前に蒸気弁への信号を先に修正します。これがフィードフォワード制御で、先行動作とも呼ばれます。温度調節計の出力に、流量から計算した先行分を足して弁へ送ります。
プロセス設計の教科書は、フィードバック制御は「修正のための測定できる偏差」がなければ動けないのに対し、フィードフォワードは外乱が加わるとすぐ修正を始め、制御量に影響する前に打ち消すと説明しています。ただし、先行分を正しく計算するには、水が何 % 増えたら蒸気を何 % 増やせばよいかというプロセスのモデルが要ります。モデルは完全ではないので、残ったずれはフィードバックが直します。高圧ガス保安技術の教科書も、フィードフォワードだけでは目標値と一致したかを確認できないので、フィードバックと組み合わせるとしています。
図は、先行分を外乱の 9 割に合わせた自作モデルの模式です。フィードバックだけのときに比べ、出口温度の下がり幅が4分の1ほどになり、残りは温度調節計が戻しています。
フィードフォワードが効くのは、応答に時間がかかる熱プロセスやコンベヤと、外乱が大きい場合です(プロセスの特性)。計装の教科書は、ボイラの蒸気使用量や熱処理炉への品物の出し入れを大きな外乱の例に挙げ、ボイラのドラム液面の制御に蒸気の発生量を先行信号として使う例を示しています。
先行側の伝送器が故障して値が跳ぶと、温度に何も起きていなくても弁が急に動きます。 フィードフォワードのあるループで理由の分からない弁の動きがあったら、先行側の信号のトレンドを確認します。
4. オーバライド|2つの調節計を大きい方・小さい方で選ぶ
バーナの燃料は、流量で制御したい一方で、バーナの圧力が下がりすぎると火が不安定になります。計装の教科書の例では、流量調節計と圧力調節計の2つを置き、出力の大きい方をハイセレクタで自動的に選んで燃料弁を動かします。ふだんは流量調節計が弁を動かし、燃料を絞りすぎて圧力が最低圧に近づくと、圧力調節計の出力のほうが大きくなって弁を持ちます。

図の模式では、流量の設定値を 60 から 30 に下げても、流量は 40 で止まり、圧力は最低圧で保たれています。流量の設定値を戻すと、弁は流量調節計に戻ります。
計装の教科書は、小さい方を選ぶローセレクタを使う場合もあるとしています。ガスホルダへの流入をふだんは流量調節計で制御し、圧力が上がったときは同じ弁を圧力調節計で制御して危険を避け、圧力が下がれば流量の制御に戻る例も示されています(オートセレクタ制御とも呼ばれます)。大きい方と小さい方のどちらを選ぶかは、限界から離れる向きに弁を動かすのがどちらの出力かで決まります。
選ばれていない調節計は、測定値が設定値と違ったまま動き続けるので、積分動作があると出力が振り切れていきます(積分飽和)。プロセス設計の教科書も、ふだんの測定値が設定値と違う調節計は注意深く仕様を決めるよう求めています。教科書の図では、選択器の出力が両方の調節計へ戻されています(FB)。選ばれていない調節計の積分が振り切れないようにするための配線です(積分飽和の記事)。
運転では、「流量の設定値を下げたのに流量が下がらない」という場面があります。故障ではなく、圧力調節計が弁を持っているのかもしれません。画面でどちらが選ばれているかを確かめてから、次の操作を決めてください。
5. 3つの違いを1枚の表で
| 比率制御 | フィードフォワード | オーバライド | |
| 余分に測るもの | 基準の流量 A | 外乱(水量、蒸気量など) | 限界を守りたい量(圧力など) |
| 何を変えるか | B の調節計の設定値 | 弁への信号に先行分を足す | 弁を動かす調節計を切り替える |
| 単独で使えるか | B 側はふつうのフィードバック | 使えない。フィードバックと組む | 2つともフィードバック |
| 余分な計器が壊れると | B が A の故障に引きずられる | 外乱がないのに弁が動く | 限界の監視が効かない、または不要に弁を持つ |
6. 現場で見る場所
- 比率の設定値:比率設定器の目盛が流量の比か信号の比か。変更の記録
- 基準・先行側の伝送器:A の流量計、外乱を測る流量計が正常か。ゼロ落ちや振れがないか
- モード:比率の相手(B)の調節計が、外から設定値を受け取るモードになっているか
- セレクタの選択状態:いまどちらの調節計が弁を動かしているか。切り替わった時刻をトレンドで見る
- 選ばれていない調節計の出力:振り切れていないか。振り切れていれば、切り替わった瞬間に弁が大きく動く
7. 先輩に聞かれたら答えられる3問
- 比率制御で、A の流量計がゼロに落ちると B の流量はどうなりますか。
- フィードフォワード制御を単独で使わないのはなぜですか。
- バーナの燃料を流量調節計と圧力調節計のハイセレクタで制御しています。流量の設定値を下げたのに流量が下がらないとき、まず何を確かめますか。
答えは順に、B の設定値もゼロになり B の弁が閉まる/外乱を先に打ち消すだけで、目標に合ったかを確かめられず、残ったずれを直せないから/どちらの調節計が選ばれているか(圧力調節計が最低圧を守るために弁を持っていないか)、です。
まとめ
比率制御は基準の流量に比率を掛けて相手の設定値にし、フィードフォワードは外乱を測って先に弁を動かし、オーバライドは2つの調節計の出力のうち大きい方(小さい方)で1つの弁を動かします。どれも PID のフィードバックが土台で、そこに掛け算・足し算・選択を足しただけです。
3つとも、先読みや基準に使う計器が制御の一部になります。その計器が壊れると正常な調節計が誤った方向へ動くので、理由の分からない弁の動きがあったら、基準・先行側の信号と、セレクタがどちらを選んでいるかを確かめてください。
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参考文献
- 川村貞夫・石川洋次郎『メーカーの技術者が書いた やさしく計装がわかる 工業計測と制御の基礎』工業技術社, 6.4.1「制御の種類」、6.4.2「比率制御ループ」、6.4.4「オーバライド制御ループ」、6.5.1「制御がむずかしい要因」、6.5.2「各種の高度制御方法」、6.6.2「流量の比率演算例」、8.2.6「ボイラ制御の例」 Amazonで見る
- 高圧ガス保安協会『高圧ガス保安技術』, 11.8.3「調節部」(フィードフォワード制御系、比率制御、アドバンスト制御) 最新版をAmazonで見る
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