トクヤマは「セメントの会社」と思われがちですが、決算を開くと違います。利益トップは電子先端材料の157億円。中身は多結晶シリコン——半導体シリコンウエハの原料です。
そしてセメントも、思われているほど薄利ではありません。セメント事業の営業利益率は14.3%。全社の10.6%を上回っています。
私は化学メーカーの生産技術者として12年働いています。この記事では決算短信と募集要項だけをもとに、「何で稼ぎ、どこで働くのか」を整理します。難易度や口コミは扱いません。
化学業界そのものが曖昧な人は先に「化学業界とは」(→化学業界とは)へ。29社の比較は→化学メーカー大手29社の違いへ。
一言でいうと|塩とセメントと半導体材料を持つ会社
トクヤマの創立は1918年(大正7年)2月16日。山口県周南市(旧・徳山市)で、塩から苛性ソーダを作る会社として始まりました。登記上の本店はいまも徳山製造所です。
そこから、塩化ビニル、セメント、多結晶シリコン、体外診断薬へと広げてきました。
| 項目 | 数字(出典・基準日) |
|---|---|
| 売上高 | 3,495億円(2026年3月期。前期比+1.9%) |
| 営業利益 | 370億円(同。前期比+23.5%) |
| 経常利益 | 382億円(同。前期比+29.1%) |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 222億円(同。前期比▲5.1%) |
| 売上高営業利益率 | 10.6% |
| 資本金 | 100億円(2026年3月31日現在) |
| 従業員数 | 連結6,390名/単独2,652名(同) |
| 本店 | 徳山製造所(山口県周南市) |
| 東京本部 | 東京都千代田区 |
| 創立 | 1918年2月16日 |
就活生が押さえるべき性格は3つです。
- 営業利益率10.6%はシリーズの上位。29社の中では7番目で、東ソー(9.4%)を上回ります(→化学メーカー大手29社の違い)
- セメントを社内に持っている:同じ山口県のUBE(→UBEの企業研究)がセメント事業を連結の外に出したのと対照的です
- 海外売上は26%:日本2,576億円、アジア681億円、その他237億円。国内が中心の会社です
事業の中身|5セグメントを売上と利益で見る

| セグメント | 主な製品 | 売上高 | セグメント利益 |
|---|---|---|---|
| 化成品 | 苛性ソーダ、ソーダ灰、塩化カルシウム、塩化ビニルモノマー、塩化ビニル樹脂、酸化プロピレン、塩素系溶剤 | 1,061億円 | 97億円 |
| 電子先端材料 | 多結晶シリコン、乾式シリカ、四塩化珪素、窒化アルミニウム、電子工業用高純度イソプロピルアルコール、フォトレジスト用現像液 | 909億円 | 157億円 |
| セメント | セメント、生コンクリート、セメント系固化材、資源リサイクル | 661億円 | 95億円 |
| ライフサイエンス | 医療診断システム、体外診断用医薬品、歯科器材、医薬品原薬・中間体、プラスチックレンズ関連材料 | 494億円 | 78億円 |
| その他 | 海外販売会社、運送業、不動産業 | 310億円 | 20億円 |
| 環境事業 | イオン交換膜、廃石膏ボードリサイクル | 59億円 | 7億円 |
| 合計(基礎研究開発費など▲84億円の調整を含む) | 3,495億円 | 営業利益370億円 |
※ 出典:2026年3月期 決算短信。売上は外部顧客への売上高。セグメント利益は営業利益ベース。
読み方のポイント:
- 利益トップは電子先端材料の157億円。主力の多結晶シリコンは、信越化学(→信越化学工業の企業研究)が作る半導体シリコンウエハの、さらに手前の原料です。半導体の川の一番上流にいます
- 化成品は売上1,061億円で利益97億円(9.1%)。苛性ソーダと塩ビは市況品で、電力価格の影響も大きい事業です
- ライフサイエンスが伸びている:2025年10月にJSRの体外診断用医薬品事業を買収し、トクヤマライフサイエンスとしています。中期経営計画で「電子」「健康」「環境」を成長分野に置いており、健康分野の中核にする方針です
- セメントの利益95億円は化成品とほぼ同じ。次の章で詳しく見ます
「セメントは儲からない」は思い込み

セグメントごとの営業利益率を並べると、意外なことが分かります。利益率の分母は、セグメント間の取引を含むセグメント売上高です(上の表の外部顧客への売上高で割ると、少しずれます)。
| セグメント | 営業利益率 |
|---|---|
| 電子先端材料 | 17.1% |
| ライフサイエンス | 15.9% |
| セメント | 14.3% |
| 環境事業 | 10.7% |
| 化成品 | 9.1% |
| その他 | 4.9% |
| (全社) | 10.6% |
- セメントの営業利益率14.3%は、化成品(9.1%)より高い。セメントは装置産業で、需要は国内の建設に左右されますが、この会社では資源リサイクル(廃棄物を燃料や原料に使う)と組み合わせて収益性を確保しています
- 電子先端材料の17.1%が最も高い。多結晶シリコンは高純度が要求され、作れる会社が世界で限られます
- 化成品が一番低いというのは、化学業界の「川上は薄利」という原則どおりです(→化学メーカー大手29社の違い)
就活生への含意は1つ。「セメント事業がある会社は古い」という見方は、数字で確かめると崩れます。 事業の新旧ではなく、その事業でどれだけ稼げているかを見てください(→化学メーカーの選び方)。
化学業界の川(→化学業界とは)で言えば、トクヤマは塩と石灰石という無機の川上から始まり、多結晶シリコンや診断薬という川下まで持つ会社です。信越化学(→信越化学工業の企業研究)と出発点がよく似ています。
工場と研究所|どこで働くか

| 拠点 | 所在地 |
|---|---|
| 徳山製造所【本店】(創業の地。主力の生産拠点) | 山口県周南市 |
| 徳山研究所(徳山製造所と同じ住所) | 山口県周南市 |
| 先進技術事業化センター | 山口県柳井市 |
| 鹿島工場 | 茨城県神栖市 |
| つくば研究所 | 茨城県つくば市 |
| つくば第二研究所 | 茨城県つくば市 |
| 東京本部 | 東京都千代田区 |
| 大阪オフィス | 大阪市北区 |
| 支店・営業所 | 広島、高松、福岡、名古屋、周南、セメント東京販売部 |
現役として補足すると、この会社の拠点配置は徳山(山口県周南市)への一極集中が特徴です。本店・製造所・研究所が同じ住所(周南市御影町)にあります。
周南市は東ソー(→東ソーの企業研究)の南陽事業所と同じ地域です。周南コンビナートには両社の巨大な設備が並んでいます。技術系で入ると、この地域での勤務が現実的な選択肢になります(→コンビナート地域で働くという選択、→化学メーカーの選び方)。
研究はつくば(茨城)にも2つあり、東西2か所体制です。研究職志望なら、どちらの研究所で何をしているかを分けて理解しておくとよい(→院卒で研究開発職に就く)。
職種・初任給|募集要項を読む
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 技術系の職種 | 研究開発、製造技術、生産技術、プロセス技術、エンジニアリング、電気計装 |
| 事務系の職種 | 営業、営業企画、経理、財務、購買、人事、総務、広報、法務、経営企画 |
| 募集分野 | 化学系、化学工学系、物理系、薬学系、機械系、電気・電子系、情報系、土木・建築系 ほか |
| 採用予定数(2025年度) | 技術系34名/事務系10名 |
| 初任給(2025年度実績・徳山拠点) | 博士 371,900円/修士 338,500円/学士 320,100円/高専 313,100円(いずれも「ライフサポート手当」55,000円を含んだ額) |
| 平均年間給与(有報・単体) | 7,940,277円(平均年齢41.45歳・平均勤続16.82年・単体2,652名、2026年3月31日現在) |
| 賞与 | 年2回(6月・12月)/昇給 年1回(4月) |
| 勤務時間 | 本部 9:00〜17:45/工場 8:30〜17:15 |
| 休日 | 年間休日125日 |
| 勤務地 | 東京、つくば、山口(徳山)、大阪、広島、高松、福岡、鹿島 ほか |
※ 平均年間給与は有価証券報告書(2026年06月19日提出、EDINET S100YDQ3)の「従業員の状況」による。単体の全従業員の平均で、賞与・基準外賃金を含む。新卒の初任給とは別の数字。29社の並びは→化学メーカー29社の平均年収ランキングへ。
読み方:
- 初任給に手当55,000円が含まれている点は必ず確認してください。修士338,500円は一見29社で最高ですが、手当を除くと283,500円相当になります。他社の「基本給ベースの初任給」とそのまま比べられません(→化学メーカー大手29社の違い、→化学メーカーの初任給と年収カーブ)
- つくば・東京の拠点では、これに加えて居住地手当(つくば20,000円/東京50,000円)が出ます
- 募集分野に土木・建築系が入っているのはセメント事業を持つ会社ならではです
- 年間休日125日は多いほうです(→化学メーカー大手29社の違い)
公開資料の読み方|この会社を自分で追いかけるには
| 資料 | 見るところ |
|---|---|
| 決算短信・決算説明資料(IR) | 電子先端材料の利益率が維持されるか。ライフサイエンスが買収後にどう伸びるか |
| 中期経営計画(IR) | 「電子」「健康」「環境」を成長事業と位置づけ、2030年度に成長事業の売上高比率60%以上を目指す方針が書かれています |
| 採用サイト | 初任給の内訳(手当込みかどうか)が明示されています。ここを読み違えないこと |
面接では「利益トップは電子先端材料で、セメントも14.3%出ていますね」と言えると、決算を読んだ学生だと伝わります(→化学メーカーの面接で聞かれること)。
どんな人に向くか
- 半導体の一番上流に関わりたい人:多結晶シリコンは半導体ウエハの原料です。作れる会社は世界で限られます
- 無機化学をやってきた人:塩、石灰石、セメント、シリコン。有機よりも無機・材料系の知識が生きます
- 山口で腰を据えたい人:本店・製造所・研究所が徳山にまとまっています(→化学メーカーの選び方)
志望動機の③会社の層(→化学メーカーの志望動機の書き方)では、「塩とセメントから始まり、半導体材料と診断薬に伸ばした会社」という理解を軸に語ると通りやすくなります。
この記事の使い方と注意
- 数字は2026年3月期決算と、執筆時点の募集要項に基づきます(最終更新:2026年8月)
- 初任給は「ライフサポート手当55,000円込み」の額です。他社と比べるときは注意してください
- 2025年10月にJSRの体外診断事業を取得しており、ライフサイエンスの数字にはその影響が入っています
- 就職難易度・採用大学・口コミは扱いません。決算短信・有価証券報告書・募集要項と現場の感覚だけを書いています
トクヤマは1918年創立、山口県徳山で塩から始まった会社です。売上3,495億円、営業利益率10.6%。利益トップは多結晶シリコンなどの電子先端材料157億円で、セメントも利益率14.3%を出しています。本店・製造所・研究所は徳山に集中。初任給は手当55,000円込みの表示です。29社の比較は化学メーカー大手29社の違いへ。
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