日産化学は、このシリーズで見てきた会社の中でも異質です。売上高は2,796億円と小さい。ところが**営業利益率は22.7%**。信越化学(→信越化学工業の企業研究)の24.7%に次ぐ高さで、他の化学メーカーの3倍前後あります。
何がそんなに儲かるのか。答えは**農薬と半導体・液晶材料**です。この2つで営業利益の97%を稼いでいます。一方、社名のとおり創業事業である化学品(硫酸・硝酸・アンモニア)の利益率は2.8%しかありません。
私は化学メーカーの生産技術者として12年働いています。この記事では決算短信と募集要項という一次資料だけを使って、「何で稼ぎ、どこで働くのか」を整理します。難易度や口コミは扱いません。
化学業界そのものが曖昧な人は先に「化学業界とは」(→化学業界とは)へ。10社の比較は→化学メーカー大手10社の違いへ。
一言でいうと|日本最古の化学会社が、農薬と電子材料で稼ぐ
日産化学の創業は**1887年(明治20年)**。日本で最初の化学肥料会社として設立された「東京人造肥料会社」が起源です。139年の歴史があります。
いま稼いでいるのは肥料ではなく、**農薬**と**ディスプレイ・半導体材料**です。液晶パネルの配向膜に使うポリイミド、半導体の反射防止コーティング材、そして除草剤。どれもニッチですが、その分野では上位を取っています。
| 項目 | 数字(出典・基準日) |
|---|---|
| 売上高 | 2,796億円(2026年3月期。前期比+11.2%) |
| 営業利益 | 636億円(同。前期比+11.8%) |
| 経常利益 | 659億円(同。前期比+13.6%) |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 497億円(同。前期比+15.5%) |
| 売上高営業利益率 | **22.7%** |
| 自己資本利益率(ROE) | 20.3% |
| 自己資本比率 | 71.9%(2026年3月31日現在) |
| 資本金 | 189億円 |
| 従業員数 | 連結3,411名/単体2,107名(2026年3月現在) |
| 本社 | 東京都中央区日本橋 |
| 創業 | 1887年(明治20年) |
就活生が押さえるべき性格は3つです。
- **規模は小さく、利益率は高い**:売上2,796億円はこのシリーズで最小級ですが、営業利益636億円は東ソー(売上1兆199億円、営業利益955億円)に迫ります。**少人数で高い利益を出す会社**です(連結従業員3,411名)
- **財務が堅い**:自己資本比率71.9%、ROE20.3%。借金に頼らず、しかも資本効率が高い。この両立は簡単ではありません
- **増収増益が続いている**:売上+11.2%、営業利益+11.8%、純利益+15.5%。市況に振り回されにくい事業構成であることの表れです
事業の中身|6セグメントを売上と利益で見る

| セグメント | 主な製品・分野 | 売上高 | セグメント利益 |
|---|---|---|---|
| 卸売 | 化学品の卸売 | 981億円 | 38億円 |
| 農業化学品 | 農薬(除草剤・殺虫剤・殺菌剤・植物成長調整剤)、動物用医薬品原薬 | 821億円 | 260億円 |
| 機能性材料 | ディスプレイ材料(液晶表示用ポリイミド)、半導体材料(反射防止コーティング材)、無機コロイド(研磨剤・表面処理剤) | 783億円 | 353億円 |
| 化学品 | 基礎化学品(硫酸、硝酸、アンモニア)、ファインケミカル(特殊エポキシ、難燃剤、殺菌消毒剤) | 262億円 | 11億円 |
| ヘルスケア・その他 | 高コレステロール血症治療薬原薬、受託事業、肥料、造園緑化、運送、エンジニアリング | 206億円 | 34億円 |
| 合計(代理人取引の消去▲258億円、全社費用など▲61億円を含む) | 2,796億円 | 営業利益636億円 |
※ 出典:2026年3月期 決算短信。売上は外部顧客に対する売上高。セグメント利益は営業利益。
読み方のポイント:
- **機能性材料353億円+農業化学品260億円=613億円**。営業利益636億円の**97%**をこの2事業が稼いでいます
- **売上のトップは卸売(981億円)だが、利益は38億円**。化学品を仕入れて売る商社機能で、薄利です。しかも代理人取引の消去で連結売上からは258億円が差し引かれます
- **創業事業の化学品(硫酸・硝酸)は利益率2.8%**。139年前の主力が、いまは会社を支えていません
- ヘルスケアは高コレステロール血症治療薬の原薬が中心です
**「小さいけれど儲かる会社」の構造**が、この表にそのまま出ています。売上の大きさで会社を見ると、この会社は見誤ります(→化学メーカー大手10社の違い)。
なぜ利益率22.7%なのか

セグメントごとの営業利益率を並べると、22.7%という数字の出どころが分かります。
| セグメント | 営業利益率 |
|---|---|
| 機能性材料 | 31.2% |
| 農業化学品 | 27.1% |
| ヘルスケア | 25.9% |
| その他 | 6.4% |
| 卸売 | 3.0% |
| 化学品 | 2.8% |
- **機能性材料31.2%**:液晶の配向膜、半導体の反射防止コーティング材。**材料の値段は安いが、それがないと作れない**という位置にある製品群です。採用されると設計が固定されるため、価格が崩れにくい
- **農業化学品27.1%**:農薬は開発に10年以上と巨額の費用がかかり、登録の壁も高い。**参入障壁がそのまま利益率になる**典型です
- **化学品2.8%・卸売3.0%**:硫酸・硝酸のような基礎化学品と、卸売は市況で決まります。ここが化学業界の「普通」の利益率です(→化学メーカー大手10社の違い)
つまり日産化学の高収益は、**「参入しにくい分野に絞って、そこで上位を取る」**という戦略の結果です。石油化学のような大型設備を持たないので、市況に左右されにくい構造でもあります。
化学業界の川(→化学業界とは)で言えば、日産化学はナフサクラッカーを持たず、**川下の高機能材料と農薬に絞った会社**です。信越化学(→信越化学工業の企業研究)とは違い、汎用品の大きな柱を持ちません。
工場と研究所|どこで働くか

| 拠点 | 所在地 | 内容 |
|---|---|---|
| 本社 | 東京都中央区日本橋 | 経営・営業の中心。札幌・仙台・名古屋・大阪・広島・福岡にオフィス |
| 袖ケ浦工場 | 千葉県袖ケ浦市北袖 | 京葉臨海コンビナート |
| 袖ケ浦工場 五井製造所 | 千葉県市原市五井南海岸 | 同上 |
| 埼玉工場 | 埼玉県児玉郡上里町 | |
| 富山工場 | 富山県富山市婦中町笹倉 | |
| 名古屋工場 | 愛知県名古屋市港区築地町 | |
| 小野田工場 | 山口県山陽小野田市 | |
| 物質科学研究所 | 千葉県船橋市坪井西 | |
| 材料科学研究所 | 船橋・袖ケ浦・富山の3か所 | |
| 生物科学研究所 | 埼玉県白岡市白岡 | 農薬・生物系の研究 |
現役として補足すると、この会社の拠点配置には特徴が2つあります。
1つは、**研究所が千葉(船橋)に集中していること**。物質科学研究所と材料科学研究所が船橋にあり、生物科学研究所が埼玉・白岡。研究開発職で入ると、勤務地は関東になる可能性が高い。
もう1つは、**工場が6か所と少ないこと**。連結従業員3,411名という規模を考えれば当然ですが、袖ケ浦(千葉)・埼玉・富山・名古屋・小野田(山口)と全国に散っています。生産技術職はこのいずれかが勤務地になります。
袖ケ浦と五井は京葉臨海コンビナートの中にあります。コンビナート勤務の実際は→コンビナート地域で働くという選択へ。
職種・初任給|募集要項を読む
**日産化学の新卒採用は職種別で、勤務地が職種で決まる**のが特徴です。
| 職種 | 勤務地 | 対象 |
|---|---|---|
| 研究開発職 | 物質科学研究所・材料科学研究所・生物科学研究所 | 2027年3月に大学院修了見込(6年制大学卒業見込を含む) |
| 生産技術職(プロセス系/機械・電気系) | 全国各工場 | 2027年3月卒業見込(大学院修了予定を含む) |
| 事務系総合職 | 全国各拠点 | 2027年3月卒業見込(大学院修了予定を含む) |
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 初任給(2025年度実績) | 学部卒 282,200円/修士了 292,600円/博士了 323,900円 |
| 賞与 | 年2回/昇給 年1回 |
| 勤務時間 | フレックスタイム制 |
| 休日 | 完全週休2日制、年次有給休暇(初年度15日、最高20日付与)、各種特別休暇 |
読み方:
- **研究開発職は大学院修了が条件**です。学部卒で研究をやりたい人は、この会社では生産技術職からのスタートになります(→院卒で研究開発職に就く)
- **生産技術職が「プロセス系」と「機械・電気系」に分かれている**のは親切な設計です。化学工学の人はプロセス系、機械・電気の人は設備側、と入口が明示されています(職種の中身は→化学メーカーの職種図鑑、→生産技術エンジニアの仕事内容)
- 初任給は修士了292,600円。全産業平均(大学卒26.2万円、→化学メーカーの初任給と年収カーブ)を上回りますが、**このシリーズの中では中位から下**です(→化学メーカー大手10社の違い)。利益率が高い会社=初任給が高い会社、ではありません
- **学部卒と修士了の差が10,400円と小さい**のも特徴です
公開資料の読み方|この会社を自分で追いかけるには
| 資料 | 見るところ |
|---|---|
| 決算短信・決算説明資料(IR) | 機能性材料と農業化学品の利益率が維持されているか。この2つが崩れると全社が崩れます |
| 中期経営計画(IR) | 次の柱をどこに置くか。ヘルスケアをどこまで伸ばすか |
| 採用サイト | 職種ごとの勤務地が明記されています。志望する職種=働く場所なので、必ず確認を |
面接では「機能性材料と農業化学品で営業利益の97%ですね」と言えると、決算を読んだ学生だと伝わります。そのうえで「創業事業の化学品をどうするか」まで踏み込めると、事業全体を見ていることが伝わります(→化学メーカーの面接で聞かれること)。
どんな人に向くか
- **少数精鋭が向く人**:連結3,411名で営業利益636億円。1人あたりの生み出す利益が大きい会社です。裏を返せば、1人が受け持つ範囲も広くなります
- **農薬や生物系に関心がある人**:農業化学品は利益の4割を稼ぐ柱です。生物科学研究所(埼玉・白岡)という専門の研究所を持っています
- **電子材料をやりたい人**:機能性材料は利益トップ。液晶・半導体の材料で世界の顧客と向き合います
志望動機の③会社の層(→化学メーカーの志望動機の書き方)では、「参入しにくい分野に絞って上位を取る会社」という理解を軸に語ると、規模の大きい会社との違いを説明できます。
この記事の使い方と注意
- 数字は2026年3月期決算と、執筆時点の募集要項に基づきます(最終更新:2026年8月)。初任給は採用サイト掲載の2025年度実績です
- **卸売事業には代理人取引が含まれ、連結売上からは258億円が消去されています**。セグメント売上の単純合計と連結売上高は一致しません
- 当期からセグメントへの全社費用の配賦方法を見直しており、前期の数字も新方式で作り直されています
- 就職難易度・採用大学・口コミは扱いません。一次資料と現場の感覚だけを書いています
日産化学は1887年創業の日本最古の化学会社の1つで、いまは農薬と半導体・液晶材料で稼いでいます。売上2,796億円と小さいのに営業利益率22.7%、自己資本比率71.9%。機能性材料と農業化学品の2事業で営業利益の97%を占め、創業事業の化学品は2.8%です。工場は6か所、研究所は千葉と埼玉。10社の比較は化学メーカー大手10社の違いへ。
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