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全揚程と吐出し圧力の違い|圧力計の針から揚程を出す3つの補正

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「このポンプ、仕様は揚程50 mなのに、吐出圧力計が0.55 MPaも指している。おかしくないか」。現場でよく聞く会話ですが、たいてい何もおかしくありません。圧力計の針は全揚程を指していないからです。

吐出し圧力は「吸込圧力+ポンプが上乗せした圧力」です。吸込側が加圧されていれば吐出し圧力は高く出ますし、液が軽ければ同じ揚程でも圧力は低く出ます。さらに圧力計の取付け高さと、吸込・吐出しの口径差まで効いてきます。この記事では、圧力計の読みから全揚程を出すまでの3つの補正を、数値例で追います。

この記事の結論

  • 吐出し圧力 = 吸込圧力 + 全揚程を圧力に換算した値。吐出し圧力だけを見て「揚程が出ていない/出すぎ」と判断してはいけない
  • 全揚程を圧力計から出すには、①吸込圧力を引く、②計器の取付け高さを足す、③口径が違えば速度ヘッドの差を足す
  • 圧力と揚程の換算は液の密度で決まる。比重0.78の液なら、同じ揚程でも圧力計は水の0.78倍しか振れない
  • 圧力計の枝管に空気が入っていると読みが変わる。取付け前に液で満たす

1. 圧力計の針は何を指しているか

圧力計の針は、全揚程ではない

ポンプの吐出し側に付いている圧力計は、その取付け位置の静圧を指しています。ポンプのカタログや性能曲線に書いてある全揚程は、吐出し口と吸込口の全エネルギー(静圧+速度のエネルギー+高さ)の差です。同じ「圧力っぽい量」ですが、測っている場所も中身も違います。

一番大きな違いは吸込側です。吸込タンクが高い位置にあったり、タンクが加圧されていたりすると、ポンプに入る前の液がすでに圧力を持っています。ポンプはそこに全揚程分を上乗せするだけなので、

吐出し圧力 = 吸込圧力 + 全揚程を圧力に直した値

になります。全揚程は性能曲線で決まる値なので、吸込圧力が変われば吐出し圧力はそのまま動きます。吐出し圧力が高い=ポンプが頑張っている、ではありません。

2. 圧力と揚程の換算|密度が間に入る

揚程 H[m]と圧力 P[Pa]は、液の密度 ρ[kg/m³]で結ばれます。

P = ρ g H (g=9.81 m/s²)

水(ρ=1000)なら、揚程10 mがおよそ0.098 MPa、ざっくり10 mで0.1 MPaです。液が比重0.78の炭化水素なら、同じ10 mで0.0765 MPa。つまり同じポンプを同じ回転数で回しても、軽い液では圧力計の振れが小さくなります。 遠心ポンプが「液に与えるのは圧力ではなく揚程(高さ)」と言われるのはこのためです。

逆に運転員が圧力計から揚程を出したいときは、P を ρ g で割ります。0.55 MPa は水なら 56.1 m、比重0.78なら 71.9 m です。液が変わると、同じ針の位置でも意味が変わります。

3. 補正①|吸込圧力を引く

全揚程 H は吐出しヘッド Hd と吸込ヘッド Hs の差です。口径が同じで計器が同じ高さにあるなら、

H = Hd − Hs

吸込側が負圧(真空計の読み)なら Hs は負になり、その分全揚程は大きくなります。吸込側が加圧されていれば、吐出し圧力が高くても全揚程は小さいかもしれません。吐出し圧力計だけ見て揚程を語れない理由はここです。

数値で見ます。水を60 m³/hで送っている遠心ポンプで、吐出し圧力計が0.55 MPa(G)、吸込圧力計が0.05 MPa(G)だったとします。

  • 吐出しヘッド:0.55×10⁶ ÷ (1000×9.81) = 56.1 m
  • 吸込ヘッド:0.05×10⁶ ÷ (1000×9.81) = 5.1 m
  • 差し引き:51.0 m

吐出圧力だけ見ると「56 m」に見えたものが、吸込圧力を引くと51 mです。仕様の揚程が50 mなら、このポンプは仕様どおりに働いています。

同じポンプで吸込タンクを0.30 MPa(G)に加圧すると、全揚程は変わらないのに吐出し圧力計は0.80 MPa(G)まで上がります。針が上がったのはポンプのせいではなく、入口の圧力が上がったからです。

4. 補正②|計器の取付け高さを足す

圧力計がポンプ軸中心より高い位置に付いていると、その高さ分だけ指示が低くなります(計器までの液柱の重さ分)。全揚程の基準は横軸ポンプでは軸中心なので、計器の読みに計器の高さを足して軸中心の値に戻します。

上の例で、吐出圧力計が軸中心より0.5 m高く、吸込圧力計が0.2 m高いところに付いていたとすると、

  • 吐出しヘッド:56.1 + 0.5 = 56.6 m
  • 吸込ヘッド:5.1 + 0.2 = 5.3 m
  • 差し引き:51.3 m

0.3 mの差です。小さく見えますが、性能試験で「揚程が足りない」と揉めるのはこの程度の差のことが多く、試験のときは計器の高さを必ず記録します。

ここでもう1つ、圧力計の取付けで見落としがちな点があります。圧力計につながる枝管に空気が溜まっていると、圧力計が感じるのは「液柱の高さ」ではなく「空気の圧力」になり、読みが変わります。圧力計を取り付ける前に枝管を液で満たす、これは運転員が交換作業で直接関わるところです。

5. 補正③|口径が違えば速度ヘッドの差を足す

圧力計から全揚程へ、3つの補正

遠心ポンプは吸込口径のほうが吐出口径より太いのが普通です。口径が違うと流速が違い、流速のエネルギー(速度ヘッド v²/2g)が違います。全揚程は静圧と速度ヘッドの合計の差なので、

H = (Hd − Hs) + (vd²/2g − vs²/2g)

上の例で吐出口径80A、吸込口径100Aとすると、60 m³/hのとき

  • 吐出し流速 vd = 3.32 m/s → 速度ヘッド 0.56 m
  • 吸込流速 vs = 2.12 m/s → 速度ヘッド 0.23 m
  • 差:0.33 m

全揚程は 51.3 + 0.3 = 51.6 m。補正の順に並べると「56.1 m に見えた → 吸込を引いて 51.0 → 高さを直して 51.3 → 口径差で 51.6 m」です。1つ目の補正が桁違いに大きく、2つ目・3つ目は性能試験で効く微修正、という感覚を持っておけば十分です。

補正効く大きさいつ気にするか
① 吸込圧力を引く数m〜数十m。場合によっては吐出圧力の半分以上いつも。これを忘れると揚程を誤解する
② 計器の高さ0.1〜1 m性能試験、メーカーとの性能確認
③ 口径差の速度ヘッド0.1〜0.5 m性能試験。口径が同じなら0

6. 現場での使い方|「揚程が出ていない」と言う前に

運転中に吐出圧力が下がったとき、原因がポンプ側か、吸込側か、液の変化かを切り分ける順番は次のとおりです。

  1. 吸込圧力計を見る。 吸込圧力が下がっていれば、吐出圧力が下がるのは当然。タンク液面の低下、吸込ストレーナの詰まり、吸込弁の開度を疑う
  2. 液の密度を疑う。 温度が上がった、組成が変わった、水が混じった、などで密度が下がれば、同じ揚程でも圧力計は下がる
  3. それでも全揚程(吐出ヘッド−吸込ヘッド)が下がっていれば、ポンプ側。 羽根車の摩耗・腐食、ライナリングのすき間の拡大、回転数の低下、空気の吸込み、キャビテーション

1と2を飛ばして3に行くと、健全なポンプを開けてしまいます。吐出圧力計は単独では読まない。吸込圧力計とペアで読む。 これがこの記事で一番伝えたいことです。

まとめ

  • 圧力計の針は静圧。全揚程は吐出しと吸込の全エネルギー差。吐出し圧力 = 吸込圧力 + 全揚程分の圧力
  • 圧力と揚程は密度で換算する。軽い液は同じ揚程でも圧力計の振れが小さい
  • 補正は3つ:吸込圧力を引く(大)、計器の高さを足す(小)、口径差の速度ヘッドを足す(小)
  • 枝管に空気が入ると圧力計の読みが変わる。取付け前に液で満たす
  • 吐出圧力が変わったら、まず吸込圧力と液の密度を疑う。ポンプを開けるのはその後

次の記事では、その圧力を生み出している遠心ポンプの中身——ケーシング・羽根車・ライナリング・軸スリーブ——を、部品ごとの役割で見ていきます。

本文の数値例(60 m³/h、80A/100A、0.55/0.05 MPa(G)、計器高さ0.5/0.2 m)は、参考文献の式を使って筆者が計算したものです。特定の実機の値ではありません。

参考文献

  • 外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』日刊工業新聞社, 2・14「全揚程と吐出し圧力の関係」(全揚程の定義、吐出し圧力の計算式、圧力計器の高さの補正)  Amazonで見る
  • 外山幸雄『絵とき「ポンプ」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 第1章 豆知識「圧力計の読み方」  Amazonで見る
  • 高圧ガス保安協会『高圧ガス保安技術』学識編 11.5「圧縮機とポンプ」ポンプの全揚程と実揚程、式(11.35)
  • 西野悠司『「配管設計」実用ノート』日刊工業新聞社, 3.1「ポンプの特性を知る」(全揚程の測定)  Amazonで見る
  • 高橋徹『流体のエネルギーと流体機械』理工学社, 2章「ポンプ」ポンプの全揚程  Amazonで見る