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空間時間・空間速度・平均滞留時間|混同しやすい3つの使い分け

R-08 space-time-velocity

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連続反応器には、時間を表す量が3つ出てきます。空間時間 τ空間速度 SV平均滞留時間

この3つは似ていて、しかも一致しないことがある。触媒カタログのSVを比べるとき、基準を確認しないと桁で間違えます。

この記事の結論

  • 空間時間 τ = V/v0。回分反応器の反応時間に対応する量
  • 空間速度 SV = τ の逆数。「1時間に反応器何杯ぶん流すか」
  • v0入口の温度・圧力での体積流量。だから条件が変わると値が変わる
  • 体積が変わる気相反応では、τ と実際の平均滞留時間が一致しない

1. 空間時間とは何か

3つの使い分け

定義は単純です。

τ = V / v0 (V:反応器体積、v0:入口の体積流量)

単位は時間です。意味は「反応器の中身を1杯ぶん入れ替えるのにかかる時間」

この量が大事なのは、設計方程式を見れば分かります。

回分反応器t = CA0∫dxA/(−rA)
PFRτ = CA0∫dxA/(−rA)

文献の言い方をそのまま借りれば、空間時間は「回分反応器における反応時間に対応している」。だから τ を使うと、回分と流通を同じ土俵で語れます。

ラボの回分実験で「2時間で90%」と分かったら、PFRなら τ = 2時間で設計する。これが τ を導入する理由です。

2. 空間速度は逆数

SVを比べるときは基準を確認する

SV = v0 / V = 1/τ

単位は[時間−1]。意味は「1時間に反応器何杯ぶんの原料を流すか」です。

触媒の世界ではこちらが主に使われます。SVが大きい=速く流せる=同じ生産量なら反応器が小さくて済むので、触媒の性能指標として直感的だからです。

ただし現場では、似た名前の量が複数あります。

呼び方分母分子
SV(空間速度)反応器体積または触媒層体積体積流量
GHSV触媒層体積標準状態換算のガス体積流量
LHSV触媒層体積液体の体積流量
WHSV触媒質量原料の質量流量

分母が体積か質量か、分子が実流量か標準状態換算か。ここが揃っていないと比較になりません。

3. v0 をどの条件で取るか

ここが実務でいちばん間違えるところです。

文献はこう書いています。反応流体の体積流量 v0 には、反応器入口における圧力と温度に対する値が採用されるが、反応条件が変化すると空間時間あるいは空間速度の値も変化するから不便である。

気体は温度と圧力で体積が大きく変わります。同じモル流量でも、

  • 200℃・常圧なら体積は大きい → SVは大きく出る
  • 200℃・10気圧なら体積は1/10 → SVも1/10になる

まったく同じ運転をしていても、基準の取り方でSVの数字が桁で変わる。だから気相反応では標準状態(273.2 K、1 atm)換算の体積流量を使う流儀があります。これがGHSVです。

実務上の教訓ははっきりしています。

  • 触媒カタログのSVを比べるときは、必ず基準状態を確認する
  • 自社のデータを渡すときも、どの温度・圧力の体積流量かを明記する
  • 迷ったらモル流量と触媒質量で話す。W/FA0 なら換算がいらない

4. 平均滞留時間とはずれる

3つ目の量が平均滞留時間です。「流体が実際に反応器の中にいた時間の平均」。

直感的には τ と同じに思えますが、一致するとは限りません

条件τ と平均滞留時間
液相(体積が変わらない)一致する
気相でモル数が変わらない反応一致する(温度・圧力が一定なら)
気相でモル数が変わる反応ずれる
温度が大きく変わる反応ずれる

理由は簡単で、τ の分母 v0 が入口の値で固定されているからです。

たとえば A → 2B のような分解反応では、反応が進むとモル数が増えて体積が膨らみます。出口では流速が入口の2倍近くになっている。後半ほど速く通り抜けるので、実際の滞留時間は τ より短くなります。

逆に 2A → B のようにモル数が減る反応では、実際の滞留時間は τ より長い。

それでも設計に τ を使うのは、入口の値だけで決まるから扱いやすいからです。膨張の効果は設計方程式の中(εA を含む項)で別に面倒を見ています。τ は「設計上の物差し」、平均滞留時間は「実際に起きたこと」と割り切ると混乱しません。

5. もう一つのずれ|流れが理想でないとき

ここまでは「押し出し流れ」や「完全混合」という理想を前提にしていました。実際の反応器では、もっと大きなずれが起きます。

  • 短絡(ショートパス):一部の流体が反応器をすり抜けて、ほとんど反応せずに出ていく
  • 死容積(デッドスペース):流れが淀んで、実質的に反応器として使われていない部分

死容積があると、有効な V が設計値より小さいことになります。τ を V/v0 で計算しても、流体はもっと短い時間しか有効域にいない。

「設計どおりの τ を取っているのに反応率が出ない」という現象の多くは、ここが原因です。それを測る道具が滞留時間分布(RTD)で、あとの章で扱います。

6. 3つの使い分け

定義使う場面
空間時間 τV/v0設計。回分データを流通反応器に読み替える
空間速度 SVv0/V触媒の性能比較、カタログ。基準状態を確認する
平均滞留時間実測(RTD)診断。設計値とずれていたら短絡や死容積を疑う

設計には τ、比較にはSV、診断には平均滞留時間。この対応を押さえておけば混同しません。

そして3つが食い違ったときが情報です。設計 τ と実測の平均滞留時間がずれていれば、反応器の中で何かが起きている。ずれを異常ではなく手がかりとして読むのが、運転側の見方になります。

まとめ

空間時間 τ = V/v0 は「反応器を1杯入れ替える時間」で、回分反応器の反応時間に対応します。その逆数が空間速度で、触媒の性能比較に使われますが、v0 をどの温度・圧力で取るかで数字が桁で変わるため基準状態の確認が要ります。そして体積が変わる気相反応では τ と実際の平均滞留時間がずれる。設計には τ、比較にはSV、診断には平均滞留時間——3つが食い違ったときは、反応器の中で何かが起きているサインです。

次の記事:多段CSTR|槽を直列にするとPFRに近づく

参考文献

  • 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第3章 3・3「空間時間,空間速度および平均滞留時間」(τ=V/v0 が回分反応器の反応時間に対応すること、入口条件で取るため不便であること、気相反応での標準状態換算) Amazonで見る
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善 最新版をAmazonで見る
  • 『プロセス設計シリーズ4 反応・吸収を中心とする設計』化学工業社