※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。
充填塔に決めたら、次は何を詰めるかです。
大きく不規則充填物(ばらばらに投入する)と規則充填物(形を揃えて積む)の2系統。性能と価格が大きく違い、塔径にも跳ね返ります。
この記事は蒸留シリーズ「塔の設計判断」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。
この記事の結論
- 規則充填物のほうがHETPが小さく圧力損失も小さい。ただし高価
- 不規則充填物はラシヒリング → サドル型 → リング型と改良されてきた
- 細かい充填物ほど効率は上がるが許容Csが下がり塔が太くなる
- 必要な液負荷が違う。規則は4〜10、不規則は10〜80 L/(分·m²)が目安
1. 不規則充填物|投入するだけ

塔にばらばらと投げ込むタイプです。代表的なものが世代順に並んでいます。
| 形式 | 形 | 特徴 |
| ラシヒリング | ただの円筒(パイプを切ったもの) | 最も古い。安いが空隙率が低く、性能は劣る |
| ベルサドル/インタロックスサドル | 鞍型 | ラシヒリングより物質移動容量係数が大きく、フラッディング速度も大きい |
| ポールリング/ナッターリング | リングの側面に窓を開け、内側に舌を出したもの | 内部にも気液が通り、有効表面が増える。現在の主力 |
改良の方向は一貫しています。空隙を保ちながら、いかに表面を使うか。ラシヒリングは重なると内側が死んでしまいますが、サドル型やポールリングは重なっても流路が残ります。
手元の吸収塔の設計例でも、初期はセラミック製ラシヒリングを使っていたところ、物質移動容量係数が大きくフラッディング速度(処理能力)も大きいインタロックスサドルに置き換わったと記されています。同じ塔径でより多く処理でき、より高い効率が得られるということです。
材質はセラミック・金属・樹脂が選べます。腐食性が強い系ではセラミックや樹脂が使えることが、充填塔の大きな利点です。
2. 規則充填物|形を揃えて積む
波板や金網を規則的に組んだブロックを積み上げるタイプです。250Y のような呼び方をし、数字は比表面積(m²/m³)、記号は波の角度を表します。
不規則充填物に対する利点は2つです。
- HETPが小さい:流路が揃っているので液膜が均一になり、同じ分離に必要な高さが低くて済む
- 圧力損失が小さい:蒸気の通り道が整っている。減圧蒸留ではこれが決定的
欠点は価格と液分散への敏感さです。流路が揃っているということは、液が偏って入ると偏ったまま下まで流れるということでもあります。分配器の性能がそのまま効率になります。
3. 細かくすれば良いわけではない

比表面積を上げれば接触面積が増えてHETPは小さくなります。では500Yを選べばよいか——ここに落とし穴があります。
細かい充填物ほど、許容できるキャパシティファクタCsが小さくなります。フラッディング相関を見ると、同じ条件で 125Y > 250Y > 350Y > 500Y の順にCsが下がる。つまり同じ蒸気量を流すには塔を太くしなければならない。
これはトレードオフです。
- 細かい充填物:塔は低くなるが、太くなる。充填物の単価も高い
- 粗い充填物:塔は細くて済むが、高くなる
塔の高さに制約があるのか、設置スペースに制約があるのか、輸送・据付の制限はどうか。プラント側の制約から逆に決まることが多い判断です。
4. 液負荷の下限を確認する
見落とされやすいのが液が足りないと効かないことです。充填物は表面がぬれて初めて働くので、液負荷が下限を切ると有効表面が減り、効率が急落します。
| 充填物 | 良好な効率が得られる液負荷の目安 |
| 不規則充填物 | 10〜80 L/(分·m²) |
| 規則充填物 | 4〜10 L/(分·m²) |
規則充填物のほうが少ない液でも効くのが分かります。液量が少ない塔(還流比が低い、あるいは減圧で蒸気の体積が大きく液が相対的に少ない)では、規則充填物が有利になります。
逆に、低負荷運転を想定するならそのときの液負荷が下限を割らないかを必ず確認してください。ターンダウンの下限は、充填塔ではぬれ不足で決まることが多いのです。
5. 分配器と再分配器
充填塔で最後に効くのが液をどう散らすかです。
塔頂から入った液は、放っておくと壁側に寄っていきます(ウォールフロー)。壁を流れる液は充填物と接触しないので、その分だけ塔が働かない。これを防ぐため、一定の高さごとに液を集めて撒き直す再分配器を入れます。
大径の塔ほど分散は難しく、これが「充填塔は大径に向かない」と言われる理由です。ユーザー側としては、メーカー提案の分配器の点数と位置を確認することが実務になります。HETPの保証値は、この分配が効いている前提の数字です。
まとめ
充填物は不規則(ラシヒリング→サドル→ポールリング)と規則(250Yなど)の2系統。規則充填物はHETPも圧力損失も小さいが高価で、液分散に敏感です。細かい充填物を選ぶと塔は低くなる代わりに太くなるトレードオフがあり、液負荷の下限も確認が要ります。そして充填塔の性能は分配器で決まる——ここまで含めてメーカー提案を評価してください。
参考文献
- 大江修造『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2008, 第4章(充填物の種類、充填塔の効率HETP、液負荷の目安、規則充填塔のフラッディング点) Amazonで見る
- 『プロセス設計シリーズ1 プロセス設計概論』化学工業社(吸収塔の設計例。ラシヒリングからインタロックスサドルへの置き換え)
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第9章・第10章 最新版をAmazonで見る
※ 液負荷とCsの目安は文献値です。実際の設計では採用する充填物のメーカーデータを用いてください。
化学プラント大全 
