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トレイ塔に決めたら、次はどのトレイを使うかです。
選択肢は実質3つ。シーブ(多孔板)・バルブ・バブルキャップ(泡鐘)です。歴史的には主役が交代してきました。その理由を知ると、選び方が見えてきます。
この記事は蒸留シリーズ「塔の設計判断」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。
この記事の結論
- シーブトレイが現在の標準。安く単純で、FRIの実験で性能が確立している
- バルブトレイは広い安定操作範囲。ターンダウンが要るならこれ
- バブルキャップはかつての主流。いまはシーブに置き換わった
- トレイ本体よりダウンカマーの設計のほうが性能を左右することがある
1. トレイ1枚の構造

形式の前に、どのトレイにも共通する3つの部品を押さえます。
- 気液接触部:穴やキャップ。下から来た蒸気がここを抜けて液に入る。形式の違いはここ
- ウェア(堰):液の高さを決める堰。液深=接触時間を作る。高いほど効率は上がるが圧力損失も増える
- ダウンカマー:液が下の段へ降りる通路。ここが詰まると即フラッディング
蒸気は穴を上へ、液はウェアを越えてダウンカマーを下へ。この直交する2つの流れが1段の中で成立していることが、トレイが機能する条件です。
2. 3つの形式
| シーブ(多孔板) | バルブ | バブルキャップ(泡鐘) | |
| 構造 | 板に穴を開けただけ | 穴の上に可動の弁板 | 穴の上にキャップ、側面にスロット |
| コスト | 最も安い | 中 | 高い |
| 圧力損失 | 小さい | 中 | 大きい |
| ターンダウン | 狭め(低負荷で漏れる) | 広い(弁が閉じて漏れを防ぐ) | 広い |
| 低負荷での液漏れ | 起きやすい | 起きにくい | 起きない(液シールがある) |
| 汚れ | 比較的強い | 可動部に固着の懸念 | キャップ内に溜まる |
| 現在の位置づけ | 標準 | ターンダウン重視で選ぶ | ほぼ使われない |
3. なぜ主役が入れ替わったのか
かつての主役はバブルキャップでした。穴の上にキャップを被せた構造で、蒸気はキャップ側面のスロットから液に入ります。この構造だと蒸気が止まっても液が抜けない——液シールが効くので、低負荷でも段が死にません。
ただし部品点数が多く高価で、圧力損失も大きい。キャップの中に汚れも溜まります。
これを置き換えたのがシーブトレイです。板に穴を開けただけで、安く、軽く、圧力損失も小さい。弱点は「低負荷で液が漏れる」ことでした。
この弱点が実用上の問題にならなくなった理由が、データの蓄積です。FRI(Fractionation Research Inc.)による詳細な実験により、シーブトレイは安定した性能が発揮できるようになりました。どこまで負荷を下げられるか、どう設計すれば漏れないかが分かったので、安価な形式を安心して使えるようになったわけです。
これは段効率の話と同じ構図です。予測できない量は、実験データの蓄積が埋める。設計の進歩は理論だけでは起きません。
4. バルブトレイを選ぶとき

バルブトレイは、穴の上に動く弁板を載せた形式です。蒸気が多いと弁が持ち上がって開口が広がり、少ないと下がって塞がる。開口面積が負荷に応じて変わるのが本質です。
これにより広い安定操作範囲が得られます。低負荷では弁が閉じるのでウィーピングを抑えられる。ターンダウンが要求される塔ではバルブトレイが有力です。
選ぶときの注意点は可動部があることです。
- 重合しやすい系・析出する系では弁が固着する。固着した弁は開いたままか閉じたままになり、性能が読めなくなる
- 長期運転では弁の摩耗・脱落がある。定期修理で目視確認する項目になる
汚れる系ではシーブの単純さが効きます。「動く部品がない」こと自体が信頼性だという判断です。
5. ダウンカマーを軽視しない
形式の議論は接触部に集まりがちですが、実務でトラブルになるのはダウンカマー側のことが多いです。
ダウンカマーは液が下りる通路であると同時に、液に同伴した泡を抜く場所でもあります。ここで気泡が抜けきらないと、見かけの液密度が下がって流れにくくなり、液が溜まる。溜まればフラッディングです。
だからダウンカマーには必要な滞留時間が要ります。発泡しやすい系ほど余裕が必要で、そのぶん断面を取ると気液接触部が狭くなる。塔断面をどう配分するかという設計判断がここにあります。
ユーザー側として仕様書で伝えるべきは、系が発泡するかどうかです。これはメーカーには分かりません。運転経験や小試験から分かっているなら、必ず伝えてください。
まとめ
トレイはシーブ・バルブ・バブルキャップの3形式で、現在の標準はシーブです。安く単純で、FRIの実験データにより性能が確立したことが普及の理由でした。ターンダウンが要るならバルブトレイですが、可動部の固着に注意します。そして形式より効いてくるのがダウンカマーの設計で、発泡性の情報はユーザー側からしか出せません。
参考文献
- 大江修造『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2008, 第4章(棚段および充填物の例。シーブトレイとFRIの実験、バブルキャップからの置き換え、バルブトレイの安定操作範囲) Amazonで見る
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第9章 9・11「棚段塔」(トレイの水力学、ダウンカマーの滞留時間) 最新版をAmazonで見る
- 『プロセス機器構造設計シリーズ2 塔槽類』化学工業社(トレイ形式と製作コスト)
化学プラント大全 
