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x-y線図(気液平衡図)の読み方|蒸留の議論はこの1枚の図でできる

D-03 xy-diagram

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蒸留の専門書を開くと、必ず正方形のグラフが出てきます。横軸に液組成x、縦軸に気組成y、対角線と膨らんだ曲線が1本。x-y線図(気液平衡図)です。

地味な図に見えますが、蒸留の実務者にとってこれは配管図と同じくらい基本の言語です。分離が楽か難しいか、何段くらい要るか、共沸で行き止まりになるか——蒸留の重要な議論は、ほぼすべてこの1枚の図の上でできます。この記事では、x-y線図の読み方を「どこを見るか」の順で解説します。

この記事は蒸留シリーズ「気液平衡の読み方」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。

この記事の結論

  • x-y線図は「液組成→蒸気組成」の対応表。曲線上の点が気液平衡の状態
  • 対角線は「y = x」=濃縮ゼロの線。曲線と対角線の間の開きが濃縮の余地
  • 曲線が膨らむほど分離が楽=少ない段数で済む。対角線に張り付くほど難しい
  • 曲線が対角線と交わったらそこが共沸点。それ以上は普通の蒸留で越えられない

1. 軸と対角線の意味|「濃縮ゼロの線」からの距離を見る

対角線は濃縮ゼロの線

x-y線図の約束事は3つだけです。

  • 横軸x:液の中の軽質成分(沸点の低いほう)のモル分率
  • 縦軸y:その液と平衡にある蒸気の中の、軽質成分のモル分率
  • 曲線:xを0から1まで動かしたときのyの値。ラウールの法則(または実測データ)から描く

そして必ず引かれている対角線はy = x の線、つまり「蒸発させても組成が変わらない」濃縮ゼロの線です。平衡曲線が対角線より上にある領域では、蒸気は液より軽質成分に富む。曲線と対角線の縦の開きこそが、1回の蒸発で稼げる濃縮幅です。x-y線図を見たら、まず「どのあたりで開きが大きく、どこで狭いか」を見てください。

高純度側(xが1に近い右上)ほど開きが狭くなることにも注目です。製品純度を上げるほど1段あたりの稼ぎが減る=段数が急に増える。「99%を99.9%にする」のが大変な理由は、この図の右上の狭さそのものです。

2. 曲線の膨らみ=分離のしやすさ

膨らみ=分離のしやすさ

曲線の膨らみ具合は系によって決まっていて、相対揮発度αという1つの数字で代表できます。αが大きいほど曲線は大きく膨らみ、α = 1だと曲線は対角線と一致して蒸留では絶対に分離できません

実務の感覚では、膨らみが大きい系(α > 2)は数段〜十数段で済み、対角線に張り付くような系(α = 1.1前後)は百段近い塔や高い還流比が必要になります。x-y線図を一目見れば、その分離が「楽な仕事」か「重い仕事」かの当たりが付くということです。

3. 実例で点を打つ|ベンゼン+トルエン

前回の記事で計算したベンゼン+トルエン系(40℃)を思い出してください。液組成x = 0.6に対して蒸気組成y = 0.826でした。x-y線図の上では、これは曲線上の1点(0.6, 0.826)です。

蒸留塔の作図計算(McCabe-Thiele法)では、この曲線と操作線の間で階段を描いて理論段数を数えます。「曲線に当たって、降りて、また当たって」の1往復が蒸留塔の1段に対応します。階段の詳しい描き方は第2章のMcCabe-Thiele法の記事で扱いますが、「段を数える土俵がこの図だ」ということだけ先に覚えてください。

4. 曲線が対角線と交わったら|共沸という行き止まり

非理想性の強い系では、平衡曲線が途中で対角線と交差することがあります。交点ではy = x、つまり蒸発させても組成が変わらない。ここが共沸点で、普通の蒸留ではこの組成を越えられません

エタノール+水が有名な例で、エタノールを濃縮していくと共沸組成で頭打ちになります。x-y線図を最初に見るべき理由のひとつがこれで、曲線が対角線と交わっていないかは、プロセス構想の最初に確認すべき項目です。交わっていたら、共沸蒸留や抽出蒸留といった別の武器を検討することになります。

まとめ|x-y線図チェックリスト

  • 曲線と対角線の開きはどのくらいか → 分離の難易度・段数の当たり
  • 高純度側(右上)の狭さはどうか → 製品純度の上げやすさ
  • 曲線が対角線と交わっていないか → 共沸の有無。交わっていたら別方式を検討

次の記事:相対揮発度αとは?「分離のしやすさ」を1つの数字で測る

参考文献

  • 大江修造『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2008, 第2章「気液平衡」 Amazonで見る
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第9章「蒸留」