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ラウールの法則とは?蒸留で成分が分かれる仕組みを分圧から理解する

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蒸留塔はなぜ混ざったものを分けられるのか。「沸点が違うから」と答えたくなりますが、これは半分だけ正解です。沸点の違いは結果であって、分かれる仕組みそのものは「同じ温度でも、成分ごとに蒸気になりたがる度合い(蒸気圧)が違う」ことにあります。

この「度合いの違い」を最も単純な形で式にしたのがラウールの法則です。蒸留の計算はほぼすべてここから出発します。この記事では、ラウールの法則を使ってベンゼン+トルエンの混合液から出てくる蒸気の組成を実際に計算し、「蒸気は必ず軽い成分に富む」という蒸留の原動力を確認します。

この記事は蒸留シリーズ「気液平衡の読み方」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。

この記事の結論

  • 蒸留の原動力は沸点差ではなく蒸気圧の差。沸点差はその現れ方のひとつ
  • ラウールの法則:各成分の分圧 = 純物質の蒸気圧 × 液中のモル分率(pi = Pi°xi
  • 全圧は分圧の合計(ダルトンの法則)、気相組成は yi = pi/π で求まる
  • ベンゼン0.6の液から出る蒸気はベンゼン0.826。この「気相が軽質分に富む」現象を積み重ねたものが蒸留塔
  • ラウールの法則が成り立つのは似た者同士の混合物(理想溶液)。効かない系は活量係数で補正する

1. 蒸留が分かれる仕組み|沸点差ではなく蒸気圧差

蒸留の正体は蒸発と凝縮の繰り返し

コップの水が100℃でなくても少しずつ蒸発するように、液体はどの温度でも「蒸気になろうとする圧力」を持っています。これが蒸気圧で、温度が上がるほど大きくなり、蒸気圧が周囲の圧力に達した温度がその物質の沸点です。

2つの成分を混ぜて熱すると、蒸気圧の大きい成分(軽質成分)ほど積極的に蒸気に出ていきます。だから、発生した蒸気を集めて凝縮させると、元の液より軽質成分の濃い液が得られます。これを1回だけやるのが単蒸留、何十回も積み重ねるのが蒸留塔です。

つまり蒸留を定量的に扱うには、「液の組成が決まったとき、蒸気の組成はいくつになるか」を計算できればよいことになります。その最初の道具がラウールの法則です。

2. ラウールの法則|分圧は「蒸気圧×モル分率」

液0.6の蒸気は0.826になる

ラウールの法則はこう言っています。

pi = Pi° × xi(成分iの分圧 = 純物質iの蒸気圧 × 液中のモル分率)

意味は単純です。純粋な液体なら蒸気圧P°をフルに発揮するところ、混合液では表面にいる分子の割合がxiに減るので、蒸気になろうとする力もxi倍に薄まる、ということです。

そして混合蒸気の全圧πは、ダルトンの法則により各成分の分圧の合計になります。気相の組成は、全圧に占める分圧の割合です。

π = p1 + p2  yi = pi/π

この2行とラウールの法則を組み合わせるだけで、「液の組成→蒸気の組成」が計算できます。

3. 計算例|ベンゼン0.6の液から出る蒸気は0.826

ベンゼン(1)+トルエン(2)の40℃の混合液で計算してみます。40℃における純物質の蒸気圧は次のとおりです。

蒸気圧(40℃)
ベンゼン P1°187.5 mmHg = 25.00 kPa
トルエン P2°59.2 mmHg = 7.89 kPa

同じ40℃でも、ベンゼンはトルエンの3倍以上蒸気になりたがっている。この差が蒸留の原資です。液組成をベンゼン0.6モル分率とすると:

  • ベンゼンの分圧:p1 = 25.00 × 0.6 = 15.0 kPa
  • トルエンの分圧:p2 = 7.89 × 0.4 = 3.16 kPa
  • 全圧:π = 15.0 + 3.16 = 18.16 kPa
  • 蒸気中のベンゼン:y1 = 15.0 ÷ 18.16 = 0.826

液では0.6だったベンゼンが、蒸気では0.826まで濃くなりました。1回蒸発させただけで26ポイントの濃縮です。この蒸気を凝縮して再び蒸発させれば、さらに濃くなります。蒸留塔の中では、各トレイ(棚段)でこの蒸発と凝縮が繰り返されています

「液組成xに対して蒸気組成yがいくつになるか」を全組成範囲でプロットしたものがx-y線図(気液平衡図)です。蒸留の設計はこの図の上で行います。

4. ラウールの法則はいつ使えるのか

ラウールの法則が成り立つのは、分子同士の相性が「自分同士」と「相手」とで変わらない混合物です。これを理想溶液と呼びます。ベンゼン+トルエンのような化学的に似た者同士はほぼ理想溶液とみなせます。

一方、エタノール+水のように分子の性格が違う組み合わせでは、ラウールの法則からのずれが大きくなります。ずれの補正には活量係数γを使い、ずれが極端になると共沸という蒸留の壁が現れます。実務の系の多くは非理想系なので、「ラウールの法則は出発点、実際はγで補正」と覚えておいてください。

まとめ

蒸留の原動力は、同じ温度における成分間の蒸気圧の差です。ラウールの法則(p = P°x)とダルトンの法則(y = p/π)を組み合わせると、液組成から蒸気組成が計算でき、蒸気が必ず軽質成分に富むことが数字で確認できます。ベンゼン0.6の液から0.826の蒸気。この1段分の濃縮を数十段積み重ねる装置が蒸留塔です。

次の記事:x-y線図(気液平衡図)の読み方/蒸気圧そのものの求め方はAntoine式の使い方へ。

参考文献

  • 大江修造『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2008, 第2章「気液平衡」(ベンゼン+トルエン系40℃の数値例は同書pp.23-24による) Amazonで見る
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第9章「蒸留」

※ 本文の数値例は上記文献の物性値に基づく計算値です。実際の設計では最新の物性データベースで確認してください。