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汚れ係数ってどう決めればいいの?
安全側に大きく取っておけばいい?
そんな悩みを解決します。
・汚れ係数とは何か、面積の余裕率との違い
・過大な汚れ係数がもたらす悪循環
・運転実績から汚れ係数を逆算する方法

私の仕事は化学プラントの設計です。
運転実績を持っているユーザー側だからこそ根拠を出せる領域です。
熱交換器は必ず汚れます。運転を始めた瞬間から伝熱面に付着物が成長し、性能は落ちていきます。そこで設計では、あらかじめ汚れの熱抵抗を織り込んでおきます。これが汚れ係数(ファウリングファクター)です。
ところが、この汚れ係数の扱いには落とし穴があります。「安全側だから大きく取っておこう」という判断が、かえって設備を汚す結果を招くのです。
・汚れ係数は「安全率」ではなく「予測値」。運転周期の終わりにどれだけ汚れているかの見積もりです。
・汚れ係数は熱抵抗[m2・K/W]として U の分母に足します。面積に余裕率を掛けるのとは意味が違います。
・過大な汚れ係数は機器を大きくします。機器が大きくなると流速が下がり、流速が下がると本当に汚れます。
・汚れを減らす最も効果的な手段は、汚れ係数を大きく取ることではなく流速を確保することです。
汚れ係数とは
伝熱面に付着物の層ができると、そこが新たな熱抵抗になります。この熱抵抗を汚れ係数 r で表します。単位は m2・K/W。熱伝達率の逆数と同じ次元です。
$$U=\frac{1}{(1/h_h)+r_h+(δ/λ)+r_c+(1/h_c)}・・・①$$
rh、rc:高温側・低温側の汚れ係数[m2・K/W]
清浄時の U と設計 U
汚れをゼロとしたときの値を清浄時の総括伝熱係数 Uc、汚れを含んだ値を設計 U(あるいは汚れ時の U)と呼びます。
熱交換器は「汚れた状態で必要性能を満たす」ように設計します。したがって、必要伝熱面積の計算には設計 U を使います。
新品のうちは Uc に近い性能が出るので、能力に余裕があります。運転を続けて汚れが設計値まで成長したとき、ちょうど所定の性能になる。これが設計の考え方です。
汚れの種類
汚れは1種類ではありません。機構が違えば対策も変わります。
| 種類 | 内容 | 典型例 |
|---|---|---|
| 析出汚れ(スケール) | 溶解度を超えた成分が伝熱面で析出 | 炭酸カルシウム、硫酸カルシウム |
| 粒子汚れ | 懸濁している固形分が沈着 | 泥、砂、錆、触媒粉 |
| 化学反応汚れ | 伝熱面上で重合・分解が起き固着 | コーキング、ポリマー生成 |
| 腐食汚れ | 腐食生成物そのものが層になる | 酸化鉄、硫化物 |
| 生物汚れ | 微生物やその代謝物が繁殖 | スライム、貝類 |
| 凝固汚れ | 流体の一部が冷えて固化 | ワックス分、高融点成分 |
温度による違いが重要
析出汚れと化学反応汚れは、伝熱面温度が高いほど激しくなります。
炭酸カルシウムは逆溶解度性を持つため、温度が上がるほど溶解度が下がって析出します。冷却水を加熱する側(=伝熱面が熱い側)でスケールが付きやすいのはこのためです。
化学反応汚れも同様で、壁面温度が閾値を超えると急激に進みます。高粘度の有機液を加熱するとき、蒸気温度を下げてでも壁温を抑えたほうが結果的に長持ちする、という判断が出てくるのはこの理由です。
汚れ係数の目安
TEMA(米国管式熱交換器工業会)や各種ハンドブックに推奨値が載っています。代表的なものを挙げます。
| 流体 | 汚れ係数 r[m2・K/W] |
|---|---|
| 水蒸気(油分なし) | 0.00009 |
| 海水(50℃以下) | 0.00009 〜 0.00018 |
| 処理済み冷却水(循環) | 0.00018 〜 0.00035 |
| 河川水・工業用水 | 0.0002 〜 0.0006 |
| 有機液体(清浄) | 0.00018 〜 0.00035 |
| 有機蒸気(清浄) | 0.00009 〜 0.00018 |
| 重質油・残油 | 0.0005 〜 0.001 |
| 高粘度油・タール分を含む液 | 0.0009 〜 0.002 |
汚れ係数の影響を数字で見る
汚れ係数の重みは、他の熱抵抗との相対関係で決まります。同じ汚れ係数でも、機器によって影響がまったく違います。
ケース1:U が大きい機器(水 ─ 水)
清浄時 Uc = 1,500 W/(m2・K) の水 ─ 水熱交換器に、両側 0.00035 の汚れ係数を入れます。
$$\frac{1}{U}=\frac{1}{1500}+0.00035×2=6.67×10^{-4}+7.00×10^{-4}=1.367×10^{-3}$$
$$U=732\ W/(m^2・K)$$
1,500 → 732。性能が51%落ちます。必要面積は2倍になります。
ケース2:U が小さい機器(水 ─ ガス)
清浄時 Uc = 50 W/(m2・K) のガス冷却器に、同じ汚れ係数を入れます。
$$\frac{1}{U}=\frac{1}{50}+7.00×10^{-4}=2.00×10^{-2}+7.00×10^{-4}=2.07×10^{-2}$$
$$U=48.3\ W/(m^2・K)$$
50 → 48.3。わずか3%の低下です。
何を意味するか
U が大きい機器ほど、汚れの影響が致命的になります。
U が大きいということは、もともとの熱抵抗が小さいということです。そこに汚れの抵抗が加われば、相対的に大きな比率を占めます。
高性能なプレート式熱交換器(U が大きい)が汚れに弱いと言われるのは、この理屈です。流路が狭くて詰まりやすいという構造的な理由もありますが、それ以前に「U が大きい機器は汚れの影響を受けやすい」という原理があります。
逆に、空冷式熱交換器のようにガス側が律速している機器では、多少の汚れは性能にほとんど影響しません。
過大な汚れ係数がもたらす悪循環
ここが実務で最も重要な論点です。「安全側だから」と汚れ係数を大きめに取ると、次のことが起きます。
1. 必要伝熱面積が増える
2. 機器が大きくなる(チューブ本数が増える、シェル径が大きくなる)
3. 同じ流量に対して流路断面積が増えるので、流速が下がる
4. 流速が下がると、付着物が流されずに堆積しやすくなる
5. 本当に汚れる
汚れ係数は予測値である
この悪循環を避けるには、汚れ係数を「安全率」ではなく「予測値」として扱う必要があります。
安全率なら、大きく取るほど安全です。しかし予測値なら、大きすぎることは外れているということです。
汚れ係数に込めるべき問いは「どれくらい余裕を見ようか」ではなく、「次の定修までにどれだけ汚れるか」です。
実績から汚れ係数を逆算する
運転中の熱交換器から、実際の汚れ係数を求めることができます。ユーザー側にしかできない、最も価値のある作業です。
手順
1. 運転データ(両流体の入口・出口温度、流量)から実測の熱負荷 Q を計算する
2. 温度から ΔTlm と F を計算し、ΔTm を出す
3. 実測 U を求める
4. 清浄時の Uc(設計値、または洗浄直後の実測値)と比較して汚れ抵抗を出す
$$U_{実測}=\frac{Q}{AΔT_m} r_{合計}=\frac{1}{U_{実測}}−\frac{1}{U_c}・・・②$$
運転時間に対してプロットする
これを定期的に行い、洗浄からの経過時間に対してプロットします。
多くの場合、汚れ抵抗は初期に急速に立ち上がり、その後ゆるやかに増加する(漸近型)か、直線的に増え続けます。
このカーブが得られれば、次の設計で使うべき汚れ係数が根拠を持って決まります。「次の定修まで2年運転するなら、r = 0.0004 まで見ておけばよい」という判断ができるわけです。同時に、洗浄すべき時期も見えてきます。
汚れを減らす実務的な手段
汚れ係数を大きく取ることは、汚れ対策ではありません。汚れることを前提に面積を積むだけです。本当の対策は別にあります。
① 流速を確保する
最も効果的です。付着物は流体のせん断力で剥ぎ取られるため、流速が高いほど汚れにくくなります。
冷却水をチューブ側に流す場合、1 m/s を下回らないようにするのが一般的な目安です。1.5 m/s 以上あればさらに安心です。
ただし上限もあります。流速が高すぎるとエロージョン(壊食)が起きます。材質によって許容流速が違い、銅合金は2 m/s 程度、ステンレス鋼は3〜4 m/s 程度が目安です。
② 汚れやすい流体をチューブ側に流す
チューブ側は流路が単純で、機械的清掃(ブラシや高圧水)ができます。シェル側は管束の外側なので、機械清掃が困難です。
汚れやすい流体はチューブ側に割り付けるのが原則です。
③ 壁面温度を管理する
析出汚れや化学反応汚れは壁面温度に強く依存します。加熱側の温度を下げる(高圧蒸気ではなく低圧蒸気を使う、など)ことで、汚れの進行を大幅に遅らせられる場合があります。
伝熱量が同じでも、大きな温度差で急速に加熱するより、小さな温度差で穏やかに加熱するほうが汚れにくい、ということです。
④ 清掃できる構造を選ぶ
汚れが避けられないなら、清掃しやすさで選びます。
U字管式は曲がり部の機械清掃ができません。汚れる流体をチューブ側に流すなら、直管の固定管板式か遊動頭式を選ぶ必要があります。
まとめ
・汚れ係数は熱抵抗[m2・K/W]として U の分母に足します。面積に余裕率を掛けるのとは意味が違います。
・汚れの種類によって機構が違います。析出汚れと化学反応汚れは壁面温度に強く依存します。
・U が大きい機器ほど汚れの影響が大きい。水 ─ 水では性能が半減することもあります。
・過大な汚れ係数は機器を大きくし、流速を下げ、かえって汚れを招きます。
・汚れ係数は「安全率」ではなく「予測値」。運転実績から逆算した値が最も信頼できます。
・本当の汚れ対策は、流速の確保、流体の割り付け、壁面温度の管理、清掃できる構造の選択です。
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