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常温で据え付けた配管は、運転温度まで上がると伸びます。数十メートルの炭素鋼配管では、その伸びが数十ミリメートルになることも珍しくありません。伸びを無視すると、配管そのものだけでなく、ポンプや熱交換器のノズル、フランジ、サポートへ大きな力を伝えます。
この記事では、熱膨張量の基本式から、簡易計算、完全拘束時の熱応力、ループやオフセットで伸びを逃がす考え方までを説明します。計算値の意味と、配管応力解析へ進む境界を理解することが目的です。
1. 自由に伸びる量は ΔL=α・ΔT・L で求める
長さLの配管が温度差ΔTだけ変化するとき、拘束がなければ軸方向の伸びΔLは次式で求められます。
ΔL = α × ΔT × L

- ΔL:熱膨張による長さの変化
- α:材料の線膨張係数
- ΔT:基準温度と運転温度の差
- L:基準となる配管長さ
単位をそろえることが重要です。αを1/K、ΔTをKまたは℃の温度差、Lをmmで入れれば、ΔLはmmで得られます。温度差については1 Kと1℃の大きさは同じです。
『プラント配管の原理としくみ』は炭素鋼鋼管の例として、線膨張率α=11.8×10⁻⁶/Kを示しています。これは基本式を理解するための代表値です。実務では、材料と温度範囲に対応した規格・設計基準の平均線膨張係数または熱膨張量データを使います。係数は材料だけでなく温度範囲でも変わるため、常に11.8×10⁻⁶/Kを使うわけではありません。
計算例:長さ30m、温度差180℃の炭素鋼配管
代表値α=11.8×10⁻⁶/Kで概算すると、
ΔL = 11.8×10⁻⁶ × 180 × 30,000 = 63.72 mm
約64mmです。図面上の30mは大きく見えなくても、両端の位置関係としては6cm以上変わろうとします。この量が、サポートのスライド量、ハンガの移動量、機器ノズルへ与える変位の出発点です。

冷却配管ではΔTが負となり、配管は収縮します。設計では、最高温度だけでなく最低温度、起動停止、スチームアウトなど、成立し得る温度ケースを洗い出します。
2. 両端を固定すると「伸び」が「応力」に変わる
配管が自由に伸びられれば、基本式で求めたΔLだけ端部が移動します。ところが両端を剛に固定した直管では、その伸びを外部変位として出せません。弾性範囲の単純化した棒モデルでは、完全拘束時の熱応力σは次式になります。
σ = E・α・ΔT

Eはヤング率です。『プラント配管の原理としくみ』は、炭素鋼の例としてE=2×10⁵MPa、α=11.8×10⁻⁶/Kを用い、σ=2.36ΔT MPaと示しています。温度差100℃なら236MPaという大きな値になります。
ただし、この式を実配管へそのまま当てはめて「発生応力は必ずこの値」と判断してはいけません。実配管はエルボ、分岐、オフセットでたわみ、支持部にもすき間や摩擦があり、局部的な降伏による応力再配分も起きます。完全拘束直管の式は、伸びを逃がせないと非常に大きな力になることを示す基礎モデルです。
配管の熱膨張応力は、内圧や重量による一次応力とは性質が異なる変位応力です。起動・停止で温度が往復するため、評価では応力の最大値だけでなく応力範囲と繰返し回数が重要になります。
3. 伸び方向と直角に配管を振り、たわみで吸収する
熱膨張量をゼロにするのではなく、配管をたわませて無理なく受け入れるのがフレキシビリティ設計です。『プラント配管の原理としくみ』は「熱膨張量を逃がすには、伸び方向と直角方向に配管ルートを振る」と説明しています。

直線配管の途中にオフセットやUループを設けると、軸方向の伸びをエルボ間の脚の曲げ変形へ変換できます。一般に、直角方向へ振った脚が長いほどたわみやすく、熱膨張応力と端部反力を小さくしやすくなります。ただし、長く柔らかくすれば常に良いわけではありません。重量、風、地震、振動に対する剛性、ドレン性、施工性、スペースとのバランスが必要です。
サポート条件も同じくらい重要です。アンカーは基準点を固定し、ガイドは配管を所定方向へ動かし、ストッパは特定方向の移動を止めます。ループ形状だけを描いても、サポートが熱移動を妨げれば狙ったとおりに変形しません。
伸縮継手を使えば解決するのか
ベローズ形伸縮継手などで変位を吸収する方法もありますが、内圧推力、アンカー荷重、ガイド配置、疲労寿命、腐食、異物堆積を含む専用設計が必要です。「ループが置けないから伸縮継手を1個入れる」という単純な置き換えではありません。まず配管ルートの柔軟性で処理できるかを検討し、採用時はメーカー仕様と適用規格に従います。
4. 概算から配管応力解析へ進む判断
熱膨張量の計算は、応力解析そのものではありません。ΔLは「どれだけ動こうとするか」を示し、応力解析は「配管がどこへたわみ、どこに応力と反力が生じるか」を求めます。
次のような系統は、簡易式だけで終えず、適用規格と社内基準に基づいて配管応力解析の要否を判断します。
- 高温または低温で温度差が大きい
- 大口径、厚肉、短い曲がり脚など、配管がたわみにくい
- ポンプ、圧縮機、タービン、熱交換器など、ノズル許容荷重が厳しい機器へ接続する
- 異なる温度の運転ケース、スチームアウト、デコーキングなど複数の温度モードがある
- ラック配管から機器へ分岐し、アンカー・ガイド・摩擦の影響が大きい
- 伸縮継手、ばね支持、コンスタントハンガを用いる
- 材料や管径が変わる、ライニング管・非金属管など温度特性が大きく異なる
解析モデルでは、運転温度、据付温度、材料物性、管径・肉厚、エルボや分岐の特性、機器ノズル、支持点の拘束方向、摩擦、すき間を設定します。結果として得るのは、配管の変位、応力範囲、支持荷重、機器ノズル反力などです。
手計算で確認しておくべきこと
解析を行う場合でも、総熱膨張量は手計算しておきます。長さ30m、温度差180℃で数ミリしか動いていない解析結果なら、単位や温度設定、アンカー位置を疑うべきです。簡易計算は詳細解析の代わりではなく、入力と結果を検算する物差しになります。
まとめ
配管の自由熱膨張量はΔL=αΔTLで求められます。温度差と直線距離が大きいほど伸び、材料によっても量は変わります。伸びを完全に拘束すると大きな熱応力が生じるため、実配管ではオフセットやループのたわみ、適切なサポート配置で変位を逃がします。
最初に総熱膨張量を手計算し、その変位をどの脚で吸収するか、機器や支持部へどの程度の力が伝わるかを考える。この順序が熱膨張設計の基本です。
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