日本酸素ホールディングスは、空気から作った気体を売る会社です。酸素、窒素、アルゴン、そして半導体を作るための特殊ガス。会社概要には「産業ガス・電子材料ガス・医療用ガスの世界第4位」と書かれています。
決算を開くと、セグメントの切り方が他社とまったく違います。製品別ではなく、日本・米国・欧州・アジアオセアニア・サーモスという地域別。理由は単純で、ガスは遠くへ運べないからです。
私は化学メーカーの生産技術者として12年働いています。この記事では決算短信と募集要項だけをもとに、「何で稼ぎ、どこで働くのか」を整理します。難易度や口コミは扱いません。
化学業界そのものが曖昧な人は先に「化学業界とは」(→化学業界とは)へ。29社の比較は→化学メーカー大手29社の違いへ。
一言でいうと|産業ガス世界4位の会社
日本酸素ホールディングスは1910年(明治43年)設立。長く「大陽日酸」という社名で知られ、いまは持株会社が日本酸素ホールディングス、事業会社が日本酸素株式会社という体制です。
三菱ケミカルグループ(→三菱ケミカルGの企業研究)の連結子会社でもあります。三菱ケミカルGの企業研究の記事で「産業ガスがコア営業利益の9割」と書きましたが、その産業ガス事業がこの会社です。
| 項目 | 数字(出典・基準日) |
|---|---|
| 売上収益 | 1兆3,596億円(2026年3月期。前期比+3.9%) |
| コア営業利益 | 2,031億円(同。前期比+7.4%) |
| 営業利益 | 1,979億円(同。前期比+19.3%) |
| 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 1,239億円(同。前期比+25.4%) |
| 売上収益コア営業利益率 | 14.9% |
| 資本金 | 373億円 |
| 連結従業員数 | 20,411名(2026年3月31日現在) |
| 本社 | 東京都品川区小山 |
| 設立 | 1910年10月30日 |
就活生が押さえるべき性格は3つです。
- コア営業利益率14.9%は29社の上位。信越化学(24.7%)・日産化学(22.7%)・日油(18.4%)・日東電工(17.9%)に次ぐ5番目です(→化学メーカー大手29社の違い)
- セグメントが地域別:製品別ではありません。理由は次の章で説明します
- サーモス(魔法瓶)を持っている:真空断熱の技術を使った家庭用品ブランドで、120か国以上に供給しています。売上333億円・利益65億円と小さいですが、化学メーカーの中でBtoCブランドを持つ珍しい例です
事業の中身|5セグメントを売上と利益で見る

| セグメント | 売上収益 | コア営業利益 | 利益率 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 4,063億円 | 542億円 | 12.7% |
| 米国 | 3,606億円 | 529億円 | 13.9% |
| 欧州 | 3,510億円 | 704億円 | 20.0% |
| アジア・オセアニア | 2,085億円 | 197億円 | 9.3% |
| サーモス | 333億円 | 65億円 | 19.6% |
| 合計(全社費用など▲7億円の調整を含む) | 1兆3,596億円 | コア営業利益2,031億円 | 14.9% |
※ 出典:2026年3月期 決算短信。売上は外部顧客への売上収益。利益率はセグメント間を含む売上に対する比率。
読み方のポイント:
- 利益トップは欧州の704億円。売上では日本より小さいのに、利益は日本の1.3倍。利益率20.0%は5セグメントで最も高い
- 日本は売上トップだが利益率12.7%。国内は競争が激しく、電力コストの影響も大きい事業です
- アジア・オセアニアが利益率9.3%と最も低い。ただし売上は前期1,765億円から2,085億円へ18%伸びており、投資の段階にあると読めます
- サーモスの利益率19.6%は欧州に次ぐ高さ。売上規模は小さいものの、ブランドを持つ事業の強さが出ています
なぜ地域でセグメントを切るのか

産業ガスの事業構造は、化学メーカーの中でも独特です。
1. 原料は空気
酸素・窒素・アルゴンは、空気を冷やして液体にし、沸点の違いで分けて作ります。これを深冷分離(ASU:Air Separation Unit)といいます。原料はどこにでもある空気なので、原料コストの地域差はほとんどありません。
2. でも、作ったガスは遠くへ運べない
気体のままでは体積が大きく、液体にするには冷やし続ける必要があります。運ぶコストが製品価格に対して高い。だから工場は「お客さんの近く」に建てます。
3. 供給の形は3つ
| 形態 | 運び方 | 相手 |
|---|---|---|
| パイプライン | 工場から直接つなぐ | 製鉄所、化学工場などの大口 |
| ローリー | 液体にしてタンクで運ぶ | 中規模の工場 |
| ボンベ(シリンダー) | 圧縮して容器で届ける | 小口・研究室・医療機関 |
この構造の結果、事業は地域ごとに独立します。 日本の顧客に欧州の工場から届けることはできない。だから日本酸素HDのセグメントは、製品別ではなく日本・米国・欧州・アジアオセアニアという地域別になっているのです。
化学業界の川(→化学業界とは)で言えば、産業ガスはすべての産業の川上にいます。製鉄、化学、半導体、食品、医療——ガスを使わない製造業はほとんどありません。景気の影響を受けにくく、契約が長期になりやすいのはこのためです。
工場と拠点|どこで働くか

| 主要拠点 | 所在地 |
|---|---|
| 本社 | 東京都品川区 |
| 京浜事業所 | 神奈川県川崎市川崎区 |
| 川崎水江事業所 | 神奈川県川崎市川崎区 |
| つくば事業所 | 茨城県つくば市 |
| 山梨事業所 | 山梨県北杜市 |
| みなとみらい事業所 | 横浜市西区 |
| SIイノベーションセンター | 東京都多摩市 |
| 横浜ラボ | 横浜市鶴見区 |
| メディカル・テクニカル・サービスセンター | 千葉県千葉市稲毛区 |
| 東北支社・北東北支店・郡山支店ほか | 仙台、岩手、福島 ほか |
| ガスセンター(地域へのガス供給拠点) | 岩手・福島など全国 |
現役として補足すると、この会社の拠点は「主要事業所は首都圏、供給拠点は全国」という二層構造です。
- 研究・エンジニアリングの中心はつくば・川崎・多摩(首都圏)
- 一方、ガスセンターが全国の工業地帯に細かく置かれています。ガスを地元に届けるための拠点です
募集要項の勤務地は「全国各地の事業所および海外」。ガスセンターや支店を含めると、行き先はかなり広い。転勤の幅は大きい会社だと理解しておいてください(→化学メーカーの選び方)。
職種・初任給|募集要項を読む
※ 採用は事業会社の日本酸素株式会社(旧・大陽日酸)で行われています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 技術系総合職 | 研究開発、プラントエンジニアリング、フィールドエンジニアリング、生産管理 |
| 事務系総合職 | 営業、生産物流、管理 |
| 技能職 | プラント装置製作、ガス生産管理(工業高校卒対象) |
| 初任給 | 修士了 303,000円/大卒 288,000円/高専卒 260,000円/工業高校卒 253,700円(職種によって交代勤務手当を別途支給) |
| 平均年間給与(有報・単体) | 10,641,000円(持株会社の本体108名の平均。事業会社の給与ではない) |
| 賞与 | 年2回(6月・12月)/昇給 年1回(7月) |
| 勤務時間 | 9:00〜17:40 |
| 休日 | 年間休日124日(2025年)、有給休暇(初年度12日、2年目以降20日) |
| 勤務地 | 全国各地の事業所および海外 |
| 採用実績 | 2023年47名/2024年54名/2025年56名(技術系33・事務系23) |
| 中途採用比率 | 43.4%(2023年度) |
※ 平均年間給与は有価証券報告書(2026年06月15日提出、EDINET S100YB9P)の「従業員の状況」による。持株会社本体の従業員の平均で、賞与・基準外賃金を含む。工場・研究所で働く事業会社の社員の平均ではない。新卒の初任給とは別の数字。29社の並びは→化学メーカー29社の平均年収ランキングへ。
読み方:
- 「フィールドエンジニアリング」という職種があるのは産業ガスならでは。顧客の工場に設置した設備の保守・改善を行う仕事です。工場の中に入っていく技術者という働き方になります(→生産技術エンジニアの仕事内容)
- 中途採用比率が43.4%。新卒だけで固める会社ではありません。転職を考える人にも入口があります(→転職エージェントおすすめ5選)
- 初任給は修士了303,000円。全産業平均(大学卒26.2万円、→化学メーカーの初任給と年収カーブ)を大きく上回り、29社の中では中位です(→化学メーカーの初任給の読み方)
- 年間休日124日は多いほうです
公開資料の読み方|この会社を自分で追いかけるには
| 資料 | 見るところ |
|---|---|
| 決算短信・決算説明資料(IR) | 地域別の利益率。欧州が高く、アジアが低い理由が説明されています |
| 中期経営計画(IR) | どの地域に投資するか。電子材料ガス(半導体向け)をどこまで伸ばすか |
| 三菱ケミカルグループのIR(→三菱ケミカルGの企業研究) | 親会社側から見た産業ガス事業の位置づけも読めます |
面接では「セグメントが地域別なのは、ガスが遠くへ運べないからですね」と言えると、事業の構造を理解していることが伝わります(→化学メーカーの面接で聞かれること)。
どんな人に向くか
- 装置とプロセスに関心がある人:深冷分離装置(ASU)は大型のプラントです。設計・建設・保守のすべてに技術者の仕事があります(→生産技術エンジニアの仕事内容)
- 顧客の現場に入りたい人:フィールドエンジニアリングは、お客さんの工場で働く仕事です。ものづくりの現場を横断的に見られます
- 海外で働きたい人:売上の7割が海外。日本・米国・欧州・アジアに事業会社があります
志望動機の③会社の層(→化学メーカーの志望動機の書き方)では、「空気を原料に、あらゆる産業の川上を支える会社」という理解を軸に語ると通りやすくなります。
この記事の使い方と注意
- 数字は2026年3月期決算と、執筆時点の募集要項に基づきます(最終更新:2026年8月)
- この会社はIFRSで「コア営業利益」を主指標にしています。営業利益から非経常的な損益を除いたものです
- 持株会社が日本酸素ホールディングス、事業会社が日本酸素株式会社です。採用は事業会社で行われます
- 三菱ケミカルグループの連結子会社です。あわせて→三菱ケミカルGの企業研究も読むと、親会社側の見え方が分かります
- 就職難易度・採用大学・口コミは扱いません。決算短信・有価証券報告書・募集要項と現場の感覚だけを書いています
日本酸素ホールディングスは1910年設立、産業ガス世界4位の会社です。売上1兆3,596億円、コア営業利益率14.9%。ガスは遠くへ運べないため、セグメントは製品別ではなく日本・米国・欧州・アジアの地域別。利益トップは欧州の704億円です。サーモスも持っています。29社の比較は化学メーカー大手29社の違いへ。
PLANT NEWS ON NOTE
化学プラントニュース
化学・石油プラントの重要ニュースを、毎週の週報と事故速報でお届けします。現場で押さえたい動きを、わかりやすく整理します。
noteで最新ニュースを読む ↗
化学プラント大全 
