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重合反応器|わざと混ぜない装置が、分子量分布をつくる

わざと混ぜない装置

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重合反応器の設計図を見ると、奇妙なことに気づきます。やたらと「混ざらないようにする」工夫が多い。

撹拌翼はわざと軸方向に混ぜないよう作られ、塔は下ほど高温にして対流を止め、原料はあえて粘くしてから入れる。

理由は1つです。分子量分布を狭くするため。

この記事は反応器シリーズ「その他の不均一系と特殊反応器」の1本です。全体像は反応器と反応工学の全体像にまとめています。

この記事の結論

  • ポリマーの品質は分子量分布で決まる。装置がそれを作る
  • 分布を決めているのは温度分布と滞留時間分布の2つ
  • だから重合反応器の工夫は、ほぼ全部軸方向に混ぜないことに向いている
  • 邪魔をするのが粘度。進むほど撹拌も伝熱も効かなくなる

1. 分子量分布とは何を測っているのか

これまで扱ってきた反応では、生成物は1種類の分子でした。重合は違います。

できあがるのは「分子量の違う分子の集まり」です。同じポリスチレンでも、短い鎖と長い鎖が混ざっている。その混ざり具合が分子量分布で、これが物性を決めます。

分布が狭い強度が出る、加工が安定する。高品質
分布が広い低分子量分がべたつき・強度低下の原因になる

では分布を決めているのは何か。「分子ごとに、どんな条件でどれだけ育ったか」です。

  • 温度が違えば、できる鎖の長さが違う
  • 滞留時間が違えば、育つ時間が違う

装置の中に温度のばらつきと滞留時間のばらつきがある分だけ、分子量が散る。ここが重合反応器の設計のすべてです。

2. 実機は何をしているか|スチレンの塊状重合

塔式重合器はなぜ低部ほど高温か

便覧に載っているI.G.社のプロセスを見ると、設計思想がはっきり読めます。装置は撹拌式の予備重合器塔式重合器の2段構成です。

予備重合器80℃、窒素雰囲気、水循環パイプコイルとパドル翼
平均滞在時間64時間、ポリマー濃度33〜35%で抜き出す
塔式重合器温度を6段に制御し、低部になるほど高温(100〜110℃ → 150℃ → 180℃ → 200℃)
平均滞在時間 約60時間

まず滞留時間の桁に驚いてください。64時間と60時間。これまで見てきた反応器は秒から分の世界でした。重合は「日」で数える反応です。

そのうえで、塔式重合器の狙いが明記されています——塔内の流れ状態をピストンフローに近づけ、反応器効率を向上させようとする点にある。

混ぜないための3つの手

そのために打たれている手が3つ、すべて理由付きで書かれています。

1. 低部ほど高温にする重合が進むと比重が増加する。低部に向けて流動させることで対流を抑制
2. 塔内に伝熱コイルを置く温度差による粘度変化に基づくバイパス流れを抑制する
3. 粘度を上げてから入れる予備重合器で重合させておくのは、温度分布による塔内での対流を防止するため

3つとも「軸方向に混ざるのを止める」ためのものです。文献はこう念を押しています——特に高重合率まで反応させるためには反応器の流れ方向での混合を抑制することが重要である。

混合拡散モデルの記事で、混ざり方だけで反応率が20ポイント変わることを見ました。重合では、それが反応率ではなく製品の品質に効きます。

別の会社も同じことをしている

American Cyanamid社のスクリュー型でも、発想はまったく同じです。予備重合器には円周方向の混合のみを促進し、軸方向の混合を起さないような撹拌翼が付いている。

「混ぜるが、流れ方向には混ぜない」——撹拌翼にここまで限定した役割を与えるのは、他の反応器では見ない設計です。

そして結果もこう書かれています——重合が低温で狭い温度範囲下にあるため、高分子量で分子量分布の狭い高品質のポリマーが得られる。

「狭い温度範囲」と「軸方向に混ぜない」が、そのまま「分布の狭い高品質」に対応している。設計と品質が1行でつながっています。

3. 温度を上げたいが、上げると質が落ちる

塔式重合器が下ほど高温なのには、もう1つ理由があります。最後まで反応させたいからです。

最終重合率を98%以上にするため、反応温度は200℃まで上げられます。ところが——高温では低分子量のポリマーが生成する。

だから対処が入ります。平均分子量調節のために入口の温度を低く抑えている。

構図を整理するとこうです。

入口側(低温)ここで分子量が決まる。だから低く抑える
出口側(高温)残りを反応させ切る。ここで多少低分子量が出ても量が少ない

温度プロファイルを意図的に付けているという意味では、発熱可逆反応の多段+段間冷却と同じ発想です。ただし狙いが違う。あちらは平衡のため、こちらは分子量のためです。

4. 最大の敵は粘度

重合反応器を難しくしているのは、反応が進むと液が粘くなることです。

これは他の反応には無い性質です。量論の記事で「多くの液相反応は定容系として扱えるが、例外は液相重合」と書いたのはこのためでした。密度も粘度も、反応の進行とともに大きく変わります。

粘度が上がると何が起きるか。

  • 撹拌レイノルズ数が下がり、乱流域から外れる。動力数が一定という前提が崩れる
  • 伝熱係数が落ち、除熱が効かなくなる
  • 撹拌が届かない場所ができ、死容積が生まれる

反応が進むほど、装置の能力が落ちていく。反応暴走の統計で重合が36%と突出していたのは、これが理由です。発熱は大きく、しかも進むほど冷やせなくなる。

粘度が操作範囲を決めている

粘度の制約は、数字にはっきり出ています。

溶液重合法反応液粘度の増加のためポリマー濃度7〜8%が操作の限界
塊状重合法30〜35%まで上げられる

4倍以上の差です。薄めれば扱いやすいが、薄めた分だけ後で溶媒を回収しなければならない。塊状重合が採られるのは、この分離の負担を避けるためです。

5. 除熱をどうするか

粘度が上がって伝熱が効かなくなる系で、どう冷やすか。エチレン-プロピレンゴムの塊状重合が、うまい答えを出しています。

Ziegler/Natta系触媒を使い、反応温度は−20〜20℃。そして——反応熱は反応系からのモノマーの蒸発で除去される。

還流冷却そのものです。潜熱で運ぶので伝熱面に頼らず、しかも温度が沸点に固定される。粘度で伝熱が落ちても効き続ける除熱です。

加えてこの系では反応液がスラリー状で、粘度は液化プロピレンとほぼ等しく、低粘性で操作がきわめて容易とされています。ポリマーを溶かさないことで粘度問題そのものを回避している。

重合反応器の設計は、結局「粘くなる液をどう扱うか」の工夫の集積だと言えます。溶かさない、薄める、粘くしてから入れる、潜熱で冷やす——どれも同じ問題への別の答えです。

まとめ

重合ではできあがるのが分子の集まりなので、品質は分子量分布で決まります。分布を散らすのは温度のばらつきと滞留時間のばらつきで、だから重合反応器の工夫はほぼ全部「軸方向に混ぜないこと」に向いています。実機では、低部ほど高温にして対流を抑え、伝熱コイルでバイパス流れを抑え、あえて粘度を上げてから塔に入れる。撹拌翼まで「円周方向だけ混ぜ、軸方向には混ぜない」ものが使われます。滞留時間は60時間を超え、普通の反応器と桁が違います。最後まで反応させるには高温が要りますが高温では低分子量が生成するため、入口を低温に抑えて分子量を決め、出口で反応させ切る。そして最大の敵は粘度で、進むほど撹拌も伝熱も効かなくなります。溶かさない・薄める・潜熱で冷やすといった手は、すべてこの一つの問題への答えです。

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参考文献

  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第28章「重合反応」(I.G.社の塊状重合プロセス、American Cyanamid社のスクリュー型重合装置、エチレン-プロピレンゴムの塊状重合) 最新版をAmazonで見る
  • 西久保忠臣『ベーシックマスター 高分子化学』オーム社(連鎖重合・逐次重合、分子量分布) Amazonで見る
  • 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第8章「流通反応器の流体混合」 Amazonで見る