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同じ反応を、同じ反応率まで進めたい。CSTRとPFR、どちらが小さく済むか。
答えはほとんどの場合PFRですが、大事なのは「どれくらい違うか」と「例外はどこか」です。1次反応・反応率90%で約3.9倍、2次反応ならちょうど10倍の差がつきます。
この記事の結論
- 縦軸 CA0/(−rA)・横軸 xA の面積で読むと、PFR=曲線の下、CSTR=長方形
- 反応率が上がるほど、次数が高いほどCSTRの不利が効く
- 2次反応の体積比はちょうど 1/(1−xA)
- ただし自触媒反応では逆転しうる。速度が極大を持つ系がその例外
1. 面積で比べる|1枚の図で決着する

前の記事で出した2つの設計方程式を並べます。
PFR:τp = ∫0xAf {CA0/(−rA)} dxA
CSTR:τm = {CA0/(−rA)}出口 × xAf
ここで縦軸に CA0/(−rA)、横軸に xA をとったグラフを描いてみてください。すると2つの式が、どちらも面積として読めます。
| 反応器 | グラフ上での意味 |
| PFR(と回分) | 曲線の下の面積。0から xAf まで積分する |
| CSTR | 出口の高さ × xAf の長方形 |
反応が進むほど濃度が下がって反応速度が落ちる——つまり CA0/(−rA) は右上がりの曲線になります。このとき、出口の高さで長方形を作れば、曲線の下の面積より必ず大きくなる。
これがCSTRのほうが大きくなる理由です。式をこねる必要はなく、グラフの形だけで説明がつきます。
物理的に言い直すとこうです。CSTRは入れた瞬間に出口濃度まで薄まるので、器内はずっと「いちばん反応が遅い状態」。PFRは入口の濃い状態から徐々に薄まっていくので、途中まで速い速度で反応できる。その差が体積の差になっています。
2. 数字で見る|どれくらい違うのか

1次反応と2次反応について、同じ反応率に必要な空間時間の比を計算しました。
| 反応率 xA | 1次反応 | 2次反応 |
| 0.50 | 1.44倍 | 2.00倍 |
| 0.80 | 2.49倍 | 5.00倍 |
| 0.90 | 3.91倍 | 10.0倍 |
| 0.95 | 6.34倍 | 20.0倍 |
| 0.99 | 21.5倍 | 100倍 |
※ CSTR ÷ PFR の比。速度定数も初濃度も約分されて消えるので、この比は反応率と次数だけで決まります。
読み取れることが3つあります。
- 反応率が上がるほど差が開く。50%なら1.4倍で済むが、99%だと21倍
- 次数が高いほど差が開く。濃度依存性が強いぶん、薄まる不利が効く
- 2次反応の比はちょうど 1/(1−xA)。覚えやすい。xA=0.9 なら10倍、0.99なら100倍
3つ目はきれいなので、当たりを付けるのに便利です。「高い反応率を狙うならCSTRは選ばない」という判断が、この式1本で正当化できます。
3. それでもCSTRが選ばれる理由

体積で4倍から10倍も不利なのに、CSTRは現実に多く使われています。体積以外の物差しがあるからです。
| CSTRの利点 | 中身 |
| 温度が均一 | 完全混合なのでホットスポットができない。発熱反応で決定的 |
| 除熱しやすい | 撹拌で伝熱係数が稼げる。ジャケット・コイル・外部循環が使える |
| 固体を扱える | スラリーや懸濁系でも詰まらない。管型だと閉塞する |
| 滞留時間が長く取れる | 反応が遅い液相反応に向く。管型だと管が長くなりすぎる |
| 運転が安定 | 入口が振れても薄まって均される(自己平衡性がある) |
とくに発熱反応の温度制御が効きます。PFRは入口付近で反応が速いので、そこに発熱が集中してホットスポットができる。CSTRなら発熱が器内に均される。
つまり選定はこうなります。
- 気相・触媒・高い反応率 → PFR(固定層)
- 液相・発熱・固体を含む・反応が遅い → CSTR
体積の差は、温度制御性を買うための代金だと考えると腑に落ちます。
4. 例外|自触媒反応では逆転する
ここまでの話には前提がありました。文献の図にもはっきり但し書きが付いています。
「反応速度が反応率 xA の増大に伴い単調に減少する場合」
裏を返せば、単調に減少しない反応があるということです。文献はこう書いています。
反応速度は反応率の減少関数であるとは限らない。自触媒反応のように極大値をもつ場合も起こりうる。そのような挙動を示す場合の CA0/(−rA) 対 xA の曲線は単調増加関数ではなく、最小値をもつ曲線になる。
自触媒反応とは、生成物が触媒として働く反応です。反応が進んで生成物が増えるほど速くなる。
- 反応の初期:生成物がないので遅い
- 反応の中盤:反応物も生成物もあるので最も速い
- 反応の終盤:反応物が尽きて遅くなる
グラフでいうと CA0/(−rA) がU字型になります。左端(xA=0)で高く、中盤で最小、右端でまた高い。
このとき何が起きるか。PFRは左端の「遅い区間」を必ず通らなければならないので、そこで大きな面積を食います。一方CSTRはいきなり中盤の速い状態にできる——入れた瞬間に薄まる(=生成物が混ざる)という性質が、ここでは有利に働く。
結果として、低い反応率の範囲では自触媒反応はCSTRのほうが小さくなります。
実務での例は微生物の培養です。菌体が増えるほど基質の消費が速くなるので、典型的な自触媒型。だから発酵槽は槽型が主流で、管型ではありません。
最適解は「CSTRで中盤まで一気に進めて、そのあとPFRで仕上げる」という組み合わせになります。速度曲線の形を見れば、どこで切り替えるべきかも図から読めます。
5. 判断の順序
- 速度式を xA の関数にして、CA0/(−rA) のグラフを描く。まずこれ
- 単調増加なら体積はPFR有利。差は上の表で当たりを付ける
- 最小値を持つなら自触媒型。CSTRを先に置く構成を検討する
- 発熱・固体・遅い反応なら、体積が不利でもCSTRを選ぶ理由になる
- CSTRの体積が気になるなら、槽を直列にするという中間解がある
1番目が肝心です。グラフを1枚描けば、体積比も、例外かどうかも、切り替え点も全部読める。手を動かす価値があります。
まとめ
縦軸 CA0/(−rA)・横軸 xA のグラフで、PFRは曲線の下の面積、CSTRは出口の高さの長方形になります。反応速度が単調に減少する系では長方形のほうが必ず大きく、1次反応・反応率90%で約3.9倍、2次反応ではちょうど 1/(1−xA) 倍の差がつきます。それでもCSTRが選ばれるのは温度の均一性・除熱・固体の扱いやすさゆえで、体積差はその代金です。そして自触媒反応のように速度が極大を持つ系では、この関係が逆転します。
次の記事:空間時間・空間速度・平均滞留時間|混同しやすい3つ
参考文献
- 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第3章 図3・3「反応器の性能の比較」(面積による比較、単調減少の前提、自触媒反応では曲線が最小値をもつこと)、第5章「反応装置の設計と操作」 Amazonで見る
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善 最新版をAmazonで見る
- 小宮山宏『反応工学 反応装置から地球まで』 Amazonで見る
※ 本文中の体積比は、設計方程式だけを使って筆者が計算したものです(1次・2次反応、定容系)。特定の実機のデータではありません。
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