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蒸留塔には上限と下限があります。蒸気が多すぎるとフラッディング、少なすぎるとウィーピング。その間だけが使える領域です。
重要なのは、この幅が設計の時点で決まってしまうことです。建った後で広げることはできません。ターンダウン比という言葉の中身は、この上下限の比のことです。
この記事は蒸留シリーズ「塔の設計判断」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。
この記事の結論
- 上限=フラッディング(液が下りられない)、下限=ウィーピング(液が穴から落ちる)
- どちらもキャパシティファクタの上下限として表せる。同じ物差しの両端
- 充填塔では効率が最高の領域は設計に使ってはいけない(ローディング領域・ハンプ領域)
- この幅がターンダウン比。将来の減産・増産はここで決まる
先に、段で起きていることを絵で押さえます。蒸気が遅すぎても速すぎても段は仕事をしません。

1. 上限|フラッディング

蒸気の上昇速度を上げていくと、あるところで液が下りられなくなります。トレイ塔ならダウンカマー(下降流路)に液が溜まって溢れ、充填塔なら液が充填層に保持されたまま上に押し上げられる。
こうなると塔全体が液で満たされ、差圧が急上昇し、製品組成が崩れます。飛沫同伴も激増して、上の段へ重質分が持ち上げられる。分離という機能そのものが失われる状態です。
フラッディングの限界は前回のとおり、キャパシティファクタ Cs の上限として相関図から読みます。塔径はこの上限から決まるのでした。
2. 下限|ウィーピング
逆に蒸気が少なすぎると、トレイの穴を吹き抜ける力が液の重さに負けて、液が穴から落ちます。これがウィーピング(液漏れ)です。
落ちた液は下の段の液と混ざります。本来その段で接触して濃縮されるはずだった分がショートカットされるので、段効率が落ちる。さらに減ると液がトレイに溜まらなくなり、段として機能しなくなります(ダンピング)。
化学工学便覧は、多孔板トレイの安定操作下限としてウィーピング限界のCF,minを与えています。構造の効き方はこの式の形から読み取れます。
- 開孔比(開口面積÷気液接触面積)が大きいほどCF,minが大きい=穴が多いと漏れやすい
- トレイ上の液頭が高いほど漏れやすい(液の重さが増すため)
ここに設計のジレンマがあります。穴を増やすと圧力損失は下がるが、下限が上がってターンダウンが狭くなる。開孔比はこの綱引きで決まります。
なお運転中にこれらの異常を見分ける方法は、蒸留塔のトレイ異常で扱っています。この記事は「設計時に幅をどう作るか」の側です。
3. 充填塔|効率が最高の領域は使えない
充填塔の設計で、知らないと必ず間違える話があります。効率が最も良い運転領域は、設計に使ってはいけないということです。
蒸気流量を増やしていくと、充填塔のHETPは次のように変化します。
| 領域 | 状態 | 設計で使うか |
| 安定操作領域 | 液は乱流、充填物表面がよくぬれ、物質移動が良い。HETPはほぼ一定 | ◎ ここが設計領域 |
| ハンプ領域 | HETPが「こぶ」状に変化。効率は最高だがフラッディング点に近い。高圧操作でよく見られる | × 使わない |
| ローディング領域 | 液が連続相に変わり始め、フラッディングが発生する領域。効率は最高だが不安定 | × 運転領域に含めない |
| フラッディング領域 | 飛沫同伴が多く効率も低下。運転不可能 | × 論外 |
ハンプ領域とローディング領域は、試運転で「効率が良いから」と踏み込みたくなる場所です。しかしフラッディングのすぐ手前なので、負荷が少し振れただけで崩れます。
設計に使うのは、HETPが平らな安定操作領域だけです。「効率のピークを狙わない」——これが充填塔設計の鉄則です。
下限側では、充填物が十分にぬれる液負荷が必要です。目安として不規則充填物は10〜80 L/(分·m²)、規則充填物は4〜10 L/(分·m²) 程度で良好な効率が得られるとされています。液が少なすぎると表面がぬれず、有効な接触面積が減ります。
4. ターンダウン比|幅は設計で決まる
上限と下限の比がターンダウン比です。「定格の何%まで落として運転できるか」を表します。
ここが実務で効きます。塔は定格でだけ動かすものではありません。
- スタートアップ・シャットダウンでは必ず低負荷を通る
- 減産運転、上流トラブルによる負荷低下
- 季節や市況による生産量の変動
ターンダウンを稼ぎたいなら、形式の選択が効きます。バルブトレイは広い安定操作範囲を持ち、低負荷ではバルブが閉じて漏れを防ぎます(トレイの種類)。充填塔は一般にトレイ塔よりターンダウンが狭めです。
仕様書には定格だけでなく、最低負荷と最高負荷を必ず書いてください。これを伝えないと、定格の1点で最適化された塔が出てきます。仕様書の記事で改めて扱います。
まとめ
蒸留塔の運転範囲は、上をフラッディング、下をウィーピング(充填塔ならぬれ不足)で挟まれています。どちらもキャパシティファクタの上下限として同じ物差しで表せます。充填塔では効率が最高になる領域がフラッディングの直前にあり、そこは設計にも運転にも使いません。そしてこの幅=ターンダウン比は設計時に決まってしまうので、低負荷運転の要求は必ず先に伝えることです。
次の記事:トレイの種類と構造|シーブ・バルブ・バブルキャップ
参考文献
- 大江修造『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2008, 第4章(充填塔の効率HETPと安定操作領域・ハンプ領域・ローディング領域の区分、液負荷の目安) Amazonで見る
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第9章 9・11(ウィーピング限界。原典は Zuiderweg, F. J.: Chem. Eng. Sci., 37(10), 1441 (1982)) 最新版をAmazonで見る
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