動画解説はこちら|YouTube

蒸留塔の塔径の決め方|キャパシティファクタとマージンの取り方

D-17 column-diameter

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

塔の高さは段数で決まります。では太さは何で決まるのか。

答えはフラッディングです。蒸気が速すぎると液が下りられなくなり、塔が液で溢れて性能が崩壊する。その限界速度から逆算したものが塔径になります。

この記事は蒸留シリーズ「塔の設計判断」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。

この記事の結論

  • 塔径はフラッディング速度の何%で運転するかを決めれば出る
  • 物差しはキャパシティファクタ Cs = Us√{ρV/(ρL−ρV)}。密度の違う系を同じ土俵に乗せる
  • Csフローパラメータ (L/V)(ρVL)0.5 の関数として相関図から読む
  • 取るマージンは系による。発泡する吸収塔ではフラッディングの40〜50%以下という設計例もある

1. なぜ密度が効くのか

塔径を決めているのは蒸気の密度

塔の中では、上る蒸気が下りる液を押し上げようとしています。蒸気の押し上げる力が液の重さに勝つと、液は下りられなくなる。これがフラッディングです。

押し上げる力は蒸気の運動量、つまりρVUs2 に比例します。抵抗する側は液と蒸気の密度差 (ρL−ρV)。両者の釣り合いから、限界となる蒸気速度は次の形になります。

Us ∝ √{(ρL−ρV) / ρV}

この比例係数を取り出したものがキャパシティファクタ Cs です。

Cs = Us × √{ρV / (ρL − ρV)} [m/s]

Csにすると系の密度によらず比較できるのが利点です。常圧のベンゼン系も、減圧の重質油も、加圧のガス系も、同じグラフの上で扱えます。設計相関がすべてCsで書かれているのはこのためです。

2. Csはどこから読むか

塔径の計算よりマージンの取り方が効く

限界のCsは、フローパラメータを横軸にした相関図から読みます。

フローパラメータ = (L/V) × (ρV/ρL)0.5

LとVは液と蒸気の質量流量です。この数字は「液が多い塔か、蒸気が多い塔か」を表します。液が多いほど(=フローパラメータが大きいほど)下降流路が混み合うので、許されるCsは小さくなります。

規則充填塔の例では、フローパラメータ0.058のとき250Y(比表面積250 m²/m³級)の線から Cs = 0.1 m/s と読めます。この系の密度が ρL = 680、ρV = 4 kg/m³ なら、

Us = 0.1 × √{(680−4)/4} = 0.1 × 13.0 = 1.3 m/s

つまり空塔速度1.3 m/sでフラッディングする。塔径はこれより低い速度を選んで決めます。

相関図は充填物の種類やトレイ形式ごとに用意されています。密に詰まった充填物ほど許容Csは小さい(125Y > 250Y > 350Y > 500Y)。効率を上げようと細かい充填物を選ぶと、そのぶん塔を太くする必要が出てきます。

3. 何%で運転するか

フラッディング速度が出たら、そこにマージンを取ります。ここが設計者の判断です。

手元の設計例(吸収塔)では、消泡剤の注入頻度、操業の安全性、未知に対するマージンを考えてフラッディング速度の40〜50%以下で塔径を決めています。発泡しやすい系では、これくらい保守的に見ることがあるということです。

系や用途によって取り方は変わります。判断の材料は次のとおりです。

  • 発泡性:泡立つ系は実効的な流路が塞がるので大きく余裕を取る
  • 負荷の振れ幅:原料量や還流比が動く運転なら、上振れ時にフラッディングしない側に振る
  • 将来の増産:塔径は後から変えられない。増産計画があるなら今のうちに太くしておく
  • 下限も見る:太くしすぎると低負荷でウィーピングやぬれ不足に入る。上だけ見て決めない

4. 塔径を出す

設計空塔速度が決まれば、あとは割り算です。

断面積 A = 蒸気の体積流量 QV / 設計空塔速度 → 塔径 D = √(4A/π)

上の例(Us,flood = 1.3 m/s)で蒸気5 m³/sを流すとすると、

フラッディングの何%設計空塔速度塔径
50%0.65 m/s3.13 m
70%0.91 m/s2.64 m
80%1.04 m/s2.47 m

50%と80%で塔径が3.13 mと2.47 m。径が1.27倍違うと断面積は1.6倍で、塔本体のコストに直結します。マージンの取り方が金額に直結するのがこの判断です。

ここは系の物性で数字がまるごと変わるところなので、下のツールで自分の系を入れてみてください。何%で運転するかを動かすと塔径と断面積がどう動くか、そのとき蒸気量が何倍まで振れたらフラッディングするかが同時に出ます。

塔径とマージンの取り方

限界のキャパシティファクタ Cs は相関図から読む値なので、ここでは入力です。フラッディング速度の何%で運転するかを動かすと、塔径と断面積、そして負荷の振れ余地がどう変わるかが出ます。

※ 限界Csは充填物・トレイ形式ごとの相関図から、フローパラメータを横軸にして読む値です。このツールは相関図を再現していません。採用する内部構造のメーカー資料または便覧の図から読んだ値を入れてください。負荷の振れ余地は上限(フラッディング)だけの話で、下限のウィーピング・ぬれ不足は別に確認が要ります。

なお実際の塔は上下で蒸気量が違うことに注意してください。フィード段の上下、サイドカットの前後で負荷が変わるので、最も蒸気量の多い断面で径を決めるのが原則です。差が大きい塔では、途中で径を変える(段付き塔)ことも検討します。

まとめ

塔径はフラッディング速度から決まります。キャパシティファクタCsで密度の違いを吸収し、フローパラメータを横軸にした相関図から限界Csを読み、Usに戻す。そこに系に応じたマージンを取って設計速度とし、蒸気の体積流量を割れば断面積が出ます。マージンの取り方はそのままコストに響くので、発泡性・負荷変動・将来の増産を見て決めてください。

次の記事:フラッディングとウィーピング|安定運転域はどう決まるか

参考文献

  • 大江修造『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2008, 第4章(キャパシティファクタの定義と規則充填塔のフラッディング点。相関図の出典は L. Spiegel, W. Meier, I. Chem. E. Symp. ser. 104, p.A203, 1987) Amazonで見る
  • 『プロセス設計シリーズ1 プロセス設計概論』化学工業社(吸収塔の設計例。フラッディング速度の40〜50%以下で塔径を決める考え方)
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第9章(キャパシティファクターの定義) 最新版をAmazonで見る

※ 計算例は文献の数値を用いた検算値です。実際の設計では系の物性と、採用する充填物・トレイの相関図を用いてください。