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最小還流比が「段数を無限にしたときの還流比の下限」なら、その反対側もあります。還流比を無限にしたときの段数の下限——最小理論段数です。
これを求めるのがFenske(フェンスケ)式。作図なしで、電卓一つで出ます。設計の初期に「この分離、最低でも何段いるのか」を掴むための道具です。
この記事は蒸留シリーズ「蒸留計算」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。
この記事の結論
- 全還流=製品を抜かず全部戻す運転。操作線が対角線と一致し、階段が最も粗くなる
- Fenske式:Nmin = ln[(xD/(1−xD))·((1−xB)/xB)] / ln α
- αは塔頂と塔底の幾何平均を使う。αが塔内で大きく変わる非理想系には使えない
- リボイラを段に数えるかで1段ずれる。文献の式に「−1」が付いているかを必ず確認する
1. 全還流とは何をしている運転か

全還流(total reflux)は、塔頂の凝縮液を全部塔に戻し、製品を一切抜かない運転です。同時に塔底からも抜かず、原料も入れません。塔の中だけで気液が循環している状態です。
製品が取れないので生産運転としては無意味ですが、実は現場でよく使われます。スタートアップで塔内の組成分布を作るとき、そして塔の性能試験のときです。
計算上のご利益は、操作線が単純になることです。抜き出しがないので上がる蒸気量と下りる液量が等しくなり、操作線の傾きが1、つまり対角線と一致します。
操作線が対角線にあるということは、平衡曲線との隙間が最大になるということ。階段が最も粗くなり、段数が最小になります。これが最小理論段数 Nmin です。
2. Fenske式
全還流での階段を数え上げると、対数の形で閉じた式が得られます。
Nmin = ln[(xD/(1−xD)) × ((1−xB)/xB)] / ln α
括弧の中は「塔頂での軽質/重質の比」×「塔底での重質/軽質の比」で、分離の厳しさを表す数字です。これが大きいほど、そしてαが1に近いほど、段数が要る。式の形が分離の難易度をそのまま表しています。
計算例:xD = 0.95、xB = 0.05、α = 2.4
- 括弧の中:(0.95/0.05) × (0.95/0.05) = 19 × 19 = 361
- Nmin = ln(361) / ln(2.4) = 5.889 / 0.8755 = 6.73段
この分離は、還流を無限に回しても7段は必要ということです。実際の設計ではMcCabe-Thiele作図で13段でしたから、有限の還流比で運転する代償としておよそ倍の段数を積んでいることになります。
3. αの取り方と、使えない系
Fenske式のαは1つの値ですが、実際のαは塔頂(低温)と塔底(高温)で違います。便覧は塔頂と塔底のαの幾何平均を使うとしています。
α = √(α塔頂 × α塔底)
そのうえで便覧は、「フェンスキの式は、塔内を通じて相対揮発度の変化の大きい非理想系に適用できない」とはっきり書いています。αが塔頂と塔底で数倍違うような系では、幾何平均で代表させること自体に無理があるためです。
その場合は、全還流の条件(操作線=対角線)で階段作図をして Nmin を求めることになります。式が使えなくても、作図なら使えるわけです。
4. 「1段ずれる」問題に注意
Fenske式を文献で見比べると、末尾に「−1」が付いているものと付いていないものがあります。化学工学便覧の式(9・51)は −1 が付いた形です。
これは間違いではなく、リボイラを段として数えるかどうかの違いです。リボイラは塔の外にある熱交換器ですが、そこでも液が沸騰して気液平衡が成立するので、理論段1段として働きます。
- −1なし:リボイラを含む理論段数(上の計算例の6.73はこちら)
- −1あり:塔内に必要な段数(リボイラを除く。6.73 − 1 = 5.73)
1段の差は小さく見えますが、段効率で割り増しすると実段では2〜3段の差になります。メーカーとやり取りする段数が「リボイラ込みか」は、仕様書で必ず揃えるべき項目です。同じ理由で、コンデンサを全縮器にするか分縮器にするかでも段の数え方が変わります。
下のツールは「−1」の有無を常に両方出します。それより効くのが2つのαスライダーで、塔頂と塔底を離すと幾何平均で代表させることがどれだけ乱暴かが見えます。α=4.0と1.5の系なら、Nminは4.25段とも14.52段とも言える。幾何平均の6.57段はその間のどこかにすぎません。便覧が「非理想系に適用できない」と書いているのは、この状態のことです。
Fenske式|最小理論段数と、2つの落とし穴
Nmin = ln[(xD/(1−xD))·((1−xB)/xB)] / ln α。リボイラを数えるかで1ずれる問題と、αを幾何平均で代表させる無理——本文の2つの注意点を数字にします。
※ 全還流(製品を抜かない)での最小段数です。実際の設計では有限の還流比で運転するので、これよりずっと多くの段が要ります。便覧は「フェンスキの式は、塔内を通じて相対揮発度の変化の大きい非理想系に適用できない」と明記しています。αの振れが大きい系では、この式ではなく全還流での階段作図で求めてください。
まとめ
全還流は操作線が対角線と一致する運転で、そのときの段数が最小理論段数です。Fenske式で電卓計算でき、分離の下限を素早く掴めます。αは塔頂・塔底の幾何平均を使い、αの変化が大きい非理想系には適用できません。そして文献ごとの「−1」の有無、つまりリボイラを数に入れるかは必ず確認してください。
次の記事:実際の還流比はどう決めるか
参考文献
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第9章「蒸留」9・5・4 全還流操作の解法(Fenske式・幾何平均α・非理想系への適用不可) 最新版をAmazonで見る
- Fenske, M. R.: Ind. Eng. Chem., 24, 482 (1932)
- 大江修造『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2008
※ 計算例は α を一定とみなした理想系での値です。
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