※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

流速を上げれば熱交換器は小さくなる?
許容圧力損失ってどう決めるの?
そんな悩みを解決します。
・流速を2倍にすると h・ΔP・動力がそれぞれ何倍になるか
・U の改善が h の改善より小さくなる理由
・許容圧力損失の決まり方と、流速の下限・上限

私の仕事は化学プラントの設計です。
その経験をもとに分かりやすく解説します。
熱交換器を小さくしたければ、流速を上げればよい。乱流が強くなって熱伝達率が上がり、同じ熱量をより少ない面積で交換できます。
ところが、そう単純にはいきません。流速を上げると圧力損失が増え、ポンプ動力が増えるからです。しかも、その増え方は伝熱の改善よりずっと急です。
・乱流域で流速を2倍にすると、熱伝達率は1.7倍、圧力損失は3.4倍、ポンプ動力は6.7倍になります。
・伝熱の改善より圧力損失の悪化のほうが圧倒的に速い。だから最適流速は必ず存在します。
・許容圧力損失は「使える圧力」から決まります。設計者が自由に決められる値ではありません。
・流速には下限もあります。汚れとエロージョンに挟まれた範囲の中で選ぶことになります。
流速を変えると何が変わるか
乱流域における関係を整理します。
熱伝達率
Dittus-Boelter の式から Nu = 0.023 Re0.8 Prn。Re は流速に比例するので
$$h∝u^{0.8}$$
圧力損失
管内の圧力損失は次式で表されます。
$$ΔP=f\frac{L}{d}\frac{ρu^2}{2}$$
管摩擦係数 f は乱流域で f ∝ Re−0.25(ブラジウスの式)なので
$$ΔP∝u^{-0.25}×u^2=u^{1.75}$$
ポンプ動力
動力は「圧力損失 × 体積流量」です。体積流量は流速に比例するので
$$P∝ΔP×u∝u^{1.75}×u=u^{2.75}$$
流速を2倍にすると
| 項目 | 比例関係 | 流速2倍のとき |
|---|---|---|
| 熱伝達率 h | u0.8 | 1.74倍 |
| 圧力損失 ΔP | u1.75 | 3.36倍 |
| ポンプ動力 | u2.75 | 6.73倍 |
なぜ「U の改善は h の改善より小さい」のか
前提として、U は熱抵抗の直列和の逆数です。チューブ側の流速を上げても、変わるのは (1/hi) の項だけです。他の項は変わりません。
具体例
外面基準の熱抵抗が次のように分布している熱交換器を考えます(U = 418 W/(m2・K))。
| 項 | 熱抵抗[m2・K/W] | 割合 |
|---|---|---|
| シェル側 境膜 | 1.250 × 10−3 | 52.3% |
| シェル側 汚れ | 2.000 × 10−4 | 8.4% |
| 管壁 | 1.133 × 10−4 | 4.7% |
| チューブ側 汚れ | 4.233 × 10−4 | 17.7% |
| チューブ側 境膜 | 4.032 × 10−4 | 16.9% |
| 合計 | 2.390 × 10−3 | 100% |
チューブ側の流速を2倍にすると、hi は1.74倍になり、チューブ側境膜の抵抗は 4.032 → 2.318 × 10−4 に下がります。
$$合計=2.390×10^{-3}−4.032×10^{-4}+2.318×10^{-4}=2.218×10^{-3}$$
$$U=451\ W/(m^2・K)$$
U の改善は 418 → 451、わずか8%です。
・流速2倍 → h は74%改善
・しかし U は8%しか改善しない
・一方でポンプ動力は573%増える
許容圧力損失はどう決まるか
許容圧力損失は、設計者の好みで決める値ではありません。系統の圧力収支から決まります。
考え方
ポンプの吐出圧から、次のものを差し引いていきます。
・配管の摩擦損失
・立ち上がりの静水頭
・調節弁の必要差圧(開度制御のために必要)
・オリフィスなど計器類の損失
・熱交換器以外の機器の損失
残った分が熱交換器に配分できる圧力です。つまり、熱交換器の許容圧力損失は「系統の中で余っている圧力」であって、熱交換器の都合で決まるものではありません。
一般的な目安
| 流体の状態 | 許容圧力損失の目安 |
|---|---|
| 液体(ポンプ輸送、一般) | 30 〜 70 kPa |
| 液体(高粘度) | 70 〜 150 kPa |
| 気体(常圧付近) | 3 〜 7 kPa |
| 気体(真空系) | 0.5 〜 2 kPa |
| 自然循環系(サーモサイフォンなど) | 数 kPa 以下 |
気体系と真空系は特に厳しい
気体の許容圧力損失が液体の1/10なのは、圧縮動力が高くつくからです。同じ圧力損失でも、気体を昇圧するコストは液体の比ではありません。
真空系はさらに厳しくなります。真空蒸留塔の塔頂コンデンサでは、圧力損失が数百 Pa 増えるだけで塔底温度が上がり、熱分解や重合が起きることがあります。ここは伝熱性能より圧力損失が優先される典型例です。
自然循環のサーモサイフォンリボイラも同様で、循環の駆動力が液柱の密度差しかないため、圧力損失をほとんど許容できません。
流速には下限もある
トレードオフというと「速いほど伝熱が良く、遅いほど動力が小さい」と考えがちですが、遅すぎるのも問題です。
下限:汚れ
流速が低いと、懸濁物が沈降し、付着物が流されずに堆積します。
冷却水の場合、チューブ側で 1 m/s を下回らないようにするのが一般的な目安です。1.5 m/s 以上あればより安心です。
シェル側も同様で、バッフル間隔が広すぎて流速が落ちると、バッフルの陰に淀み(デッドゾーン)ができて局所的に汚れます。
上限:エロージョン
流速が高すぎると、流体や含有粒子によって管内面が削られます。とくに入口部で激しくなります。
| 材質 | 許容流速の目安[m/s] |
|---|---|
| 銅・銅合金 | 1.5 〜 2.0 |
| 炭素鋼 | 2 〜 3 |
| ステンレス鋼 | 3 〜 4 |
| チタン | 4 〜 5 |
上限:振動
シェル側の流速が高いと、管束が流力振動を起こします。カルマン渦による共振、乱流バフェッティング、流体弾性不安定などの機構があり、共振すると短期間で管が破断します。
振動の照査はメーカーの領域ですが、「シェル側流速を上げてほしい」と要求するときは、振動の観点で問題ないかを確認してもらってください。
実務での進め方
ユーザー側が決めること
・許容圧力損失(系統の圧力収支から)
・流体の性状(汚れやすさ、固形分の有無、腐食性)
・材質の制約
メーカーが決めること
・チューブ径・本数・パス数(=チューブ側流速)
・バッフル間隔・切欠き率(=シェル側流速)
・その結果としての圧力損失と伝熱性能
提案を評価するときの確認点
・圧力損失が許容値の範囲に収まっているか
・収まっているとして、余裕がありすぎないか(余裕がある=流速が低い=汚れやすい)
・チューブ側流速が 1 m/s を下回っていないか
・律速している側の流速が確保されているか
まとめ
・乱流域で流速2倍にすると、h は1.74倍、ΔP は3.36倍、ポンプ動力は6.73倍。
・U の改善は h の改善よりずっと小さい。律速していない側の流速を上げても効果は薄いです。
・許容圧力損失は系統の圧力収支から決まります。熱交換器の都合では決められません。
・気体系は液体系の1/10、真空系と自然循環系はさらに厳しい。
・流速には下限(汚れ)と上限(エロージョン・振動)があります。液体で 1 〜 3 m/s が常識的な範囲です。
・提案評価では「圧力損失に余裕がありすぎないか」も見ます。余裕は流速の低さ、つまり汚れやすさの裏返しです。
化学プラント大全 
