配管の設計や保全において、避けて通れない課題が「腐食」です。 今回は、腐食という現象を単なる劣化としてではなく、論理的な「電気化学・物理メカニズム」として捉え直し、適切な防食設計を行うための基礎知識と実践的な対策について解説します。
プラントの安全を支えるために、腐食のメカニズムを正しく理解していきましょう。
1. 腐食の根源:なぜ鉄は錆びるのか?

なぜ鉄は放っておくと錆びてしまうのでしょうか。 その答えは、自然の摂理にあります。鉄の原料である鉄鉱石(酸化物)の状態が、エネルギー的に最も安定しているからです。
精錬された鉄は、膨大な熱エネルギーを加えられた「不安定な状態」にあります。そのため、酸素と結びつき、元の安定した姿(錆)に戻ろうとするのです。配管エンジニアの仕事は、この自然な回帰現象を技術の力でいかに遅らせるかという戦いでもあります。
腐食の電気化学的メカニズム

水が関与する腐食は、一種の「電池」と同じ反応です。これには以下の4つの要素が必要です。
- アノード(電子を出す極)とカソード(受ける極)の間の電位差
- 電解質(水などイオンが移動する媒体)
- 導通(電子が流れる金属同士の繋がり)
- 反応物質(酸素など)
アノードで鉄が溶け出し、放出された電子が金属内を通ってカソードへ移動し、そこで酸素と反応します。この電気回路のどこか一箇所でも遮断できれば、腐食は止まります。
異種金属接触腐食と分極

腐食のしやすさは金属の種類(電位)で決まります。マグネシウムや亜鉛は腐食しやすく(卑な金属)、金や白金は腐食しにくい(貴な金属)性質があります。
ここで重要なのが異種金属の接触です。例えば、炭素鋼とステンレス鋼を直接繋ぐと、炭素鋼がアノードとなり腐食が激しく加速します。

また、腐食のスピードを決めるのが「分極」です。反応物質である酸素を減らし、カソード分極を大きくすることで、腐食速度を下げることが可能です。
2. ステンレス鋼で注意すべき「静的・化学的腐食」
ステンレス鋼は錆びにくい材料ですが、条件によっては深刻な腐食が発生します。
孔食(こうしょく)

ステンレス鋼表面の不動態被膜が、塩化物イオン(Cl-)などによって局所的に破壊される現象です。 穴の内部では酸素不足と酸性化が進み、深部へと腐食が加速します。外見は綺麗でも、針で刺したような深い穴が貫通する恐ろしい現象です。
隙間腐食

フランジ面やガスケットの隙間など、水が停滞する場所で発生します。 隙間内は酸素が供給されにくいため、「外側=酸素豊富(カソード)」「内側=酸素不足(アノード)」という電池が形成され、内部が集中して腐食します。
応力腐食割れ(SCC)

プラントで最も警戒すべきトラブルの一つです。以下の3要素が重なった時に発生します。
- 材料の感受性
- 環境(塩化物や高温など)
- 引張応力(運転圧力や溶接残留応力)
これら3つのうち、どれか1つでも排除できればSCCは防げます。 特に溶接部では、熱によってクロムが炭素と結びつき、耐食性が低下する「鋭敏化」が起こりやすくなります。これを防ぐには、炭素を極限まで減らした「Lグレード」のステンレス鋼を選ぶことが有効です。
3. 流体が影響する「動的・物理的腐食」
流体の動きが物理的に影響を与える腐食もあります。
流れ加速型腐食(FAC)
炭素鋼表面の保護膜(マグネタイト)が高速な流れで物理的に削られ、同時に化学的に溶け出す現象です。特に150℃~180℃の温度域で激しくなります。 対策として最も効果的なのが材料の選定です。鋼材にわずか0.1%のクロムを加えるだけで劇的に改善し、1.0%あればほぼゼロになります。FAC懸念箇所には低合金鋼を使うのが定石です。
エロージョン・キャビテーション
- エロージョン:砂や液滴が高速衝突して表面を削る現象。
- キャビテーション:圧力低下で生じた気泡が潰れる際の衝撃波が金属を破壊する現象。 これらは配管形状やバルブ選定のミスによる機械的な破壊に近い性質を持ちます。
本材腐食(CUI)

現場の悩みの種となるのがCUIです。保温材の隙間から雨水が侵入し、内部で濃縮されて外面腐食を引き起こします。外から見えないため発見が遅れやすく、外面塗装の徹底や防水施工が極めて重要です。
4. 実践的な防食技術と設計
理論を踏まえた上で、具体的な対策を見ていきましょう。
電気的絶縁

異種金属接触腐食を防ぐシンプルかつ確実な方法は、電気的な繋がりを断つことです。絶縁ガスケット、絶縁スリーブ、絶縁ワッシャーを用いた「絶縁フランジキット」を使用し、腐食回路を物理的に遮断します。
電気防食(流電陽極法)

守りたい配管に強制的に電子を送り込む方法です。配管より卑な金属(亜鉛やマグネシウム)を「犠牲陽極」として接続し、それらが身代わりに溶けることで配管を守ります。埋設配管などで多用されます。
環境制御と材料選定

- 材料選定:安価な炭素鋼、FAC対策の低合金鋼、耐食性のステンレス鋼、SCC対策のLグレードなど、適材適所の判断が必要です。
- 環境制御:ボイラ水のpH調整や、脱気器での酸素除去により、金属を腐食しない領域(不感域や不動態域)に留める管理も重要です。
配管設計上の工夫

- 流速管理:エロージョンやFACを抑制。
- 形状設計:急な曲がりを避け、乱流を抑える。
- ドレン対策:ドレンポケット設置で液的衝撃を防ぐ。
- CUI対策:保温外装の防水と水抜き穴の設置。
まとめ
腐食は「運が悪かった」で済まされるものではなく、電気化学や物理作用による論理的な現象です。
設計時には、まずその腐食が「静的」か「動的」かを正しく診断しましょう。その上で、「回路を断つ」「電位を下げる」「耐食材料を選ぶ」といった原則に基づいた対策を講じることが、プラントの安全と寿命を支える鍵となります。
参考文献
本記事の解説内容は、以下の書籍・資料を参考にしています。
化学プラント大全 