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DCS の MV は 50% なのに、現場の開度計は 45% を指している。こういうずれは、調節弁のステムにかかる摩擦と流体の力が、空気圧とスプリングの釣り合いを崩すために起きます。ポジショナは実際の開度を測って空気圧を足し引きし、このずれを 1% 程度まで詰める機器です。
ポジショナ自体も弁の中にある小さな制御ループなので、ゼロ・スパン・ゲインの調整が狂うと、シート漏れやハンチングの原因になります。スマートポジショナは開度と空気圧を記録し、摩擦の増え方やスティックスリップ(引っかかっては急に動く動き)の兆候を運転中に知らせます。
この記事では、開度がずれる理由、ポジショナの調整項目、スプリットレンジ、スマートポジショナの診断、そしてハンチングとスティックスリップを現場のトレンドで見分ける手順を説明します。ポジショナの基本構造は調節弁のしくみの記事で扱っています。
この記事の結論
- ステムには空気圧の力、スプリングの力、グランドパッキンの摩擦、流体の力がかかる。摩擦は上げと下げで向きが変わるので、ポジショナなしでは指令と開度が行きと帰りでずれる
- ダイアフラム式操作器だけなら 精度 4〜5%、ヒステリシス 2〜3%。ポジショナを付けると 1% 程度 になる
- 調節弁には一般に 1% 程度の不感帯 があり、それより小さい指令変化には追従しない
- 調整の基本は ゼロ(全閉点)・スパン(全開点)・ゲイン。全閉点がずれるとシート漏れ、ゲインが大きすぎるとハンチングになる
- スマートポジショナは、動いた距離・全閉回数・開度の偏差などを積算して、パッキンやダイアフラムの劣化、固着を運転中に検知 できる
- 見分けの第一歩は 手動で出力を固定する。それでも開度が動き続ければ弁側のハンチング。自動で MV はなめらかなのに開度が止まっては跳ぶ ならスティックスリップ
1. 指令 50% なのに開度が 45% で止まる理由
調節弁のステムには、4つの力がかかっています。調節弁ハンドブックは、運転中の弁軸に働く力を次のように整理しています。

| 力 | どこから来るか | 開度との関係 |
| 駆動力 | 操作器(ダイアフラム)にかかる空気圧 | 空気圧に比例 |
| ばね力 | 操作器の中のスプリング | 開度に連動して変わる |
| パッキン摩擦力 | 流体をシールしているグランドパッキン | 動く向きと逆向きにかかる |
| 流体力 | 弁の中を流れる流体がプラグを押す力 | 差圧と流量で変わる |
ポジショナがなければ、調節計の信号をそのまま空気圧にして操作器に入れるだけです。空気圧の力とばね力だけなら開度は信号どおりに決まりますが、摩擦と流体力が加わると釣り合う位置がずれます。
特に効くのが摩擦です。摩擦は動く向きと逆にかかるので、弁を開ける方向に動かしてきたときは手前で止まり、閉める方向に動かしてきたときは反対側で止まります。同じ指令 50% でも、行きと帰りで開度が違う。これがヒステリシス(行きと帰りのずれ)です。
ハンドブックの値では、ダイアフラム式操作器だけの場合は 精度 4〜5%、ヒステリシス 2〜3%、シリンダ式では精度・ヒステリシスとも 5% 以上です。指令 50% で開度が 45% というのは、ポジショナのない弁なら起こりうる範囲です。ポジショナを付けると 1% 程度まで改善 します。
もう1つ知っておきたいのが不感帯(指令を少し動かしても弁が反応しない幅)です。ハンドブックは、調節弁には摩擦に起因する非線形要素があり、一般に 1% 程度の不感帯があって、それ以上の変化がないと追従しないと書いています。調節計の MV が 0.3% ずつ動いているのに開度が変わらないのは、故障とは限りません。
2. ポジショナは弁の中の小さな制御ループ
ポジショナは、ステムの位置をフィードバックレバーで拾い、調節計からの信号と比べて、差がゼロになるまで操作器の空気を給気・排気します。DCS の 4〜20 mA を受ける電空ポジショナでは、信号電流でノズルとフラッパの隙間が変わり、ノズル背圧をパイロットリレーで増幅して操作器に送ります。弁が動くとフィードバックスプリングが引かれ、信号の力と釣り合った位置でプラグが止まります。
つまり、調節計のループの内側に、開度だけを合わせる小さなループがもう1つあります。ハンドブックも、調節弁は通常ポジショナを中心としたフィードバック制御ループを構成していると書いています。小さなループなので、ゲインを上げれば追従は速くなり、上げすぎれば揺れます。これが後の調整とハンチングの話につながります。
速さの目安もあります。ハンドブックは、ループを構成する機器はループ全体の時定数より5倍以上速く応答する必要があり、そのうち調節弁が最も遅い機器であることが多いとしています。流量・圧力制御なら、ステップ応答時間(最終値の 86.5% に達するまでの時間)が 1 秒以内なら十分とされています。
ポジショナが要るかどうかは、計装の教科書に目安があります。空気式調節計なら、弁までの距離が 30 m 以内で口径 2B 以下の小口径ならポジショナは不要、30 m 以上離れているか口径 3B 以上なら必要です。DCS のように信号が電流の場合は、電空ポジショナか電空変換器をすべての弁に組み合わせます。電動弁に組み合わせる電電ポジショナは調節弁以外の操作端で説明しています。
3. ポジショナの調整|ゼロ・スパン・ゲイン・スプリットレンジ
ポジショナの調整は、次の3つが基本です。

| 調整 | 何を合わせるか | 狂うと何が起きるか |
| ゼロ | 信号 0%(4 mA)で全閉になる位置 | 全閉信号でも弁が閉まり切らず、シート漏れが増える |
| スパン | 信号 100%(20 mA)で全開になる位置 | 全開まで開かない、または途中で開き切る |
| ゲイン(感度) | 指令と開度の差に対して空気をどれだけ強く出し入れするか | 大きすぎるとハンチング。小さすぎると小さな指令変化に遅れる |
ハンドブックの弁座漏洩の表には、ポジショナ側の要因として、出力シフト、供給空気圧の低下、全閉点の調整不備、特性カムの磨耗が挙がっています。故障の原因と対策の表にも、全閉信号なのに内弁の漏れが多いときの原因として「全閉位置の調整ズレ」があり、対策は再調整です。シート漏れを疑ったら、弁を開ける前にポジショナの全閉点を確かめるのが順序です。
アナログ式の電空ポジショナは、ゼロ調整ねじとスパン調整ねじで合わせます。スマートポジショナは、外部のゼロ・スパン調整機構でドライバー1本で調整でき、ゼロとスパンが互いに干渉しません。取り付けた操作器の仕様を認識して設定と調整を自動で行うオートセットアップ機能もあります。
スプリットレンジ(1つの信号を2台の弁で分担する使い方)もポジショナで作ります。ハンドブックの例では、小口径弁を 4〜12 mA で全閉から全開、大口径弁を 12〜20 mA で全閉から全開にして並列に置き、制御できる流量の幅を広げます。切り替わる点では、小弁が全開になる前に大弁が開き始めるよう、少し重ねたほうが制御の結果がよいとされています。ただし、大きい弁の弁座漏洩量が制御できる最小流量を決めてしまうので、大弁の締切性能にも注意が要ります。
調整したあとは、信号を 0・25・50・75・100% と振って開度計と照合し、行きと帰りの両方向で確かめます。1% 程度の小さなステップを入れて、追従するか、行き過ぎないかを見るのも有効です。ハンドブックは 1% ステップの応答で弁の動特性を評価する方法を紹介しています。
4. スマートポジショナの診断|開度と空気圧を見張る
マイクロコンピュータを内蔵したスマートポジショナは、開度を合わせるだけでなく、弁の状態を記録して知らせます。ハンドブックが挙げる特徴は、遠隔から開度を確認できるトラベル発信機能と、ポジショナ自身と調節弁の健全性を発信する調節弁診断です。流量特性の変更やスプリットレンジもソフトウェアで設定できます。
診断の考え方は2つあります。1つは操作器の空気圧と開度の関係を見張る方法です。健全な弁なら、開度と流体の圧力・流量から、操作器に要る空気圧を計算で推定できます。実測がその推定から外れれば、ステムの曲がりやかじり、空気漏れなどを疑えます。ハンドブックの検証では、流体の力を考慮すると推定の誤差が 30% から 6% に縮み、軽い変化を捉えやすくなりました。
もう1つは動き方を見張る方法で、スティックスリップの検出に使います。引っかかった弁が滑り出すときのステムの速さは、普段の応答よりはるかに速いので、ステムの速さの分布に偏りが出ます。これを運転中に数えて、軽いうちに見つけます。
ハンドブックの劣化診断の事例から、現場で役に立つものを抜き出します。
| 項目 | 使うデータ | 分かること |
| 摺動距離積算 | ステムが動いた距離の合計 | ダイアフラム・グランドパッキンの寿命や磨耗の推定 |
| 全閉頻度累積 | 全閉になった回数 | プラグ・シートリングのエロージョン損傷の推定 |
| 弁開度別滞在頻度 | 開度ごとの滞在時間 | エロージョンの推定、配管閉塞の検出 |
| 弁軸作動速度比較 | 単位時間あたりの最大移動速度 | 空気漏れ、固着、ステムの曲がり、かじり |
| 弁開度偏差 | 信号と開度の差 | ポジショナと弁の可動部全体の寿命推定 |
定期修理の前に、この記録を引き出して開放点検する弁を選ぶと、点検の的が絞れます。
5. ハンチングとスティックスリップを見分ける
弁の開度が揺れているとき、原因は大きく3つです。調節計の設定によるループの揺れ、ポジショナを含む弁のハンチング、そしてスティックスリップです。対策がまったく違うので、先に見分けます。

手順1:調節計を手動にして出力を固定する。 ハンドブックは、弁のハンチングを「コントローラをマニュアルモードにして出力が一定でも、なお開度が変化し続ける現象」と定義し、この観察で区別できるとしています。出力一定でも開度が動き続ければ、弁側(ポジショナを含む)のハンチングです。
手順2:自動に戻して、MV と開度を同じトレンドに重ねる。 スティックスリップの弁は、手動で出力を固定すると止まっていることが多いので、手順1だけでは見逃します。自動で MV がなめらかに動いているのに、開度が止まっては急に跳ぶなら、スティックスリップです。ハンドブックは、スティックスリップが起きると制御が不安定になる可能性があると書いています。
手順3:原因に合った対策を選ぶ。
| 見え方 | 判断 | 主な対策 |
| 手動で止まる。MV と開度が一緒になめらかに揺れる | ループ側(PID の設定、上流の変動) | 調節計の調整、上流の確認 |
| 手動でも開度が動き続ける。周期 1 秒以上で停止域がある | 弁側のハンチング(摺動部の摩擦、ポジショナのゲイン過大) | パッキンの調整・交換、摺動部の清掃、ゲイン再調整 |
| 手動でも開度が動き続ける。周期 1 秒以下で直ちに反転する | 弁側のハンチング(空気容量、ゲイン過大) | 信号や出力の経路に絞り、ゲイン再調整、ノズル・フラッパの清掃 |
| MV はなめらか、開度は止まっては跳ぶ | スティックスリップ | グランドの締め過ぎを戻す、トリムの異物を除く、空気源の確認 |
スティックスリップを、ポジショナのゲインを上げて押し切ろうとしてはいけません。ゲインの上げすぎはそれ自体がハンチングの原因です。摩擦の元(パッキンの締め過ぎ、トリムへの異物噛み込み)を取るのが先です。波形の詳しい読み方は調節弁のトラブルと保全の記事、調節計側の切り分けは積分飽和とハンチングの記事で扱っています。
6. 現場で見る場所
- 開度計と MV:ヨークの開度指針と DCS の MV を、開ける方向と閉める方向の両方で比べる。差が片方向だけなら摩擦を疑う
- ポジショナの圧力計:供給空気圧と出力空気圧。出力が上限や下限に張り付いたまま開度が動かないなら、摩擦か流体力に負けている
- フィードバックレバー:ステムとの連結の緩み、曲がり。ここがずれると開度の検出そのものが狂う
- フィルタ付減圧弁:供給空気圧が足りているか、ドレンが溜まっていないか
- グランド部:増し締めの跡、漏れ。締めすぎは摩擦を増やし、ヒステリシスとスティックスリップの元になる
- スマートポジショナの記録:診断のアラームと、動いた距離・全閉回数・開度の偏差。異常を感じたら、トレンドの画面と時刻を一緒に残す
7. 先輩に聞かれたら答えられる3問
- ポジショナのないダイアフラム式調節弁の精度はどのくらいで、ポジショナを付けるとどうなりますか。
- スプリットレンジで小弁と大弁の切り替わり点は、どう調整するのがよいですか。
- 調節計を手動にして出力を固定したのに、開度が動き続けています。原因は弁側とループ側のどちらですか。
答えは順に、精度 4〜5%(ヒステリシス 2〜3%)が 1% 程度に改善する/小弁が全開になる前に大弁が開き始めるよう、少し重ねる/弁側(ポジショナを含む弁のハンチング)、です。
まとめ
指令と開度がずれるのは、ステムにかかる摩擦と流体の力が空気圧とスプリングの釣り合いを崩すからです。摩擦は動く向きで変わるので、行きと帰りでずれます。ポジショナは開度を測って空気を出し入れし、精度を 4〜5% から 1% 程度に上げますが、調節弁には 1% 程度の不感帯が残ります。
ポジショナの調整はゼロ・スパン・ゲインが基本で、全閉点のずれはシート漏れ、ゲインの上げすぎはハンチングを招きます。スマートポジショナの記録は、開放点検する弁を選ぶ材料になります。揺れの原因は、手動で出力を固定する、MV と開度を重ねる、の2つの手順で見分け、スティックスリップは摩擦の元を取り除いて直してください。
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参考文献
- 山武 調節弁ハンドブック編纂委員会編『工業プロセス用調節弁の実技ハンドブック 改訂第2版』日本工業出版, 第2章 2.2「調節弁の動特性」、第8章「バルブポジショナ」、第11章 11.1「トラブルの代表例とその解決方法」・表11.8・表11.14・表11.16、第12章 図12.7、第13章 13.3「調節弁の動作診断」図13.5・図13.6(図13.6は綴じ込み正誤表で追加) Amazonで見る
- 川村貞夫・石川洋次郎『メーカーの技術者が書いた やさしく計装がわかる 工業計測と制御の基礎』工業技術社, 3.1.3「操作端補助機器」【解説】ポジショナの使い方 Amazonで見る
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