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ここまでは2成分系で話を進めてきました。しかし現場の原料は、たいてい3成分以上の混合物です。
成分が増えるとx-y線図は描けなくなり、作図という手段が消えます。それでも設計の初期に段数と還流比の当たりを付けたい。そのための古典的な近道がキー成分という考え方とUnderwood(アンダーウッド)式です。
この記事は蒸留シリーズ「蒸留計算」の1本です。全体像は蒸留の完全ガイドにまとめています。
この記事の結論
- 多成分系は2つのキー成分(軽質キーと重質キー)に注目して2成分系のように扱う
- キーより軽い成分は塔頂へ、重い成分は塔底へほぼ全量行く(非分配成分)
- 最小段数はFenske、最小還流比はUnderwood、両者をつなぐのがGilliland相関
- これらは概算のための道具。本設計は段ごとに解く厳密計算(シミュレータ)で行う
1. キー成分|どの2つで塔を語るか

多成分系でも、1本の塔がやっていることは「どこかで軽い側と重い側を切り分ける」ことです。その切れ目を挟む2成分を選び、それで塔を代表させます。
- 軽質キー成分(LK):主に塔頂へ行かせたい成分のうち、最も重いもの
- 重質キー成分(HK):主に塔底へ残したい成分のうち、最も軽いもの
この2つが分離のいちばん厳しい相手同士です。塔の段数と還流比は、実質この2成分の分離で決まります。
そしてキーより軽い成分は塔頂へ、重い成分は塔底へほぼ全量行きます。これを非分配成分と呼び、計算上は「どちらへ行くか決まっている」ものとして扱えます。成分がいくつあっても、悩むのはキー2つだけ——これが多成分系を扱いやすくする発想です。
キーの選び方が製品仕様を決めることにも注意してください。「塔頂製品にHKが何%まで混ざってよいか」「塔底にLKが何%残ってよいか」——この2つが分離条件そのものになります。
2. 3つの式で概算する(FUG法)
キー成分を決めたら、2成分系と同じ枠組みで両端を押さえ、あいだを相関で埋めます。頭文字を取ってFUG法と呼ばれます。
| 手順 | 使う式 | 求まるもの |
| 1 | Fenske | 最小理論段数 Nmin(全還流) |
| 2 | Underwood | 最小還流比 Rmin(無限段) |
| 3 | Gilliland | 実際のRでの段数N(両端を結ぶ経験相関) |
Fenskeは2成分系と同じ式を、キー成分の組成比とキー間のαで使います。
Underwood式は2段階です。まず次式を満たすθを、LKとHKのαのあいだで解きます。
Σ αizF,i / (αi − θ) = 1 − q
得られたθを使って最小還流比を計算します。
Rmin + 1 = Σ αixD,i / (αi − θ)
形は取っつきにくいですが、やっていることは2成分系のピンチ条件の多成分版です。θは物理量ではなく、ピンチ状態を表す媒介変数だと思ってください。
最後にGilliland相関で、RminとNminから実際のRに対するNを読みます。ここは理論式ではなく、多数の実測をまとめた経験相関です。
3. 使うときの前提と限界
便覧は、この系統の計算法について明確な制約を挙げています。
- αが一定とみなせる理想系にのみ適用可能。塔内でαが大きく変わる系には使えない
- 等モル流量の仮定が置かれている。各部の気液のモル流量が一定とみなせること
つまりFUG法は概算のための道具です。使いどころは次のような場面になります。
- 構想段階で塔の規模感を掴む(何十段の塔になるのか、それとも百段規模か)
- 複数の分離順序(どの成分から切るか)を比較する
- シミュレータの結果が桁で妥当か検算する
最後の使い方は地味ですが重要です。シミュレータは入力を間違えても答えを返します。手計算の当たりを持っていることが、その答えを疑える唯一の足場になります。
4. 本設計は段ごとに解く
実際の設計では、各段について物質収支・気液平衡・エンタルピー収支を連立し、段の数だけ繰り返して解きます。手計算でやる規模ではなく、プロセスシミュレータの仕事です。
ユーザー側エンジニアがそこで持つべき視点は、計算そのものより入力の妥当性です。
- 熱力学モデルの選択:活量係数のモデルが系に合っているか。ここを外すと結果全体が無意味になる
- 気液平衡データの出どころ:推算値か実測値か。共沸近傍・高純度域は特に
- 微量成分の扱い:ppmレベルの成分が製品規格を決めることがある。キー成分の陰に隠れやすい
まとめ
多成分系は、軽質キーと重質キーの2成分に注目して2成分系のように扱います。キーより軽い成分は塔頂へ、重い成分は塔底へ行くので、悩むのはキー2つだけ。FenskeとUnderwoodで両端を押さえ、Gillilandで結ぶのがFUG法です。ただしαが一定の理想系に限られる概算法であり、本設計はシミュレータで段ごとに解きます。それでも手計算の当たりは、シミュレータの答えを疑うための足場になります。
これで第2章「蒸留計算」は完結です。第3章では、求めた段数をどんな塔で実現するか——トレイ塔と充填塔の選択、塔径の決め方に進みます。
参考文献
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第9章「蒸留」9・5 連続多段蒸留(Fenske式、最小還流操作の解法、αが一定の理想系にのみ適用可能との注記) 最新版をAmazonで見る
- Underwood, A. J. V.: Chem. Eng. Prog., 44, 603 (1948)
- 『プロセス設計シリーズ3 分解・加熱・蒸留を中心とする設計』化学工業社(非理想系での比揮発度の選び方)
※ Underwood式は広く用いられる標準形で記載しました。文献によって媒介変数の取り方が異なる場合があります。
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